コロナ禍の鉄道の現在地 時間帯別運賃からローカル線の見直しまで 国交省は「地元に丁寧な説明を」【コラム】

コロナの影響が深刻なのはJR三島会社や地方の中小私鉄です。赤羽大臣は地方視察の機会を通じて、鉄道事業者の本支社や現場にも積極的に足を運びます。画像は2020年9月の中国・四国視察でJR四国の観光列車「四国まんなか千年ものがたり」の説明を聞く赤羽大臣(画像:国土交通省)

東京都などに最初の緊急事態宣言が発出されて1年半が経過しました。新型コロナはこの間、感染拡大とピークアウトを繰り返し、完全な収束に向かう流れが見いだせないのは、改めて指摘するまでもないでしょう。

鉄道各社もコロナに翻ろうされ、巨額の赤字を少しでも減らそうとさまざまな手を打ちますが、〝決めの一手〟は見付からないのが現状です。ここでは、公表済みの資料やシンポジウムでの発言に加え、一部事業者への取材などから、鉄道業界にコロナが与えた影響を俯瞰的にとらえるとともに、対応策の有効性を考察しました。

「これほど長引くとは想像しなかった」

最初に、鉄道業界は現状をどう見るのか。JR東日本は、「コロナが、これほど長引くとは想定していなかった。テレワーク浸透などの変化をニューノーマル(新しい常態)ととらえ、当社としての針路を早急に定めなければならないと考える。一方でテレワークが難しい業界があるのも事実で、安全安定輸送のレベルアップ、安心して利用していただくための感染拡大防止策、車内混雑回避などを経営課題ととらえている」(運輸総合研究所のシンポジウムなどでの発言を集約。以下同じ)とします。

現在、社会的に高い関心を呼ぶのが「鉄道の時間帯別運賃」です。JR東日本から正式な発表はありませんが、深澤祐二社長は2021年9月7日の定例会見で、「定期券利用のお客さまには、広く薄く負担をお願いせざるを得ない。ピーク時と、それ以外に価格差を設け、利用時間帯のシフトを促したい」と発言しています。

車内混雑回避を運賃面から促す取り組みで、深澤社長は「鉄道の根幹といえる、列車ダイヤや運賃・料金を極力柔軟化。2021年3月のダイヤ改正で、首都圏線区で終電時刻を繰り上げたのに続き、ピークをならすための運賃・料金について制度設計している」と認めます。

三段論法は社会に受け入れられるか

コロナで利用客が減少して経営赤字に、やむを得ず運賃を値上げするという三段論法は非常に分かりやすいのですが、果たして社会的共感を得られるかどうかについては、熟考が必要です。こうした点はJR東日本も十分に理解するところで、現時点では時間帯別運賃の理由を経営悪化ではなく、あくまでピークをシフトさせるためとします。

鉄道以外の業界はどうか。「コロナを理由に値上げした(する)業界」をネット検索したら、「食品」、「電気・ガス」、「ガソリン」などがヒットしました。よくよくニュースを読むと、値上げの理由は単純なコロナではなく、「原材料の価格上昇」や「コロナ後の景気回復を先取りする形」が挙げられています。

鉄道や航空などの公共交通は、利用客がいてもいなくても列車や航空機を運行(運航)することで固定費が掛かる特性があり、それが経営を圧迫します。しかし、コロナで経営が厳しいのは宿泊や飲食業界も同じ。仮にコロナを理由に値上げすれば、反感を持たれかねません。だからこそ、時間帯別運賃の話が世に出て1年以上経過した現在も、実施に踏み切る事業者が現れないのでしょう。

繁忙期を高く、閑散期を安く

JR東日本のコロナ対応では、同じ深澤社長の会見で通常期、繁忙期、閑散期の3段階に分かれる指定席特急料金を、繁忙期に引き上げ、閑散期に引き下げる方針が明かされています。新幹線などの指定席特急料金は、通常期を基準に、夏休みや年末年始といった利用客の多い繁忙期は200円増し、6月や9月などの閑散期は200円引きとしています。

期別料金が導入されたのは、1980年代の国鉄時代。JR東日本は、料金改定についてJR各社と協議を進めているようです。改定の狙いはピークの平準化で、目的自体は時間帯別運賃と共通します。コロナで総体の利用客が減る中、繁忙期が存在するのかという素朴な疑問は残りますが、まずは繁忙期や閑散期の運賃を改定して社会の反応を探り、その上で時間帯別運賃の採用に踏み出すといった流れも考えられるでしょう。

