国政を巻き込む汚職事件も?!地方議会の議長の座をめぐる歴史(宮澤暁 Actin)

先日、静岡県の富士宮市議会の議長が過去の議長選をめぐって、他の議員に100万円を渡した容疑で逮捕され、議員辞職するという事態が起きました。このような議長の職をめぐる汚職はこの富士宮市議会以外にも様々なところで見られ、この中には国政をも巻き込んだものもあります。今回は議長職をめぐる様々な汚職の事例を紹介します。

なぜ議長になりたがるのか

議長とは読んで字のごとく議会の長です。議長は議員の中から選挙で選ばれます。議長は議会の秩序を保持し、議事を整理し、議会の事務を治め、議会を代表するという様々な権限があることを法律によって規定されています。
議長には一般議員と比較して、様々な特典があります。一般議員より報酬がよかったり、専用の公用車があったりします。ただ、自治体によっては議長の報酬額は一般議員と比較してそれほど高くもなく、金銭的なうまみが少ないこともよくあります。しかし、それでも議長は議会の代表であり、様々な行事に出席して自治体の顔になれたり、行政側が議案を事前に相談してきたり、後に勲章をもらえることもあったりなど、明文化されていない特典も多くあります。

議長職はこのように様々な特典があるため、議員にとってはなりたい職です。そのため、地方自治法で議長の任期は議員の任期と同じと規定されていますが、できる限り、多くの人に議長職を回すために1年や2年で議長職を自主的に辞任し、次の人に回すという慣例になっている議会も多く存在します。
このように職をめぐって汚職すら発生するほどの魅力のある議長職ですが、議会が完全に二分されていて、両勢力とも議員が同数の場合は議長は裁決に加われないため、自勢力から議長になると不利になります。そのため、議長に選任されても辞退すると宣言し、長期間にわたり議長が決まらなかったという事例も存在します。

議長選をめぐる汚職

議長職をめぐる汚職は様々な形があります。比較的小規模なものもありますが、多数の議員がかかわっている事例も存在します。これは自勢力が議長職を得るために敵対勢力を賄賂によって切り崩すというような事例のほか、議会で圧倒的な勢力を持つ1つの会派が存在する場合、その会派内での話し合いや選挙で議長が決まるため、会派内の多くの議員に不正な工作をするというような事例もあります。何にせよ、多数の議員が汚職にかかわっていたことが発覚した場合、議会は大混乱に陥ります。

このような大混乱に陥った事例ですが、例えば、2001年に発覚した長崎県の厳原町議会の事例では、議会勢力の複雑な事情がからみ大規模な汚職が発生し、議員20人中10人が逮捕され、8人が辞職するという事態に発展しました。また、1997年に発覚した鳥取県の境港市議会の事例では、複数の議員が逮捕され、当時の議員21人中5人が辞職し、議会は翌年に自主解散するという事態に発展しました。

このほか、青森県の平内町議会では1988年に議会を二分していた勢力が互いに議長選と副議長選で買収合戦をしたため24人中15人が逮捕されるというとんでもない事態が起きました。さらに平内町議会はこれだけではなく、1997年にも議長職をめぐる汚職で複数の議員が逮捕され、辞職者が相次いだという事態が起きています。また、この1988、1997年の平内町議会の事件ですが、両方で逮捕された議員も複数人存在していました。

国政を巻き込んだ事例も 都道府県議会の汚職事件

都道府県議会レベルでも議長職をめぐる汚職は存在します。特に激しいものは1965年に発覚した東京都議会の事例と1966年に発覚した茨城県議会の事例です。
1965年の東京都議会については『もうすぐ都議選2021!都議選はなぜ7月に行われるの?国政まで巻き込んだ「地方議会の自主解散」制度の制定にまつわる「ある事件」とは』で紹介したように、当時の都議会で圧倒的な勢力であった自民党内で議長職をめぐった大規模な汚職が発覚し、10人以上の議員が逮捕や起訴されるという事態になりました。都議会はこれにより大きな混乱が起きて収拾がつかなくなり、国会で地方議会の自主解散を定める法律を制定するという国政をも巻き込んだ事態に発展しました。

また、翌年の1966年にも、茨城県議会で議長職をめぐった大規模な汚職が発覚しました。当時の茨城県議会は自民党が56議席中49議席を占めるほどの大勢力を持っており、自民党から議長を選出していました。この議長職は約1年で自民党内の議員でたらい回しにされていましたが、このような中、議長に選ばれるために多額の金銭が動いていたことが発覚したのです(これは前述した東京都議会の事例と極めて類似しています)。これにより、13人の議員が逮捕、1人の議員が逃亡して全国に指名手配されるという事態になり、最終的に議会は自主解散をしました。

その後、1967年に投票が行われた茨城県議会選は6人が拘留中の状態からいわゆる「獄中立候補」をしたほか、指名手配を受けていた議員が隠れ家に潜伏している状態で代理人を使って立候補するというとんでもない状況が生まれています(指名手配をされていたこの候補は選挙期間中に警察署に出頭しています)。そして、汚職に関係した議員で立候補した12人中8人が当選しました(この当選者中には前述した指名手配されていた候補もいました)。また、無所属候補が多数当選し、議会改革が期待されましたが、選挙後に全員が自民会派入りするということも起きました。さらに選挙から3年後には、裁判で係争中の議員が正副議長に選任されるという事態も起きています。

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