高校生の弁護人が“最終弁論” 真偽を吟味 模擬裁判選手権 長崎県大会

佐賀県代表校との対戦に向け、論告の作成に挑む長崎東高のメンバー=長崎市立山5丁目、同校

 高校生が架空の事件で被告人を弁護する「高校生模擬裁判選手権」。長崎県内出場6校の中から最優秀校に選ばれた県立長崎東高は10月、佐賀県代表校との戦いに挑む。県大会には現職の裁判官らと共に記者も審査員として参加。裁判に熱くなる高校生の姿を通じ、法教育の意義を探った。
 「被告は万引犯としては不合理です」「皆さん、これでも犯人だと確信が持てますか」。熱っぽく語り掛けるのは学生服の弁護人たち。8月21日、生徒らは“証拠”に基づきあらゆる角度から無罪を訴えた。
 県弁護士会が主催、九州弁護士会連合会、長崎地裁、長崎地検が共催。6回目の今回はオンライン開催となり、他に長崎南山、島原、純心女子、諫早、佐世保北の県私立各校が参加した。
 架空の容疑は窃盗。被告はコーヒー粉を手にしたまま店外へ出たとして起訴されたが、店外の商品を見に行っただけで盗む気はなかったと訴える-という設定だ。生徒は大量の捜査報告書や供述調書をもとに最終弁論を作成。各校15分で陳述した。
 長崎東高2年の6人は被告の経歴をもとに「犯行動機がない」と主張。所持金の少なさ、被告を捕まえた保安員の証言といった検察側に有利な証拠に対し、値札表示の難解さや証言の信ぴょう性の低さを指摘し、万引の意思はないとした。
 6人は事前に、実際の公判を傍聴した。山下鈴々奈さんと中村紅葉さんは「テレビドラマで見たイメージより静かで論理的」と感じ、下準備が重要だと考えた。メンバーは相手の反論を想定しながら弁論をつくり上げた。
 弁護人を演じ終えた大久保颯拓さんは「裁判は怖くて厳しいイメージだったが親しみを持てた」という。田島愛さんは「司法は想像以上に人に寄り添う仕事」と語った。

オンラインで開かれた選手権で被告の無罪を訴える長崎東高の生徒(県弁護士会提供)

 県弁護士会法教育委員会の佐田英二委員長(43)は模擬裁判の意義について、証拠から事実を認定する手法が「うわさに流されず情報の真偽を吟味する」ことにつながると説明。また「立場が変われば、一つの証拠も別の見方ができる。相手の言い分を理解し、人に共感する価値多様性を養うのに有効」という。参加校に対する評価は「いずれも証拠を吟味し、意見を論理的に伝え、多角的なものの見方を達成できていた」とした。
 次は同じ想定で佐賀県代表が弁護人役を演じ、長崎東高は検察官役に転じる。記者が長崎東高のメンバーに会うと、思考を切り替える難しさを感じながら、再び証拠に立ち返っていた。川端美晴さんは「無罪だと思ってきたのでひっくり返すのは難しいが、自分たちがつくった弁論に対する反論を考えてみたい」と意欲を見せた。

© 株式会社長崎新聞社