【劇場卓球観戦記】T.T彩たまが目指す新たな卓球興行の可能性を考える

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<ノジマTリーグ2021-2022シーズン 9月22日 T.T彩たまvs木下マイスター東京 和光市民文化センターサンアゼリア>

ロビーに出てくる観客たちの表情が、嬉しそうに高揚していた。

卓球・TリーグのT.T彩たまが仕掛けた、日本初の劇場でのTリーグ興行の初戦。この日の観客動員数514名は、座席数制限をした中で、実に立派な数字だ。

今季、T.T彩たまはホーム戦9試合のうち5試合をこの和光市民文化センター サンアゼリアホールで行う。

何が成功し、どこが改善点か、会場に足を運んだお客さんの声を聞きつつ、思いを巡らせてみた。

写真:丹羽孝希T.T彩たま)/撮影:槌谷昭人

1.静寂はより静かに、拍手はより大きく

まず、音響の力はとても大きいと感じた。
劇場、特に音響設計の優れたホールが作り出す効果だろう、サービスに入る一瞬の静寂はいつもより静かで、拍手の音はさらに大きく増幅されていた。

写真:試合前にはバイオリン演奏に聴き入る/撮影:槌谷昭人

試合開始前のバイオリン演奏が、観戦を前にした観客たちの気持ちを自然と一つにしていく。選手やスタッフもバックヤードの暗闇で聞き入っていた。

写真:ダンスもとても映える/撮影:槌谷昭人

試合が始まると、ボールの音はもちろん、両ベンチから選手に掛ける声も、小さくてもくっきりとした輪郭をもって客席に届く。視覚的には横からの一方向なのだが、音を繊細に拾って再設計してくれる音響が、空間を豊かなものにしていた。

写真:上田仁(T.T彩たま)/撮影:槌谷昭人

逆に言えば、体育館開催のときにはそこまで気にならなかった細かい音の配慮面は気になった。

バイオリン演奏が終わった後、客席の集中が継続した状態で、間髪入れずに次のプログラムや選手入場に繋げられないか。スポンサーのアナウンスも、もっと劇場空間向けの繊細な方法はないか。舞台のセンターに主審が位置してコールをするこの構造のときに、これまでのような審判の体制と運用で良いか。

このあたりは、意外と舞台上と客席で感じ方に落差があるかもしれないので、ぜひ今後検討してほしいところだ。

写真:舞台上で戦う丹羽孝希(T.T彩たま)vs及川瑞基(木下マイスター東京)/撮影:ラリーズ編集部

2.非日常性

高揚感の理由の2つ目は、劇場に足を踏み入れることの非日常性だ。

シンプルな話だが、座席の座り心地の良さは、落ち着いて卓球を“観る喜び”を感じさせてくれる。空調も行き届いている。
従来型の体育館と比較したときに、劇場やホールは、ロビーも含めて観客が快適に過ごせるように設計されている。コロナでなければ、卓球観戦と共に、普段の生活導線とは少し違う“ハレ”の場での地域住民同士の交流の機会にもなりうるだろう。

写真:拍手で応援する観客/撮影:槌谷昭人

3.卓球の中にあるアート性

卓球台を横に1台置いたシンメトリー(左右対称)な舞台だからこそ、全身をフルに使うアスリートの身体が浮かび上がって見えた。
「ネットが揺れる瞬間がとてもよく見えた」という観客の声もあった。

静寂の中で舞台上でトップ選手が織りなす孤線とラリー、その美は、いわば卓球が持つアート性の発露として、観客の感性に訴えかけてくる。
そして、台の真上のビジョンで、プレー直後の表情のアップやリプレイは見せてくれる。予想していたよりずっと「見えにくさ」は感じなかった。

写真:松平健太(T.T彩たま)/撮影:槌谷昭人

ただ、座席による違いや好みはあるだろう。お客さんによっては「もう少し上から観たかった」「斜めから観る席が欲しい」などの声はあった。

劇場・ホールでの興行の場合、体育館以上に各施設によって、客席の作り方や視野角は大きく変わるはずので、運営側は各座席からの見え方などをチケット販売時に写真で示していくのも良いかもしれない。

写真:二階席中央からの視野/撮影:槌谷昭人

4.既にあるものを活用して

日本全国には2,000以上の公共ホールが既に存在している。コロナ以降、各自治体にとってその有効な活用法は課題となっていくだろう。
今回の取組みの大きな意義の一つは、地域に根付こうとするクラブが、その地域が既に持っている資産を活用して、新たな価値を創った点だ。

Tリーグは4季目を迎えただけのまだまだ駆け出しのリーグだ。
既にある資産を上手に活用しながら、チーム自身がそれぞれの地域と卓球興行の新たな可能性を試行錯誤していくべきだろう。

写真:今回、ステージが柔らかく、赤マットの下に一枚別素材を敷いていた/撮影:槌谷昭人

自分の試合が終わった直後、ベンチに戻る前に丹羽孝希選手が観客席に向かって自然に一礼し、観客も自然と拍手で応えた。
それは、舞台と客席とで交わされるとても自然な呼吸で、むしろ劇場で観るべきものを観た気さえした。

写真:拍手で応援する観客/撮影:槌谷昭人

2月もまた同じアゼリアホールで実施される。
ぜひ一度足を運んで、劇場卓球観戦を体験してみてほしい。

和光市駅前のキャラクターも、レシーブの構えのように見えなくもない

取材・文:槌谷昭人(ラリーズ編集長)