韓国、日常生活再開へ方向転換 1年半ぶりの全面登校【世界から】

 新型コロナによる混乱が始まって1年半。世界各地で先が見えない状況が続いているが、次の段階への模索も始まっている。韓国でも、ついに日常生活の再開へ方向転換する兆しが見え始めている。コロナとの共存はどのようになっていくのだろうか?(釜山在住ジャーナリスト、原美和子=共同通信特約)

登校する小、中学生。1年半ぶりの全面再開で朝のにぎやかな光景が戻ってきた=9月15日、韓国・釜山(筆者撮影)

 ▽旧盆の帰省は実質容認

 旧盆にあたる今年の秋夕(チュソク)は、週末をはさみ9月18~22日までの実質5連休。都市部から地方への帰省で毎年、高速道路が大渋滞し、高速列車が混雑する。「民族の大移動」と呼ばれるほどの国民的イベントだ。

 昨年からの新型コロナの影響で、政府はこれまで帰省の自粛や親族の集まりでの人数制限などを呼び掛けていた。しかし、今回の秋夕では親族の集まりは最大8人までと大幅な緩和が発表された。

 韓国でも日本とほぼ同時期の7月以降、「デルタ株」が流行。新規感染者が連日増加し、ソウルや釜山の都市部では警戒レベルが最高の「4」に引き上げられた。飲食店や遊興施設は営業の制限や短縮などを余儀なくされた。

 9月に入っても新規感染者の大幅な減少は見られなかったが、政府は警戒レベルを「3」に下げ、秋夕の帰省を実質容認する発表をした。この背景には、いまだに秋夕や旧正月が高齢者を中心に欠かせない行事であることや、長引く制限に不満の声が上がっていることなどがあるとみられている。

 高齢者にとっては喜ばしい今回の発表も、夫の実家に帰省しなくてはいけない女性たちにとっては、恨めしいものとなったようである。

スーパーの入り口で情報登録と検温チェックに並ぶ買い物客ら=9月3日、韓国・釜山(筆者撮影)

 ▽ワクチン接種を急ぐ政府

 韓国のワクチン接種率は1回目完了が人口の約64%で、2回目完了は約39%(9月11日現在)。政府は、社会的に活動量が多い世代の接種を急ぎたいとして、20~40代の接種を進めている。また以前から「秋までに集団免疫を獲得する」と強調。今月中に接種率を70%に引き上げるため、秋夕の連休前の接種を呼びかけている。

 実は筆者も、今月末ごろに1回目の接種を受ける予約を入れている。先日、「連休前でも接種ができる」と予約変更を勧めるメールが来て、少々驚かされた。

 韓国でも中、長期的なワクチンの確保は課題だ。接種しても感染する「ブレークスルー感染」(韓国では「突破感染」と呼ばれる)が確認されたり、接種関連と思われる後遺症や死亡について大統領府のホームページの「国民請願」に投稿されたりするなど、日本と状況が似通っているところがある。

 ワクチン接種については手探りで未知数の部分も多く、自国でのワクチン生産ができる国とできない国の差を痛感させられる。

7月、ソウルの検査施設で新型コロナウイルスの検査を受ける市民(共同)

 ▽1年半ぶりの全面登校

 日常生活の再開に向けて政府が打ち出した最大の案件が学校の全面的な登校再開だ。韓国では昨年3月からオンライン授業を導入。生徒数が多い学校は学年を分けて登校とオンライン授業を交互に行う方式をとってきた。日本では韓国のオンライン授業導入の早さに驚き、称賛する声も上がった。しかし、今年の学力試験の結果は過去最低を記録。長期的なオンライン授業の限界や影響が指摘され、登校授業を望む声が上がっていた。

 政府も「秋までの集団免疫獲得」とともに、「9月からの全面登校再開」を目標の一つに設定。いまだに新規感染者が出ている中、どのような判断を下すのか注目されていた。先日、警戒レベルを3に引き下げるとともに、秋夕連休の帰省緩和が発表されたことから、学校の全面登校再開にも期待が高まっていた。

 そしてソウルなど一部地域を除き、小学校から大学の登校授業が13日に全面再開された。ソウルなどでも10月までに順次再開する見込みだ。筆者も子どものオンライン授業が長期化する中で、学校に登校し教室で直接授業を受けることの重要性を痛感させられた。不安を抱えながらも、登校授業の全面再開にはおおむね歓迎ムードとなっている。

 こうしたことが起爆剤となり、今後、さらなる生活での規制緩和が広がるという見方もされている。感染の再拡大や、新たな変異株の発見など予断を許さない状況だが、少しずつでも日常生活が戻っていくことが望まれる。

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