河北春秋(9/25):市場原理主義に反発し、人を大事にする社会…

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 市場原理主義に反発し、人を大事にする社会の実現を求めた経済評論家の内橋克人さんが先日、89歳で亡くなった。東日本大震災の翌年の2012年、神戸市であったフォーラムにパネリストとして参加した小欄は、基調講演をした内橋さんの「静かな怒り」に触れた▼自身の実家も倒壊した阪神大震災の被災地では「創造的復興」と称して壮大なインフラ整備が進められた。一方で被災者の生活再建は後回しになったと断じ、こう訴えた。「苦難は今も去っていない。最優先されるべきは何をおいても『人間復興』でなければならない」▼東北の沿岸部に、あの時の言葉を重ねてみる。津波跡には巨大な防潮堤が築かれ、立派な橋や道路ができた。しかし人々の生活はどうだろうか。遺族の心は。東京電力福島第1原発周辺には帰還困難区域が広がり、今も処理水がたまり続けている▼「復興五輪」という響きにどこか空々しさを覚えた被災者は多いはず。コロナ禍が収まらない中での菅義偉首相の退任は、この国の政治の危うさを物語るようだ▼自民党総裁選は衆院選を見据えた駆け引きが続く。内橋さんはこうも語った。「狡知(こうち)にたけた美句に乗せられることなく、今こそ真の人間復興を求めて『国はなすべきことをなせ』と迫るべきではないか」(2021.9・25)