LINEマンガのアニメ化で話題の『整形水』、監督が語る本作の“魅力”とは?

9月23日(木)よりシネマート新宿ほか全国で上映がスタートした韓国発の容赦なき新感覚・整形サイコホラー『整形水』。世界中で驚異の閲覧数と高い評価を誇る人気原作をもとに、美しくなりたいという人間の果てなき欲望と狂気をアニメーションで描いた本作の監督を務めたチョ・ギョンフン監督にお話を伺いしました。  


― 本作『整形水』は、大人気のウェブトゥーン『奇々怪々』の一編「整形水」が原作です。本作をアニメ化することになった経緯を教えていただけますか? また、原作はオファーを受ける前からご存じでしたか?

チョ・ギョンフン監督 『奇々怪々』は連載が始まった時からとても楽しんで読んでいました。ただ、それをアニメ化しようといった考えが当時は無く。ただ、本当に面白いホラーだなとしか思っていなかったんです。

その後、SS Animent社が『奇々怪々』をテレビシリーズとしてアニメ化しようと作者のオ・ソンデさんと契約を結んだんです。そのうち中国で「整形水」が爆発的に人気になり、それならシリーズではなく「整形水」だけを取り上げて長編アニメにしたらどうか、という話が持ち上がったんですね。そこでSS Animent社から私に共同制作しませんかという提案があり、参加することになりました。

ただ、最初は監督ではなく共同プロデューサーという形で企画に加わっていたんです。どんどん企画が進んでいく中で、アニメでスリラーやホラーを監督できる人が国内ではなかなか見つからないという問題にぶつかり、それなら初期の段階から参加している私が監督になるのはどうか、という話が持ち上がったんです。

私は「整形水」についてもよく知っていますし、なにより「整形水」という原作に対して愛情を持っていました。あと私自身、大のホラーマニアでもあり、ホラーを撮ってみたいという思いもあったので、悩んだ末に監督をお受けしました。

『整形水』全国ロードショー中!©2020 SS Animent Inc. & Studio Animal &SBA. All rights reserved.

― アニメ化する前から原作が既にお好きだったということですが、今回の映画化にあたり原作のどういった魅力を残そうと意識されましたか?

チョ・ギョンフン監督 まず、既にある作品をアニメ化するときに気をつけないといけないことがあります。原作となる作品には何らかの魅力が必ずあり、その部分は絶対に触ってはいけないこと、それからキーワード的なものもあまり変えてはいけないと私は考えています。それは作品の骨組みになってくれる部分なので、その部分は絶対に触らないと決めていました。

今回の「整形水」という作品は、その骨組みの部分が本当にしっかりしていて完成度の高い作品だったんです。だからその部分をそのまま生かしながら、最大限、映画化してみようという気持ちで取り掛かりました。

― 逆に、映画化にあたり新たに付け加えようと思った魅力は?

チョ・ギョンフン監督 映画では、主人公イェジの喜怒哀楽を前面に見せていく構成にしました。

そもそもウェブトゥーンというのはどうしてもメディア的な特徴から、事件が中心になりディテールは若干省略気味になる傾向が見られます。なので、ウェブトゥーンをそのまま映画として90分に作りかえるのは難しいんです。じゃあどういう方向性を新たに足したらいいかプロデューサーと脚本家と私で頭を突き合わせて悩んで悩んで…。3人で色んなアイデアを持ち寄りシナリオに反映させていったんです。

原作の「整形水」は“整形水”という物が主に取り上げられ、その物がストーリーに直結するような構造になっていました。でも映画の『整形水』では、もちろん“整形水”という物は出てくるけど、あくまでストーリーの中心となるのはイェジだという考えに基づいて作っていきました。

それから、原作では“整形水”がもたらす副作用がかなり顕著な形で描かれていますが、映画ではもちろんその副作用があるんだけど、整形によって起きた心理的な副作用の方に焦点を当てたいと思ったんです。

なので、中心はあくまでもイェジ。色んな事件に巻き込まれていく中での彼女の喜怒哀楽を前面に打ち出そうとしました。その喜怒哀楽を見せるためにどうしたらいいか、ということでアイデアを考えたり状況設定をしたり、そのディテールにこだわったりして創りあげていきました。

― 私も、原作とはまた違う、主人公の感情の変化が生む恐怖がとても面白かったので、今のお話はとても納得させられました。イェジを描く際に意識されたことや工夫されたことを教えていただけますか?

