読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、2人の子を持つ43歳、会社員の男性。妻は専業主婦。現状の収入には満足しているけれど、激務のため家族との時間がとれず、働き方を見直したいといいます。どの程度まで収入減に耐えられるでしょうか? FPの秋山芳生氏がお答えします。
43歳、会社員です。働き方を見直したいです。
現状の収入には満足していますが、激務のため家族との時間が持てません。現状の家計でどのくらいまで収入減に耐えられるか把握したいです。
妻は専業主婦により収入ゼロ、子どもは公立学校に通学。今のところ私立に通わせる予定はありません。
住宅ローンは物件購入額:3,100万円、借入2,540万円、金利0.975%、返済期間35年ですが、繰上げ返済実施済みで残債約300万円。退職金はあり。現行60歳定年まで働いた場合約2,000万円程度です。
【相談者プロフィール】
・男性、43歳、会社員、既婚
・同居家族について:妻(44歳)、専業主婦
子ども/10歳、6歳。公立学校に通学。今のところ私立に通わせる予定はなし。
・住居の形態:持ち家(マンション・東京都)
・毎月の世帯の手取り金額:約40万円
・年間の世帯の手取りボーナス額:約100万円
・毎月の世帯の支出の目安:約35万円
【毎月の支出の内訳】
・住居費:10万円
・食費:10万円
・水道光熱費:1万3,000円
・教育費:3万円
・保険料:損保5,000円、生保なし
・通信費:8,000円
・お小遣い:特になし
・その他:10万円
【資産状況】
・毎月の貯蓄額:5万円
・ボーナスからの年間貯蓄額:100万円
・現在の貯金総額(投資分は含まない):575万円
・現在の投資総額:株式868万円、投資信託114万円、 iDeCo219万円、持株会112万円/年積立(手取額は持株会積立額引き去り後の金額)
・現在の負債総額:300万円
秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー兼FP YouTuberの秋山芳生です。激務で家族との時間が持てないことがお悩みのご相談者さま。働き方を変えて収入が減った場合でも子育てや住宅ローンの支払いが可能か、また、老後の資産が大丈夫かをご心配されています。
収入が減っても、支出が抑えられれば収支を維持することは可能です。まずはご自身の収入などのお金の流れや、何にいくら使っているかを細かくみていきながら、収支改善ポイントがあるかを整理し、将来に渡るライフプランのシミュレーションを行ってどのような対策が取れるかを一緒に考えていきたいと思います。
転職の情報を集めて、選択肢を確認してみよう
現在の収入ですが、月の手取りが40万円に加え、年間のボーナスの手取りが100万円。この手取り金額は持株会への拠出(年112万円拠出)をした後の額なので、ざっくり額面年収に換算すると850万円程と考えます。
激務とのことですが、労働での疲れは様々な要因によって感じられます。
・時間拘束
・成果へのプレッシャー
・人間関係
・労働環境
上記から精神的・体力的な負荷が過度にかかると、体調に変化がでてしまったり、場合によっては精神的な原因で働けなくなってしまうことがあるので、自分自身でもケアが必要です。
ご年収は高いので、収入をキープできる転職先は限られてくる可能性もありますが、一般的に転職者の30%ほどは収入を上げているとも言われています。自分の得意分野が、他の企業でも活かせるかを探るためにも、一度転職活動をして情報を集めてみると良いと思います。
「ここで働かなければ家族の生活が困る」と思いながら働くのと、「いつでも転職できて、好きな場所で働くことができる」と思いながら働くのでは精神的な負荷がかなり変わります。自分の中に複数の選択肢をもつことで、人間関係のしがらみや、過度なプレッシャーから開放されることもあります。まずは自分の市場価値や選択肢を確認されると良いと思います。
家計の中で改善可能なポイントは?
