成田凌☆「湯布院奇行」で初の朗読劇に挑戦! 「しっかりと心を動かして演じたい」

2021年は連続テレビ小説「おちょやん」でヒロインの相手役をはじめ、主演2作を含む映画4本が公開。また、この夏大ヒットした細田守監督のアニメーション映画「竜とそばかすの姫」でもメインキャラクターの久武忍の声を演じるなど、成田凌の活躍ぶりは枚挙にいとまがない。

その成田がこのほど初めて、朗読劇に挑むことに。燃え殻の原作を奇才・佐藤佐吉が脚色、黒木華とともに主演を務める。その作品「湯布院奇行」に臨むにあたっての心境や自身と旅の話など、ざっくばらんに語ってもらった。

──唐突ですが、成田さんはご自身の声に対して、どのような思いがありますか? ちなみに自分は成田さんの声は色気があって、すごく好きです。

「ありがとうございます。でも、子どもの頃からハスキーで、そんな自分の声が何か嫌だったんですよね。例えば、大きな滑り台がある公園で遊んでいて、周りの子たちは高いかわいい声でキャーキャー言っている中で、僕だけが“ア〜”って聞こえるんですよ。『凌だけ“ア〜”ってハスキーな声だよね』と、母親に言われたことがあって。でも、僕が気にしていることを感じとって、『でも、いいんだよ、その声のままで』ってフォローしてくれたんです。だけど、自分の声はハスキーなんだって刷り込まれちゃったところはありましたね。声変わりしたということを意識するような感じでもなく、自然と低い声にフェードインしていったんですけど、相変わらず自分の声はしばらく好きじゃなかったです。お芝居をするようになって、自分が出たドラマを見ると…何か場が沈むような感じがしちゃうんです、自分がしゃべった途端に。それはいまだに拭えないんですけど、それでも今回の『湯布院奇行』のような朗読劇であったり、細田守監督の『竜とそばかすの姫』に呼んでいただいたり、ナレーションをさせていただいたりと、声のお仕事のお話が来るのはなんでなんだろうって、自分では思っているところがあったりもするんですよね。ただ、自分がどう感じているかは置いておいて、呼んでいただいたからには全力で取り組ませていただこうと思っていて」

──そうだったんですね。ただ、朗読劇に関して言うと、お客さんを前に、舞台の上に立ちながら声でお芝居をするというスタイルになると思いますが、どうでしょうか、意気込みのほどは。

「初めての朗読劇なんですけど、黒木華さんが隣にいらっしゃって、土井裕泰さんが演出をしてくださって…何より脚本が素晴らしいので、不安よりは楽しみな気持ちが大きいです。それと、最近、細田監督の『竜とそばかす~』に久武忍役で参加させていただいた時に、『声で表現しよう』と意識するのではなくて、思うままに普段どおりのお芝居をして、心をセリフに乗せることが大事なんだなって感じました。心を乗せれば乗せるほど伝わるんだということを身をもって実感したので、今回の『湯布院~』でも声うんぬんじゃなく、当たり前のことなんですけど…しっかりと心を動かして演じたいですね」

──黒木さんとは映画「ビブリア古書堂の事件手帖」(18年)で、共演されていますね。

「僕が言うのもおこがましいんですけど、今回の黒木さんの役って、すごく難しいと思うんですよ。でも、黒木さんが演じられるという前提があると、スッと役をイメージできるんです。しかも、実際に舞台で対峙(たいじ)したら、間違いなくその想像を超えてくると思うので、それも今から楽しみで。以前、『ビブリア~』でご一緒した時、自然体でありながら、心を乗せた黒木さんのお芝居を目の当たりにして刺激を受けたので、今度はどんな感覚を味わえるのかなって、すごくワクワクしています」

──演出を手掛けられる土井裕泰さんとも、久しぶりの作品になりますね。

「そうですね、土井さんとは『逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ)』(16年)以来になるのかな? この何年かで成長したぶん、自分にどれほど余計なものがついてしまったのか──ふるいに掛けられるようなつもりで、作品の世界の中に飛び込もうと思っていて。と言うと、人任せのように思われてしまうかもしれないんですけど、稽古を進めていく中で、できるだけ余計なものを削ぎ落として、本番に臨めたらと思っています」

