<書評>『謝名元慶福戯曲集 海の一座』 戯曲で見る島口の巧みさ

 9条を守る日本でなく、戦前同様の「神国」へ復帰してから来年で50年。全てが天皇制国家護持優先で辺野古の海は破壊され、龍宮神ジュゴンは迫害され、南西諸島は自衛隊基地化し、国家による琉球処分に苦しむウチナーンチュ。一体何の為の復帰だったのか。キャラウェイの警告にもかかわらず、米国は何故ポツダム宣言受諾違反の神国復活を許したか。ワジワジーし、謝名元慶福戯曲集「島口説」と「海の一座」を読む。著者は一歳上の平安座島の先輩。中学の時に親子ラジオを使い放送部を立ち上げ、その頃から標準語はずばぬけていたが、戯曲で見る島口の巧みさに驚いた。
 「島口説」は、伊江島から平安座船大工の嫁になったスミ子の一人芝居。読みながら、屋慶名から平安座へ干潟を渡る時の北島角子の名演が浮かぶ。島の生活、捕鯨のにぎわいやアンダマイ、台風で息子を亡くし、海中道路建設に至る島チャビの苦労や米兵相手のコザの話が、平安座からコザ高校、そして東京へと劇作家の道を歩んだ著者の目で生き生きと活写され、泣き笑う。また、伊江島の土地闘争で畑をせず三線ばかり弾くスミ子の父が何故か亀次郎?の追っかけで捕まり、裁判所で証言する場面での母親の滑稽で絶妙なウチナー大和口の訴えに感動爆笑。
 「海の一座」は慶良間諸島の強制集団死がテーマの、文化座佐々木愛さんの依頼で書き上げた作品。三線を弾き歌い、島々を巡業する父と娘と新米男だが、それまで父が避けてきた故郷の島に帰り芝居することになる。ウチナー口とNHK標準語が入り乱れ、娘は集団死した母が生きていると信じて探し歩き、「天皇の赤子として天皇陛下の為に死にます」と叫ぶ教師だった父の言葉が、「生きて虜囚の辱めを受けず」の軍命に隠された国家機密をあぶり出す。実際に虜囚の辱めを受け、米軍支配下で耐え難きを耐え神国復活を狙っているのが今の日本だからである。読んで日米の愚を笑い泣いた。
 (海勢頭豊・音楽家、ジュゴン保護キャンペーンセンター代表)
 じゃなもと・けいふく 1942年沖縄県出身。劇作家、映像作家。北島角子主演の一人芝居「島口説」を手がけたほか、「阿麻和利」などのオペラ台本、ドキュメンタリー映画「いのちの森高江」の監督を務めた。
 
謝名元慶福 戯曲集 海の一座 謝名元慶福 著
四六判 520頁

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