支出額は、収入が高いわりには少なく全体的にコントロールされていると思います。以下、支出改善が可能なポイントをお伝えしますが、「無理な節約」は必要ないと思います。
●住宅費
住宅費は毎月10万円ですが、この中で住宅ローン返済とマンションの管理費と修繕費を支払っていると考えます。仮に8万円が住宅ローン返済だとすると、約5年で完済することになります。残年数が10年以下で、ローン残高が1,000万円を切っているので借り換えによるメリットは少ないでしょう。また、住宅ローンは借入の中でも特に金利が少ないことが多いので1%を切るような場合は、団体信用生命保険もあり「保険代わり」の役割も有るため、無理な繰り上げ返済をする必要は無いでしょう。
●食費
夫婦+お子さん2人の4人家族であれば、10万円は少し高めであると思います。ここに日用品が含まれているとしても、1〜2万円の改善余白があるとは思います。無理な節約や意識をしたくないという場合もありますが、奥様が専業主婦であれば、スーパーなどの買い物の予算を設けておくことが大切です。変動費は1週間の予算を決めてその中で買い物をするようにすると、コントロールしやすくなります。
●生命保険
現在、生命保険は入っていないとのことですが、医療保険は現在の貯蓄があれば不要かと思います。
一方、ご相談者さまに万が一のことがあったら専業主婦の奥様とお子さんの生活費や学費が心配になります。現金や、運用している資産・iDeCoを併せると1,888万円あります。また、住宅ローンは借入の中でも特に金利が少なく有利なことが多いので、金利が1%を切るような場合は無理な繰り上げ返済は不要です。また、団体信用生命保険は「万が一の時の生命保険代わり」にもなるので、繰り上げを急ぐ必要は無いでしょう。
●その他
その他の費目が10万円となっており、ここに趣味娯楽や衣服美容、特別費などが含まれていると思います。生活していくのに必要な費用と、レジャーや交際費などの生活を楽しむ為の費用があると思いますので、内訳を把握し、収入が減った場合にどの費目を抑えられるかを考えておくと良いと思います。
家計全体を見直すことで、生活するのに最低限必要な支出と、レジャーなど楽しみや贅沢をする費用に分けることができるので、今後、転職などをして収入を下げなくてはいけない場合も、最低限必要な支出を下回らないように意識しましょう。
シミュレーションから収入減への対応について考える
それでは、このまま働いた場合のライフプランシミュレーションを行ってから、どれくらいまで収入を減らしてもライフイベントに対応できそうかを考えていきたいと思います。
【設定条件】
・お子さんは2人とも、小中高は公立、大学は最も比率の高い私立文系とする
・中学3年、高校3年にそれぞれ40万円の受験対策費用を加算
・収入は0.5%ずつ増加
・月5万円から、iDeCoに1万5,000円、積立て投資に1万5,000円、現金貯蓄に2万円をまわすとして計算
・運用利回りは3%で計算。65歳以降は1.5%で計算
・現在の収支と預貯金から、年間の特別費が50万円発生しているものとして計算
・インフレ率0.75%として物価上昇を加味
・お子さんが30歳に結婚し、お祝い金を100万円ずつ支払う
・住宅の修繕は20年に100万円ほど(壁紙、フローリング、水回り、ガス、エアコンなど)の費用が発生。現在築25年とし、あと35年で50年を迎える為大型修繕費用が500万円発生。毎月支払っている修繕積立金1万円は、5年ごとに1.2倍づつ増え、20年後には2万円に増える。
・60歳まで現状どおり働き、その後嘱託などで収入は7掛けで就労し、65歳で引退。
・年金は現在の水準の80%で計算
・介護費用は一人500万円として80歳から100歳の間で消化する
・老後の生活費は現役の7掛けとして計算
このまま働き続け、毎月5万円の資産増加と、年間ではボーナス100万円と持株会112万円分の資産が増えた場合は、教育費や老後の費用を加味しても、100歳過ぎで5,000万円以上の資産が残ることになります。
この大きな要因は、収入に対して支出が抑えられていることと、運用資産が複利で増えていくためです。転職で収入が少なくなっても、支出がコントロールできれば、問題なく老後まで資産がもつでしょう。
ボーナスと持株会への拠出分が減ったら?
仮に、手取り収入は維持して、ボーナスが無くなり、持株会を購入している分が減っても、資産は90代後半まで保つことになります。
この場合、少しの家計改善で十分に100歳まで資産を伸ばすことができると思いますので、先の改善ポイントを参考にしていただけたらと思います。
将来の展望を妻と共有することが大切
現状の収入は高く、ライフプランシミュレーション上は有利になりますが、支出コントロールができていれば収入をある程度減らしても問題がなさそうです。体が最大の資本であることを考えると、ある程度の収入減を覚悟しても、精神負荷がかかり過ぎず長期的に労働が可能な環境に移ることは良い選択だと思います。まずは、ご自身の市場価値を調べて見る上でも転職の情報を集めてみてはいかがでしょうか?
また、将来の展望についても奥様と共有することが大切です。
「今後どのような人生を歩みたいか?」
「想定されるライフイベントにはどのようなことがあるか?」
「今後の資産推移はどのようになりそうか?」
などをしっかりと話し合わないと、転職して収入が減った場合に不要な心配をかけてしまいかねません。ライフプランニングを通じて夫婦で目線を合わせて、どのように100年時代を乗り越えるべきかを考えていただくきっかけになれば幸いです。