注目作『整形水』が日本上陸!恐怖の底なし沼へ、ようこそ。韓国ホラーの世界

韓国は近年、良質なホラー映画が目白押し! 息の長い人気コンテンツとして続々と新作が公開されている。その中でも異彩を放っているのが『整形水』だ。恐ろしいモンスターも、幽霊も出てこない。でもとびっきり恐い! 背筋がゾクゾクするような恐怖体験と深い余韻を生み出す、韓国ホラーの世界をのぞいてみよう。

『整形水』9/23より全国ロードショー ©2020 SS Animent Inc. & Studio Animal &SBA. All rights reserved.

じわりと迫りくる恐怖と、味わい深さが真骨頂

近年のホラー作品の定番ジャンルといえばゾンビ。海外ドラマの「ウォーキング・デッド」、日本でも「君と世界が終わる日に」をはじめ、韓国では2017年の『新感染 ファイナル・エクスプレス』の大ヒット以来、時代劇ドラマ「キングダム」からコメディ「ゾンビ探偵」までゾンビ一色。とりわけ、韓国のゾンビホラーはKソンビと呼ばれ、独特な動きやスピード感、感染力の高さが世界で注目された。

しかし、韓国ホラーはゾンビだけじゃない! むしろ、心理的に追い詰められるような、時に不条理な、味わい深い作品こそが韓国ホラーの真骨頂なのだ。

アカデミー賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』のような不条理サスペンス、実在の心霊スポットを舞台にした『コンジアム』、悪魔とエクソシストとの死闘を描く『メタモルフォーゼ/変身』など、ジャンルも多彩。低予算でありながら緻密なストーリー、恐怖感を増幅する音響と演出、そして驚愕のどんでん返しは、アメリカのブラムハウスやA24作品に通じるものがある。

最新作『整形水』も、ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』、アレックス・ガーランド監督の『エクス・マキナ』を初めて見たときの衝撃のように、驚愕の展開が待ち受ける。

負の感情が生み出す怨霊。韓国人にとっての恐怖の根源とは?

韓国ホラーは、人の負の感情から生み出される怨霊や呪いが、恐怖を生み出すというものが多い。つまりは最も恐ろしいのは人間ということ。『新感染/ファイナル・エクスプレス』でも、ゾンビの恐怖に加え、人間の醜さや尊さが描かれていた。

その恐怖心の根底にあるのが「恨(ハン)」という概念だ。これは文字通り「恨み」を意味するだけでなく、怒りや悲しみ、悔しさや無常観が混ざり合った複雑な感情のこと。

言葉にしてもわかりにくいが、韓国ホラーの多くが、この「恨(ハン)」の精神をベースにしており、ただ恐いだけではなく深い余韻を残す。村社会における悪い噂をベースにした『哭声/コクソン』『笛を吹く男』などは、恐怖だけではなく、観終わった後に考えさせるものがある。

また、韓国はキリスト教、仏教、土着宗教が混在した宗教観を持つ。キリスト教の観点からは『プリースト 悪魔を葬る者』、仏教的見地から『第8日の夜』などのホラー作品が生まれている。また、巫俗(ムソク)というシャーマニズムが残り、巫堂(ムダン)という巫女が、神や怨霊を憑依させると信じられてきた。『退魔:巫女の洞窟』など、シャーマニズムに基づくホラー作品も多い。東洋と西洋の文化や宗教観が混在した社会ということでは、日本ともよく似ており共感を覚える部分も多い。

リメイク&リブートも続々。さらなる進化を遂げてブーム再燃!

『リング』『呪怨』など、Jホラーが活性化した90年代末から、韓国でもホラーブームが起こっていた。そして20年が過ぎ、今また韓国ホラーブームが再燃。

この夏にも、豪華ホテルを舞台とした『ホテルレイク』や、廃遊園地を舞台とした『モクソリ』などの最新ホラーが日本でも公開された。80年代の名作ホラーのリメイク『ヨコクソン/女哭声』に加えて、新進女優の登龍門でもあった『女高怪談』シリーズの最新作『女高怪談リブート:母校』の公開も控えている。そんな韓国ホラーの最新形態といえるのが『整形水』だ。

アリ・アスター監督のホラー映画『ミッドサマー』がヒットとなったように、近年はゾンビものにも食傷気味。ただ、まるで異次元に誘い込まれたような『ミッドサマー』は、美しすぎてホラーと思えない人も多いのでは? 

『整形水』は、もっと身近でアジア的な恐怖を求めるホラーファン必見! ドロドロとした欲望が渦巻き、ゾクゾクする恐怖表現と予測不能な展開。そして観終わったあとに深く考えさせる力がある。


TEXT:菊池昌彦(アジア雑学ライター)

Edited:野田智代(編集者、「韓流自分史」代表)

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