「石木ダムは不要」 8月大雨を専門家が検証 長崎県「降り方で危険度変わる」

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業を巡り、河川工学が専門の京都大名誉教授の今本博健氏(83)=京都市=が、8月中旬に川棚川流域で降った大雨のデータを基に石木ダムの必要性を検証した。384戸が浸水被害を受けた1990年7月の豪雨よりやや少ない雨量だったが、水位は低く氾濫しなかったと指摘。河川改修で「100年に一度の大雨でも安全に流れる能力が備わった」として、「石木ダムは不要」と主張した。一方、県は「雨量そのものではなく、降り方で危険度が全く変わる」と反論する。
 石木ダム建設事業の目的の一つは市街地が広がる川棚川下流域の治水。雨量が▽24時間で400ミリ▽3時間で203ミリ-を超える「100年に1度の大雨」で、ピーク時に基準点の山道橋(石木川と川棚川の合流地点からやや下流)を流れる水量を毎秒1400トンと想定。既設の野々川ダムで80トン、石木ダムで190トンの計270トンを低減し、安全に流すことができる1130トンに抑える計画だ。
 県によると、今年8月の大雨のピークは14日。今本氏が山道橋や虚空蔵など四つの雨量観測所の平均雨量を調べると、24時間で494ミリに上ったが、3時間では125ミリ、1時間では69ミリだった。短時間集中の大雨ではなく断続的に降ったため、3時間雨量は「100年に1度の大雨」を超えなかったという。
 今本氏は、雨量と水位(高さ)計の数値を基に、毎秒800トンの水が山道橋地点を水位3.1メートルで流れたと推計。堤防が耐えられる5.8メートルまで2.7メートルの余裕があり、さらに945トンを流す能力があるという。1745トンを安全に流せる計算になり、県の想定を大幅に上回る。1956年や90年の川棚川の洪水を機に実施している護岸整備や河床の掘削などの効果の表れとみており、「石木ダムは必要ない」と結論付けた。
 一方、県河川課は「今回は3時間雨量が計画を下回ったため、氾濫しなかった」との見解を示す。中村法道知事も8月末の定例会見で「雨量そのものではなく、降り方で危険度が全く変わる。急激にピークを迎えるような危険性の高い雨が100年に1度くらいの規模で降る場合にも耐えうるよう計画を策定している」と強調している。

© 株式会社長崎新聞社