──燃え殻さんの原作を佐藤佐吉さんが脚色して、土井さんの演出で黒木さんと成田さんが舞台に立ち、さらにコムアイさんが歌うという座組だけで、食指が動きます。

「コムアイさんも歌を通じていろいろなことを表現されている方ですし、たくさんのチャレンジをして生きているという印象を抱いているので、どういう感じで歌を入れてくるのかがまた、個人的には楽しみで。この座組で『朗読劇』というスタイルに取り組むことも、大きな意味のあるチャレンジになっていくのではないかと。そんなふうにも思っているんです。原作者の燃え殻さんとお話をさせていただいた時、『余白』という言葉を多用されていらっしゃったんですけど、まさにその余白を生かせるのが朗読劇であって。その余白をお客さんそれぞれに埋める楽しみと言いますか、いろいろな解釈をする余地がある作品なので、好きなように、自由に捉えていただけたらいいなと思っています」

──ご時世的になかなか旅行へも行けませんが、こうした形で「心の旅」を楽しみたいものですよね。

「言ってみれば、この作品を体験するために、新国立劇場へ足を運んでいただくこと自体が“奇行”になるんじゃないか、なんていうふうにも考えていて。もちろん、きっかけは『温泉に行った気分に浸りたい』でも何でもいいんです。結果的に、妙な“沼”にはまる感覚を味わってもらえたら、僕としてはうれしいですね」

──その“奇行”というワードに関連づけまして、成田さんご自身の変わっている部分であったり、変わっている人だなと思われる周りの方のエピソードなどをお話いただければと思います。

「僕自身はそんなに変わっているところもないと言いますか…意外と普通なんですよ。『成田くんって意外と普通の人なんだね』って言われたら、ものすごく切ないですけど(笑)。でも、僕の周りには変わっている方がたくさんいらっしゃって。近々で言うと、一緒に映画を撮っていた井浦新さんですかね。宿泊するホテルの部屋に、持参した土偶を飾っている人を新さん以外に、僕は知りません!」

──井浦さんが美術に造詣が深いのはよく知られていますが、縄文時代のことにも詳しいですよね。

「撮影がちょっと早く終わった日があって、ホテルの部屋でちょっと話そうかっていうことになって訪ねたら、土偶が目に飛び込んできて。縄文時代の話をし始めたら止まらないんですよ。でも、そうやっていろいろなことに興味が向いているから、心動かされたものに対して純粋に『美しい』と言える人でもあるんです。『あれ、新さんどこ行ったの?』って捜してみたら、何か高いところに登っていらっしゃって。何だろうなと思って僕もハシゴを伝って登ってみたら、そこには澄んだように奇麗な空があったんです。なので…“変わっている”と言えば変わってはいるんですけど、新さんのように美しいものを心から美しいと言える人間は素晴らしいなって、あらためて思いました。空の話にしても、小さなことに気が付けるのってすてきじゃないですか。新さんと出会ったのは『ニワトリ☆スター』(18年)という映画だったんですけど、それ以来ちょっとした幸せを感じられるようになった気がしますし、心が豊かになったようにも感じているんですよね。そもそも、純粋な人のことを“変わっているな”って思うということは、こっちが変わっちゃったんだなって、今ふと思いました」

──井浦さんへの愛を感じるコメントでした! さて、「湯布院~」の中で、成田さん演じる“私”は黒木さん扮(ふん)する“忍”に翻弄(ほんろう)されますが、ご自身はどちらかというと翻弄する側ですか、される側ですか?

「相手や状況にもよりますけど、翻弄されている方が好きなのかもしれないですね。自分は引っ張っていくタイプでもないですし、どっちかというと、共演者の皆さんや近しい仲間たちの様子を見て、足りないところをケアしていく…ぐらいの方が、自分としては好きだなぁって。僕が走って背中を見せるんじゃなくて、一歩引いて見ていたいんですよね。と言いつつ、無意識のうちに人を翻弄しているのかもしれないな。ダメなヤツですね(笑)」

──いやいや、そんなに卑下しないでください(笑)。ちなみに、世の中の状況が好転して、また自由に旅ができるようになったとしたら、どこへ行ってみたいですか? ここへ行けば浄化されそうだ、みたいなニュアンスも踏まえつつ…。

