コロナ禍の出生数、トレンド範囲に回復。一方、女性の経済困窮、出会いの機会減少で長期的悪影響が懸念

 新型コロナの流行は感染症病院のみでなく一般病院でも感染リスクが高いと考えられており、感染を避けるため通院する者が大幅に減少するなど大きな影響が出ている。こうした背景もあり、当初から妊娠・出産を先送りするカップルが増え、コロナ禍での出生数は大幅に減少するであろうと見込まれていた。実際、新型コロナの感染が広がり最初の緊急事態宣言が発出された後の2020年5月から7月にかけて妊娠届出数は急減している。しかし、その後回復傾向で推移し、20年末からは前年と同水準まで回復している。妊娠・出産に関する新型コロナのリスクに理解が深まり妊娠を先送りする者が減ってきていることが背景のようだ。

 9月15日、日本総研(日本総合研究所)がコロナ禍の人口動態に関するレポート「2021年の出生数・死亡数の見通し」を公表している。副題は「新型コロナの影響は限定的だが、一部に見過ごせない動きも」となっている。レポートによれば、妊娠届出数から推計される21年の出生数は前年比3.7%減の81万人程度と見込まれている。1月、2月は、前年比で大きく減少したものの、3月以降は前年水準まで回復している。16年以降の出生数のトレンドは年平均3.5%減となっており、21年の減少幅もトレンドの範囲内だ。

 マクロ数字上の出生数の推移では新型コロナの影響は限定的で少子化のトレンドから大きく逸脱したという印象は受けない。しかし細かに見ると、一部に大きくコロナの悪影響を受けた人々がいることもまた事実だ。コロナ禍で職や収入を失い生活困窮の状況に追い込まれている者の多くは若い女性だ。特に、接客業に従事する非正規雇用者など一部の女性が多大な経済的悪影響を受けている。こうした背景もあり、30代を中心とする若い女性の経済困窮を理由とする自殺も急増している。また、長引く自粛ムード、行動制限の中で、結婚を希望する若い世代の出会いの機会が縮小している可能性は大きい。こうした要因が長期的に婚姻件数や出生数の減少に結びつき少子化をさらに加速することは十分考えられる。

 レポートは「人口動態面への影響は、差し当たり懸念されたほどではなかったが、一刻も早いコロナ禍の克服と経済活動の正常化に向けた取り組みはもちろん、とりわけ影響の大きかった人たちに向けた手厚い支援が不可欠である」と指摘している。(編集担当:久保田雄城)

日本総研が「2021年の出生数・死亡数の見通し」。コロナの影響はマクロ・短期に限定的、出生数減少はトレンド範囲

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