ジャズ・スタンダード名曲ものがたり:ラウンド・ミッドナイト(セロニアス・モンク)

世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭

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【第15回】
ラウンド・ミッドナイト
Round Midnight
作曲:セロニアス・モンク、クーティ・ウィリアムス
作詞:バーニー・ハニゲン
1944年

ジャズ界には奇人変人が少なくありませんが、その筆頭格に挙げられるのがセロニアス・モンクでしょう。演奏中に突然踊り出す、何日も口をきかない、ベッドに寝転んだままインタビューを受ける…。その奇矯さは彼の音楽も同様。ずっこけそうになるリズムやミスタッチにしかきこえない和音、人を食ったようなオリジナル曲など、その世界はまさに唯一無二といっても過言ではありません。しかし一方でこの人は、他の誰も書けないような、優しく、温かく、切なく、美しい曲も数多く残しました。たとえばこの〈ラウンド・ミッドナイト〉。

モンクは10代の頃から優れた音楽の才能を発揮していましたが、先述した奇人ぶりとユニーク過ぎる音楽性がたたって、なかなか世に認められませんでした。〈ラウンド・ミッドナイト〉も、彼が19歳の時(1936年)に書いた作品だといわれていますが、最初に録音されたのは1944年。それも本人ではなく、クーティ・ウィリアムス楽団によって、でした(そこでピアノを弾いているのは彼の後輩のバド・パウエルです)。モンク自身の録音はさらにそれから3年後。曲が出来てからなんと11年が経っていました。

しかしなんといってもこれは曲自体が魅力的だったので、1度世に出てしまえばミュージシャンたちは好んで取り上げるようになります。ディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカー、スタン・ゲッツ等々…中でもこの曲のスタンダード化に大貢献したのがマイルス・デイヴィスです。

マイルスは1953年頃からこの曲をレパートリーにしていましたが、55年のニューポート・ジャズ際に出演した際の演奏が絶賛され、それを機にコロムビア・レコードと契約。その移籍第一弾としてリリースしたアルバム『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』の中の同曲は、歴史的名演として永くきき継がれることになり、同時にモンク作品の中でももっとも知られるナンバーとなったのです。

ところでこの曲、〈ラウンド・ミッドナイト〉と呼ばれたり〈ラウンド・アバウト・ミッドナイト〉と呼ばれたりしますが、なぜそういうことになったのか。当初モンクは“アバウト”を入れた曲名を使っていたのですが、バーニー・ハニゲンが歌詞を付ける際にうまく語呂が合わず取ってしまったのだとか。それが流布して、今では〈ラウンド・ミッドナイト〉と呼ばれることのほうが多くなってしまったということのようです。

●この名演をチェック!

セロニアス・モンク
アルバム『セロニアス・ヒムセルフ』(Riverside)収録

1947年のブルーノート盤以来モンクはたびたびこの曲を録音していますが、中でもソロ・ピアノによるこれは名演の呼び声高いもの。出すべき音を1つ1つ確かめるような思索的プレイは、この孤高の芸術家の魂を映し出しているかのようです。

<動画:Round Midnight by Thelonious Monk from 'Thelonious Himself'

ケニー・ドーハム
アルバム『カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム』(Blue Note)収録

ビバップ全盛期、一時はマイルスを凌ぐ人気を誇ったトランペッター、ケニー・ドーハムの名演。くすんだ空気の中に響くブルージーな演奏は、叙情的でドラマティックなマイルス版とはまた別の味わいをこの曲から引き出しています。

<動画:'Round Midnight (Set 3 / Live From Cafe Bohemia/1956)

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