トウモロコシとコメで「無罪」を勝ち取れる北朝鮮の公開裁判

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非社会主義・反社会主義行為とは、北朝鮮当局が社会主義にそぐわない、或いは社会主義に反すると考える、風紀紊乱行為のことを指す。その対象は広範囲にわたるが、中でもターゲットとされているのが韓流コンテンツの消費、拡散と、チャイナテレコムなどの中国キャリアの携帯電話の使用、韓国や中国で働く脱北者からの仕送りを北朝鮮に残してきた家族に伝える送金ブローカー業だ。

韓国にほど近い黄海南道(ファンヘナムド)の海州(ヘジュ)では、学生2人が韓流を流布した容疑で公開裁判を受けた。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、裁判にかけられたのは海州農業大学に通う21歳の学生2人だ。2人と裕福な家の出で、親が地方政府の幹部なのか、恐れることなく韓流コンテンツを視聴し、コピー、流布してきたという。また、青年同盟(社会主義愛国青年同盟)から求められる金品の供出や勤労動員をすべてカネで解決してきたことも、非社会主義行為として問題視された。

勤労動員をカネで免除するという手法は、北朝鮮各地で広く行われていることだが、2人が「重罪」を犯したということで、通常は問題にされないことまで槍玉にあげられたのだろう。

2人は反社会主義・非社会主義連合指揮部に逮捕され、4日午前10時に、大学の運動場で、市内主要機関の青年同盟の幹部、連合指揮部のメンバー3人、黄海南道保衛局(秘密警察)や安全部(警察署)の副部長が主席壇に座り、公開裁判を行った。

2人は韓流コンテンツをCDやUSBメモリにコピーして売りさばき、得た利益を飲み代で使い果たし、大学や青年同盟にカネを渡し、もみ消していたことが明らかにされた。裁判ではまた「南朝鮮(韓国)の映像を流布し、民心を撹乱し、大衆の思想的動揺を招く反動行為を行った」などと指摘し、「以前から組織が根強く思想教養を行ってきたが、ついに思想的に変質した」などと非難した。

さらに「敵どもはわれわれの社会主義を転覆させようと内部から青年を瓦解させ、反動思想文化を浸透させようとしている」「思想が変質すれば国をも売り渡す反逆者、売国奴になりうる」と激しく罵った。

2人に対して下された判決については明らかになっていないが、連合指揮部は韓流を見たことのある者に対して自首せよ、そうすれば許してやると布置(お触れ)を出した。

なお、この地域は韓国に非常に近く、韓国のテレビも直接受信できる。詳細は明らかにされていないものの、韓国側は北朝鮮で受信しやすいようにアナログ波での送信を続けており、当局がいくら禁止しても、少なからぬ住民が韓国からのナマの情報に釘付けになっているのだろう。

一方、咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)では、中国キャリアの携帯電話を使った9人に対する公開裁判が行われたと現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

裁判は先月27日午前10時に、会寧市文化会館の前で、動員された1000人もの市民が見守る中で行われた。

韓国や中国からの送金を請け負う送金ブローカー業を営んでいた男性3人、女性4人に対しては、保衛部に複数回摘発されるも見逃されていたが、改悛の情を見せず同じことを繰り返したとして、15年の労働教化刑(懲役刑)の判決が下された。

脱北して中国で働く娘を通じて、脱北者からの仕送りを北朝鮮にいる家族に手渡したことがバレ、保衛部に乗り込まれ自ら命を経とうとした者に対しては、7年の労働教化刑の判決が下された。

しかし、残りの1人の男性に対しては、本来なら懲役刑が言い渡されるところだが、罰金刑の次に軽い教養処理に減刑された。

彼は中国キャリアの携帯電話3台を持っていたが、保衛部に自首して、市内の鰲山徳洞(オサンドクトン)にある金正日総書記の母、金正淑(キム・ジョンスク)氏の生家の補修工事現場の労働者にトウモロコシ5トンとコメ2トンを支援したことで、「このように真心から改心する人には更生の機会を与える」(裁判官)ということだが、カネで事実上の無罪を勝ち取ったも同然と言えよう。