大谷翔平 報復死球をぶつけられたのは「必然だった」MLB元通訳・小島一貴氏が明かす「やらなければ、相手投手が味方から責められる」

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笑顔を見せる大谷(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

エンゼルスvs.ホワイトソックス戦(日本時間9月17日)で、大谷翔平選手(27)への故意の報復死球をめぐり、MLBはマイク・ライトJr.投手(31)に3試合の出場停止処分を科すなど話題になっている。

9対3とエンゼルスが6点リードで迎えた最終回、二死走者なしという場面であり、ホワイトソックスは2日前の同じカードで3人の打者が死球を受けていた。ライトJr.投手とともに退場となったホワイトソックスのラルーサ監督は故意ではないと主張し、エンゼルスのマドン監督は明らかに故意だと主張している。

実際に映像を見た限り、ライトJr.投手は3球続けて大谷選手の下半身をめがけて投げているように見える。審判が死球の後、即座に集まって協議し、ライトJr.投手に対してすぐに退場の判断を下したことからも、故意の報復死球だったことは間違いないだろう。

もっとも、初球の88マイルの速球は「当てに行った」にしては甘いコースで、大谷選手もファウルにしており、最初からぶつけようとしていたのかは定かではない。初球の後になんらかの指示があったのかもしれない。2球めの速球がインコースのボールとなり、3球めにスライダーのような変化球をワンバウンドさせると、ライトJr.投手は悔しがるそぶりを見せた。

あくまで推測だが、球威がある速球よりも変化球で当てたかったのかもしれない。あるいは、1球で仕留めないと故意なのがバレてしまうからまずいと思ったのか。死球の後、大谷選手は痛がるそぶりもなく一塁に向かっていたが、90マイル(約144km)と表示されていたのでかなり痛かったのではないか。

日本のファンにもお馴染みになった感があるが、MLB、そしてマイナーリーグも含めた北米のプロ野球界では、こうした報復死球がしばしば見られる。自チームの打者に死球が多くなったり、相手チームがいわゆる不文律(アンリトゥン・ルール)を破ったりした場合、報復として死球を与えるものだ。

テキサス・レンジャースで伊良部秀輝投手の通訳をしていた2002年、大差で負けている試合の後半、相手打者が3ボール0ストライクから本塁打を放った。これは不文律に反するものであり、一塁に向かう打者に対してレンジャースベンチは「代償は払ってもらうぞ!」と声を荒げていた。次の打席では死球を与えるという意味だ。

迎えた次の打席でマウンドにいたのは伊良部投手だったが、状況がわからず当てようとしなかった。当時のルールでは、通訳はベンチに入れないので、投手コーチがベンチ裏の通路にいた私のもとへ慌ててやって来て「ぶつけろと叫べ!」と指示したのだが、叫ぶ前に打者が打ってしまった。

試合後に投手コーチと打撃コーチがやって来て、伊良部投手に説明をしてくれた。知らなかったのなら仕方がないが、次からは覚えておいてくれという程度で、叱られたというわけではなかった。

ただ、不文律違反は味方選手への侮辱行為と捉えられているため、知っててぶつけなかったのなら味方選手のメンツを守らない行為であると見なされ、厳重に注意されていただろう。

私はその前年、独立リーグの球団職員をしていたのだが、やはり報復死球の場面があった。前日の試合で両者とも死球が複数あったが、こちらのほうが多くの死球を受けて終わったという状況での試合。

試合前に審判団が両ベンチを訪れ、故意と思われる死球があれば即座に投手を退場にすると警告を発していた。自チームの先発投手はエースだったが、それでもかまわず相手の先頭打者に当てに行き、3球めで見事に(?)当てて即退場、抗議した監督も退場になった。

独立リーグとはいえ優勝争いをしている最中だったので、エースがたった3球で退場になるのはかなりの痛手だ。しかしそれでも、味方の選手が前日に多くぶつけられたことに対する報復をするという、いわばメンツを守ることに重きを置いたことになる。結果的にこの試合は落としたが、チームはなんとかリーグ優勝を果たした。

翻って大谷選手への死球の件、ホワイトソックスがなぜ3死球を食らった翌日に報復をしなかったのか、なぜ翌々日の最終回だったのか、もうおわかりかと思う。2位に大差をつけているとはいえ、ホワイトソックスはア・リーグ中地区の首位を走るチーム。

3死球の翌日の試合の先発は、2015年のサイ・ヤング投手であるダラス・カイケル投手だった。今季は防御率5点台とはいえ、戦力的にも早々に交代するのは痛い。それに3死球の翌日の初回などに死球を出せば、報復なのは見え見えだ。

ライトJr.投手なら交代してもかまわないということはないだろうが、試合がほぼ決まった最終回2死走者なしからなら、一塁に走者を出してもどうということはない。

さらに言えば、今回はたまたま大谷選手だったのだと思われる。打者が誰であれ、この試合展開で9回2死走者なしなら、ホワイトソックスは故意死球を与えただろう。

日本のファンから見れば、故意の報復死球など馬鹿げた風習に思えるだろう。ただ、チームメイトやメンツを守るための行為とされている以上、個々の選手がこれに抗うことは難しい。

投手コーチや監督にしてもそうだ。やらなければチームの協調は乱れてしまう。コミッショナー事務局が明確に禁止にでもしなければ、今後もMLBで報復死球がなくなることはないだろう。

文・元メジャーリーグ通訳、現MLB選手会公認代理人・小島一貴