【神戸新聞杯】「3000メートルは無理」次走は天皇賞と思われていたエピファネイア

拍子抜けするほど楽々と抜け出したエピファネイア

【松浪大樹のあの日、あの時、あのレース=2013年神戸新聞杯】

多くの馬にエピソードがあり、どれを選択していいかを悩むレースもあれば、ネタらしいネタがほとんどなく、当時の時事ネタなどを絡めながら、なんとかひねり出すレースもある。それが当コラムの難しいところなんですけど、神戸新聞杯に関しては、完璧に前者。京都新聞杯が春開催に移行し、菊花賞の最重要ステップとなった2000年以降の神戸新聞杯は、GⅠ級の大物が続々と登場。どれをチョイスしても、ファンの方に共感してもらえそうな名馬が、ズラリと並んでいます。

今回、僕が取り上げたのはエピファネイア。多くの方の認識とは違うでしょうが、僕は同馬こそが近年の最強馬ではないか…と考えているくらいで、その理由は満足な状態で走ったレースが非常に少なかったから。デビュー前の熱発騒動に始まり、ひどいソエに悩まされたり、これまた中間に熱発があったり、ハミに敏感になり過ぎて口を切っていたり…と書き出したら止まらないくらいに大変だった馬で、ダービーでは堂々のノーマーク! 思い出しますね、その週の木曜日。飲みに行った他厩舎のスタッフと、「ダービー出走馬で絶対に飛ぶ人気馬を教えましょうか? エピファネイアです」「そんなもん、知ってるわ」なんてやり取りをしたんです。あの無駄な会話は何だったんだ!(苦笑)

デビュー以来で最低の状態と感じた2014年の天皇賞(秋)は、さすがに6着に沈みましたけど、これが国内での最低着順で、着差はわずかに0秒2。どんだけ強いんだよ、と思いましたね。JCでのぶっちぎりを見たとき(しかも、折り合いを欠いていたのに)は、ホントは別の惑星からきた馬なんじゃないの、と。それくらいにレベルが違っていた。僕は勝手にそう思っているんです。

さて、2013年の神戸新聞杯。このときのエピファネイアは、珍しく不安がない状態だったんですよ。驚くほどに順調。精神的にも落ち着いていました。といっても、あのエピファネイアですからね。「このメンバーが相手だから負けるなんてことはありえないんだけど、落ち着いているとはいえ気のいい面が変わったわけでもないし、元気いっぱいで力が有り余っている。おそらくは行きたがると思うよ。それをジョッキーがどこまで抑え込めるかになるんだけど、他の馬とはパワーが違い過ぎるし、本気で行きたがったら誰も抑え込めない。なので、3000メートルは無理やな…という話になる。まあ、次走は天皇賞やろうな」が、当時のスタッフの意見でした。僕もそう思ってましたね。九分九厘…は言い過ぎでも、七割は天皇賞・秋だろうな。あとは発表のタイミングだけだな、と。

なので、思っていた以上に折り合って楽々と抜け出してきたときには拍子抜け。こんなに上手に走れるエピファネイアなら、3冠制覇もできたんじゃないの? そんなことまで考えました。実際、3冠レースで「最も適性が低い」と言われていた次走の菊花賞も難なく勝ってしまったわけですし、少なくともGⅠ2勝にとどまるレベルではなかった。もっと勲章を取ってしかるべき馬だったんですよ。

ちなみに僕はホープフルS、皐月賞の2つしかGⅠを獲得できなかったサートゥルナーリアも近年最強馬の一頭にランクインさせていて、その理由もエピファネイアとほぼ同様。でも、兄に続いて楽勝した神戸新聞杯は、こちらもデビュー以来で最高…と思えるような仕上がりでした。もしかして神戸新聞杯とつながりが深い血統なのかな? ルペルカーリア(先週のセントライト記念で7着)もこちらのほうが良かった? もちろんただの偶然ですが、この血統が大好きな僕(母のアメリカンオークス遠征時はロサンゼルスも行ってました)は、そんなことも考えてしまうのです。

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