チョ・ギョンフン監督 私がイェジを描く際に一番気を遣ったのはこのキャラクターの欲望を見せることでした。

この作品に限らず、私はキャラクターの欲望を見せることは作品を創作する上で大事なことだと常に思っていて。何らかの欲望があり、その欲望に動かされて行動をすると、事件が起きる。事件が起きたら起きたで、新たな欲望が生まれてくる。そして挫折をしたらしたで、また別の欲望が生まれてくる。欲望によってもたらされるいろいろな行動や心の動きというのは、とても大切なことだと思うんです。

今回イェジを突き動かしていた非常に大切な言葉があるんですが、それは「私は愛されたかった」というセリフです。彼女は、自分は可愛くないから誰からも認めてもらえない、だから自分の存在も自分で認めることができず、自分は嘆き悲しむしかないんだと思っている。自分が自分のことを嫌いなので、彼女は通常の生活を送ることが出来ないんですね。

「私は愛されたかった」というセリフを強化し、説得力を持たせるために過去の部分を加えていきました。彼女は整形した後、いいことも沢山あったとは思うんですが、それでも過去の幻影がどうしてもつきまとってしまいます。そして、彼女には分離された自我がありましたよね。その分離された自我がやはり彼女につきまとい、常に彼女は気持ちが揺れ動揺する。その部分もできるだけ強調し、うまく描写できるように気を遣いながら描いていきました。

― あと、本作のラストも強烈でショッキングで…とても恐ろしいラストです。

チョ・ギョンフン監督 最後は本当に恐ろしいですよね。あのvは私が提案したんですが、実は最初は周りから反対されていたんです。ありえないんじゃないか、おかしいんじゃないか、やりすぎなんじゃないか、と。

でもあのラストを観ると、私たちの美に対する感覚がいったん白紙になり、もう一度“美”というものを見直せるのではないかと思ったんです。なんとか自分の主張を貫いてこのような結末になりました。
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― これから映画をご覧になる観客の皆さんには、ぜひラストも楽しみにしていて欲しいですね。本作はすでに映画祭や各国で上映されていますが、感想で印象に残っているものはありますか?**

チョ・ギョンフン監督 ひとつ面白い話があって。韓国では9月9日に公開されたんですが、映画を観た誰かが自分の感想を書き込んでくれていたんです。9×9は81、でも9×9を逆さにすると6×6になる。6という数字はあまり良い数字ではないと言われることがあるじゃないですか。だからこれは悪魔の数字でもあるんじゃないか、って。独特な書き込みですが、誉め言葉でもあり、それはとても記憶に残っています。

― 最後に、これから『整形水』を観る日本の観客に向けてメッセージをお願いします。

チョ・ギョンフン監督 この映画『整形水』は、これまで皆さんが観てきた日本のアニメーションとはテイストもスタイルも違う作品だと思います。でもそういった違いを広い心を持ってご覧いただけたら嬉しいです。とても楽しめるストーリーになっていると思いますし、なによりゾクっとするようなホラーの部分も楽しめると思います。

そしてこの映画は、とても展開が速く、畳み掛けるようにどんどん事件が起きますので、観るときにかなりのエネルギーの消耗が予想されます。なので、心と体が健康なときに、しっかりと体力を整えてご覧いただくと、とても楽しめると思います。『整形水』ぜひご覧ください。

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