ダイヤ改正の根拠になる利用客の減少割合を公表

鉄道各社は終電繰り上げ時刻繰り上げの理由として夜間作業時間の確保を挙げます。京阪もダイヤ改正の発表資料に線路や架線保守の写真を添えて、利用客の理解を促しました(画像:京阪電気鉄道)

後段の話に移る前に、私鉄各社のコロナを受けたダイヤ改正をサンプル的に取り上げます。注目したのは京阪電気鉄道。京阪は2021年9月25日から、京阪線と大津線のダイヤを変更。京阪線平日では、1日当たり運転本数を上下1255本から1066本へと大幅に減らしたのですが、新ダイヤ発表時、時間帯別の利用客数の変化を指数で表しました。

具体的には、2021年の利用客数をコロナ前の2019年と比較。平日終日では29.1%減、時間帯別では朝ラッシュ時間帯(7~8時台)18.6%減、昼間時間帯(10~15時台)41.7%減、夕ラッシュ時間帯(17~20時台)22.8%減、深夜時間帯(24時以降)69.9%減で、昼間と深夜時間帯の落ち込みが大きいことが分かります。そこで京阪は、ダイヤ改正で昼間と深夜の列車を削減しました。

JR九州は県庁所在地駅や主な列車の減少率を公表

同じような取り組みを探してみたら、JR九州が主要駅や列車の利用状況を公表していたことが分かりました。発表は京阪より前の2020年12月。2021年3月のダイヤ改正の発表に際し、コロナの影響を数字で示しました。

具体的には、2020年11月の利用状況を前年同月と比較。駅は県庁所在地駅の乗降人員ベースで、博多25%減、佐賀34%減、長崎27%減、熊本22%減、大分27%減、鹿児島中央20%減、宮崎15%減。列車は、九州新幹線博多―熊本間35%減、在来線特急「ソニック」(小倉―行橋間)40%減、「かもめ」(鳥栖―肥前山口間)42%減、「にちりん」(大分―幸崎間)34%減などでした。

鉄道利用客は、クレイマーではありません。コロナで社会全体が苦境に立たされる中、リスクを分け合って、ウィズコロナ時代に求められるサービスのあり方を探る事業者の姿勢は、多くの共感を呼ぶはずです。

JR西日本はローカル線運営を見直し

JR西日本はコロナ禍による利用客の減少に呼応して2021年10月2日にダイヤを改正します。写真の芸備線は山陰・伯備、因美・境の各線と合わせて1日20本の列車を減便します(画像:ドラマル / PIXTA)

後段はJR西日本の話題に移ります。JR西日本の長谷川一明社長は2021年2月の定例会見で、ローカル線の運営について、軽量軌道交通(LRT=一般には次世代型路面電車を表しますが、この場合は軽量気動車を指すと思われます)や、バス転換を視野に見直す考えを表明。同年6~7月には広島、岡山の両県を結ぶJR芸備線のあり方を検討する場の設置を、広島県庄原市、岡山県と同新見市に申し入れました。

初回の会合は2021年8月5日に岡山市内で開かれ、JR西日本は芸備線の岡山県新見市内区間で、1日当たり乗車人数が2~26人(2019年度)にとどまり、理由はコロナだけではありませんが、改善が必要なことを訴えました。JR西日本と沿線自治体の会合では、参加機関がそれぞれ利用促進策を持ち寄り、維持・存続の方策を話し合うことにしています。

「ローカル線の維持に自治体や事業者と力を合わせて取り組む」(赤羽国交相)

ローカル線の維持・存続・再生は、コロナ禍以前からの課題。赤羽一壽国土交通大臣は2021年8月3日の閣議後会見で、この問題に言及しました。

赤羽大臣は、「国土交通省としては、JR西日本に地元自治体に丁寧に説明を尽くすよう、指導してきたところだ」と前置き。その上で、「国としても、JRを含む鉄道事業者の資金繰りを支援してきた。ローカル線の維持・存続・再生に関しては、全国23県の知事から鉄道ネットワークの維持について要望をいただいている。いずれにしても、鉄道事業者が沿線自治体に相談なく廃線にするようなことはないので、その点も含めJR各社に対してしっかり指導したい」と述べています。

コロナと鉄道に関しては、JR西日本が2021年9月1日の取締役会で決定した、新株式発行も同列で語れる中身ですが、紙数か尽きたことから、紹介は次の機会に回させていただきたいと思います。

記事:上里夏生

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