〈朝鮮経済トレンドウォッチ 2〉経済のデジタル化を志向 第4次産業革命に対応する経済構造構築

昨年から今年にかけて、朝鮮経済におけるホットイシューとして突然浮上してきたのが「経済のデジタル化」である。

2019年1月、労働新聞の紙上に「デジタル化された経済を建設するのは世界的趨勢」という署名記事が掲載された。そしてそれを皮切りに、同様の論調で「世界各国における経済のデジタル化に関する動向」を紹介する記事がコンスタントに掲載され始めた。一方それと時を同じくして、国内の経済建設において「数字を重視する社会的気風を確立する」ことを求める記事も掲載が始まり現在も続いている。

二つのテーマの記事が並行して掲載される意図とそれらの関係性については推測するしかないが、筆者は「足は自分の地に据え、目は世界に向けよ」という金正日総書記の命題に即した意図によるものだと推察する。つまり読者に、朝鮮経済が向かう方向性は、世界的趨勢である「経済のデジタル化」であることを明確に認識させる一方、それを実現するための基盤構築のために、経済活動における数字重視を強調したという解釈である。デジタル化の基盤は数字化された情報(デジタルデータ)である。経済の現場で数字を重視することで経済のデジタル化をより早く、しっかりと進めていけるのである。

工場などでは総合管理システムによる経営管理や生産管理が行われている。写真は祥原セメント連合企業所の中央操縦室(1月撮影)

情報通信インフラ構築を先行

近年日本でも「第4次産業革命」という言葉が、書籍やニュースで取り上げられている。蒸気機関による第1次産業革命、電力化による第2次産業革命、コンピューター化による第3次産業革命に続く4度目の産業革命という意味である。現在進行中の第4次産業革命は、IoT、ビッグデータ、AI、クラウドなどの技術により、蓄積される大量のデータが解析・利用されることで、新たな変革が起こるといわれている。 第4次産業革命においてはすべての情報がデジタルデータとして流通することが必須であり、経済のデジタル化もそのような流れの中にあるものだ。

デジタル経済には様々な定義が存在するが、朝鮮社会科学院経済研究所の李基成氏は、「経済活動の全ての契機と経済管理がデジタル化された知識と情報を核心的要素とし、情報通信技術と情報ネットワークを推進力として発展する経済である」と述べている。また、デジタル経済において基本となるものは、情報技術とデジタル技術の結合にもとづいた経済の情報化であるとしながら、情報技術の産業化、経済インフラの情報化、既存産業部門の情報化、生活様式の情報化などが含まれるとした(労働新聞2020年4月8日付)。

大雑把にまとめると、既存のハードとしての産業とデジタル化したデータというソフトをインターネットなどの情報ネットワークを媒介として融合させて動く経済といえるであろうか。

このように経済のデジタル化を進めるには、いくつかの前提となる条件が必要となる。

その中でも最も基本となるのが情報通信ネットワークのインフラ構築である。情報や知識をデジタル化したとしても、それがネットワークでつながらない限り、経済のデジタル化にはつながらないからである。

朝鮮は、1992年から平壌と地方都市を繋ぐ基幹通信網をメタルケーブルから光ファイバーケーブルに交換する事業をすすめ、2008年には全国の市、郡、里まで完全光ファイバーケーブル化が完了した。また、2011年3月には交換機のデジタル化も完了し全国にブロードバンド網が構築された。

また、2008年からはエジプトオラスコム社との合弁でコリョリンクが平壌市をはじめ15の主要都市などで3G移動通信サービスを開始した。また、2012頃からは国営企業によるカンソンネットが、それまで空白であった地方を中心とした独自のサービスを開始することで、全国的規模での3G移動通信網が構築された。情報通信インフラを構築したことが、経済のデジタル化を推進することを可能にした。

「国家網」で多様なサービス提供

現在朝鮮では、国内限定のネットワークである「国家網」を運営し、さまざまなサービスが提供されている。

まず、Eラーニングが活発に行われている。金策工業綜合大学をはじめとする大学には、遠隔教育を行う専門の学部や部署を置き、全国各地の企業所や電子図書館で高等教育を受講できるようなシステムが構築される一方、平壌にある「科学技術殿堂」を拠点とした科学技術情報発信・共有サービスも行われている。

2019年には技術製品のBtoB(企業間取引)のプラットフォームとして「自強力」というサイトが開設された。同サイトには、各企業や研究室で開発された技術製品を購入したり、オリジナル製品の開発を依頼したりすることもできるという。

それ以外にも、医療現場では遠隔会議システムを利用し地方の病院と中央の病院を常時ネットワークでつなぎ、リモート診察や医師間の意見交換などを円滑に行っている。

近年、これらのネットワークを利用し、一般市民たちの生活も大きく変容してきている。少なくない携帯電話の利用者がスマートフォンを利用しており、新聞の閲覧から読書やゲーム、ショッピングに至るまで様々なアプリを駆使している。10月には朝鮮中央銀行がスマートフォンによる電子支払いシステムを開発して商用化した。スマートフォンを利用したサービスはますます拡大していく様相を見せている。

これらのアプリケーションやサービスシステムの開発は、有能な科学技術人材に支えられている。朝鮮では、「全民科学技術人材化」というスローガンのもと、次世代教育に力を入れてきたが、世界的なインターネットプログラムコンテストである「コードシェフ」において最近3年間で6回にわたり優勝するなど、有能な人材を輩出している。

このように朝鮮における経済のデジタル化に向けた動きは、初歩的ではあるが遠い未来のことではなく、近い現実のものとして動き始めている。

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今後は、国家計画情報システムと国家統計情報システム、電子商取引システム、金融情報システムをはじめとする部門別経済情報システムと工場、企業所の管理・運営のための経営情報システムを総合的に確立していくことが重要な課題となる。その上で、内閣が経済活動を統一的に指導し戦略的に管理することができるように各部門別経済システムと企業所の経営情報システムの統合も課題となる。

2021年1月に開催される第8回党大会において、経済のデジタル化に向けた具体的な方向性が提示されるか注目したい。

コラム・経済政策豆知識

最先端技術の研究開発拠点

経済のデジタル化においては、AI、クラウドコンピューティング、IoT(Internet of Thingsの略。モノが人を介することなく相互に情報をやりとりする概念をいう)、5Gなど、最新のICT技術の開発が重要になる。

2014年10月に創設された金日成綜合大学先端技術開発院は、8つの最先端技術関連研究所を擁す研究開発拠点である。

同院傘下の情報技術研究所は、AI、IoT、ビッグデータ分析のような先端産業の中枢を成す技術に関して教育と研究、製品生産の一体化と産業化を実現する活動を行なっている。また、通信工業研究所は、IP交換機、ソフト交換機をはじめとする先端通信設備およびシステムを開発・制作し、ネットワーク通信関連エンジニアリングサービスも行っている。

2019年11月に「デジタル経済と情報化熱風」というテーマで行われた全国情報化成果展覧会では同院が出展した、IoT技術とAI技術を利用したスマートスピーカーが高い評価を得た。

(朴在勲・株式会社コリアメディア企画研究部長)

※2020年11月脱稿

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