【コラム】マカオ・コタイ地区に大型IR「グランドリスボアパレス」開業(WEB版)/勝部悠人 世界最大のゲーミング都市「マカオ」の現況

新型コロナウイルス感染症の世界的流行が依然として続く中、旅行制限のあおりを受けてマカオのカジノ業界も苦戦を強いられている。コロナ禍は長期化の様相を呈し、終息の目処が見通せない中だが、マカオのカジノ運営企業の多くはマカオのツーリズム市場の中長期的なポテンシャルをポジティブに評価し、若干のスケジュール調整こそあれど既存施設のリノベーションや新規施設の建設を進めている。

7月30日、マカオの統合型リゾート(IR)集積エリアにあたるコタイ地区にSJMリゾーツ社が累計約5500億円を投じて開発を進めてきた新IR「グランドリスボアパレス(澳門上葡京綜合度假村)」が部分開業を果たした。同IRでは、マカオで数百年にわたって続く中国と西洋の文化の見事な融合を体現することをコンセプトとして掲げており、筆者が見学に訪れた際も、まるで宮殿のような壮大かつ豪華な雰囲気に圧倒された。

今回オープンしたのは、リゾート中央に位置するカジノのほか、リゾート名を冠した旗艦ホテル「グランドリスボアパレスホテル」(1350室)の一部客室、インターナショナルビュッフェ、コンテンポラリーポルトガル料理、アラン・チャン氏の設計によるクラシックカントニーズスタイルのティーハウス、台湾の人気火鍋店、カジュアルなチャイニーズ・アジアンヌードル店ほか複数の料飲施設、屋内外の温水プールと庭園ほかウェルネス・レジャー施設、屋内外合計3800平米のイベントベニューなど。

このほか、世界初となるカール・ラガーフェルド氏設計のホテル「ザ・カール・ラガーフェルド」、アジア初のヴェルサーチデザインのホテル「パラッツォ・ヴェルサーチ・マカオ」、7.5万平米のショッピングアーケード内の各ショップ・レストランなどについても、年内にかけて順次オープン予定となっている。

コタイ地区は新興埋立地で、21世紀に入って以降、IR集積エリアとして開発が進んだ。今回のグランドリスボアパレスの開業により、マカオ政府とカジノ経営コンセッションを結ぶ6陣営すべてがコタイ地区に進出したことになる。SJMリゾーツ社は、かつてマカオのカジノ経営権を独占していたSTDM社がルーツで、伝説的な「リスボア」ブランドを掲げ、マカオ半島を本拠地としてきた。新規参入組が次々とコタイ地区へ進出し、規模の大きな旗艦IR施設が建ち並ぶようになった結果、近年ではコタイ地区がマカオのカジノの中心地としてのポジションを確固たるものにしている。マカオ半島の雄として長く君臨してきたSJMリゾーツ社が同業の中で最後にコタイ地区へ進出するというのは象徴的だ。
群雄割拠の状況にあるコタイ地区では、老舗のSJMリゾーツといえどもチャレンジャーの立場だ。コタイ地区の中でも、中核にあたるエリア(いわゆる「コタイストリップ」及びタイパ島の市街地に近い場所)は早い段階から進出したサンズチャイナ、ギャラクシーエンターテインメント、メルコリゾーツ系のIRに押さえられている。グランドリスボアパレスの立地は、中核から離れたコタイ地区の東側(マカオ国際空港寄り)で、いわば「辺境」だ。知名度抜群のリスボアブランドを掲げているとはいえ、集客には競合IRと比肩する魅力的な施設づくりと強力なプロモーションが必要になるだろう。現時点では、集客策の一環として中国本土との陸路の玄関口に加え、マカオ半島の旗艦施設となる「グランドリスボア」及び「ホテルリスボア」との間に無料シャトルバスを運行している。

グランドリスボアパレスの南側に隣接する区画にはSJMリゾーツ社と関係の深い企業が運営するカジノを併設しないテーマパーク型リゾート施設「リズボエタ」があり、相互補完的な連携が図られるものとみられる。北側に隣接するのは競合社が運営するIR「ウィンパレス」で、連携の可能性は未知数。東は新交通システムの車両基地や車検場、西は政府のスポーツ施設となっており、連携は望めない。

コタイ地区は開発から約20年を経て新規リゾートの建設ラッシュが一段落し、成熟期を迎えたといえる。今後は既存IRのリノベーションや拡張が中心となる見込みだ。目下、マカオの現行カジノ経営コンセッションの満期が刻一刻と近づいている状況。コタイ地区には未開発地も少し残っているが、更新ではなく再入札とされる次期コンセッションの開発用地をどうするのかという点も気になるところだ。

マカオ・コタイ地区に新規開業した大型IR「グランドリスボアパレス」=筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

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