「たぶん、どこへ行ったとしても旅先ではリフレッシュできると思うんですよね。特に海外へ行くと、自分のことを誰も知らないわけですから、何者でもない時間を過ごすことになるじゃないですか。そうすると、自然と心がリセットされる…じゃないですけど、フラットな自分でいられるのかなって。よく“自分探しの旅”っていうことが話題に上がりますけど、僕としては一度は出た方がいいんじゃないかなっていう考え方なんですよね。日々の生活の中で社会の一部として生きていると…それこそ『湯布院~』の中でも“私”と“もう一人の私”という描写で出てくるんですけど、社会の中で生きているのとは違う自分とは何者なんだろうって、突きつけられるんですよね。恥ずかしさや理性を脱ぎ捨てたのが、本当の自分なのか? いやいや違う、もっと心の奥底にも自分がいて、一人旅ではもう一人の自分と向き合えるんです。1人で普段とは違うところに行くことによって、『次、どうする?』『じゃあ、こっち行ってみよう』みたいに、自問自答と選択を繰り返すことで、自分というものと向き合える気がするんですよ。その行き先は極端な話、1人になれるならどこでもいいんじゃないかなと思うんですけど…僕自身の体験で言うと、映画『窮鼠はチーズの夢を見る』(20年)を撮る直前に、1人でスリランカへ行ったことがあって。たまに英語が通じることはあっても、基本的には現地の言語なので、言葉が通じないわけです。もちろん、自分のことなんて誰も知らない。でっかいカメラを1台持った日本人が歩いているな、とぐらいにしか思われてないんだろうなという状況だったんですけど、結構話し掛けられて。当然会話にはならないから、こっちも日本語で『写真撮ってもいい?』なんて言うんですけど、なんか通じるんですよ。ちゃんと向こうも写真を撮られる態勢になって、ポーズをしてくれるんです(笑)。言葉は通じないけど心通じているっていうことを経験すると、何か心が洗われるような感覚を覚えるんですよね」

──それは確かに、旅をして現地へ行かなければ味わえないことですよね。

「あと、スリランカって寺院がたくさんあるから、入っていくだけで何か厳かな気持ちになるんです。図らずも清らかな気持ちになって、『窮鼠〜』の現場に入りました(笑)」

──なぜ、スリランカだったんでしょう?

「三食カレーがいいなと思って。じゃ、インドだろって思うじゃないですか。でも、何かスリランカを選んじゃったんですよね、不思議なんですけど。でも、スリランカも意外と広くて、ちょっと次の観光地に行こうってなると、車で3時間くらいかけないといけなくて。現地で運転するのは怖かったから、車と運転手さんだけはお願いして、一緒に旅をしたっていう感じでした」

──旅先は自分探しのみならず、発見の連続だったりしますよね。

「特に海外へ行くと文化からして違うわけですから、出会うものすべてが新鮮ですよね。ああ…何かスリランカの話をしていたら、どこかに旅したくなってきました」

──日常の中でも、そういう発見をしたという経験はありますか?

「この前、10年ぶりぐらいに一緒にお仕事をした方から、『昔と変わらないね』って言われて。その瞬間、一気にブワッと10年前の自分に戻るような感覚がありました。で、その人から『うん、何かイイ顔になってきたわ、いいよいいよ』って言われたのが、うれしかったです」

──再会もまた新たな出会いである、と解釈できそうですね。

「そう思います。最初にご一緒した時にはあんまり会話をしなかったスタッフさんと、2回目の現場ではすごく仲良くなることがあったりしますし。そう考えると、日々違う現場へ行くことが旅みたいなものなのかもしれないですね。いろいろな現場に行くたびに、ちょっとずつ自分も変化しているのかなって思うと…面白いなって。そういう意味でも、『湯布院~』でまた黒木さんと土井さんとご一緒できることが楽しみでもあるんです」

【作品情報】

「朗読劇『湯布院奇行』」
9月28日(火)~30日(木)
東京・新国立劇場 中劇場
SNS時代のベストセラー作家・燃え殻の書き下ろし小説を朗読劇化。

都会での生活に疲れた作家の「私」(成田凌)は、知り合いの芸術家の勧めで湯布院へ向かう。そこでうり二つの2人の女性に翻弄され、徐々に現実と虚構の境が分からなくなっていく…。朗読劇を超えた夢幻の世界が広がる。

【プレゼント】

サイン入り生写真を2名様にプレゼント!

応募はコチラ→https://www.tvguide.or.jp/tvguide_enquete
(応募締切:2021年9月22日正午〜9月29日午前11:59)

ハガキでの応募方法は「TVガイド」」10月1日号(P98)をご覧ください。
「TVガイド」の購入はコチラ→https://honto.jp/cp/netstore/recent/tokyonews-book/01.html

取材・文/平田真人 撮影/為広麻里 スタイリスト/伊藤省吾 (sitor) 衣装協力/ブルーナボイン、ワコマリア

© 株式会社東京ニュース通信社