〈朝鮮経済トレンドウォッチ 3〉持続可能な循環型経済構築へ 経済的実利と環境保護

現在の私たちの生活は自然から資源を採掘して製品を作り、使い終わったら廃棄するという一方通行の経済システムのうえに成り立っている。この直線型経済(リニアエコノミー)といわれる経済システムは、資源の枯渇、地球温暖化、プラスティック廃棄物といった深刻な問題を引き起こしており、その限界が囁かれている。これにかわって、世界的に注目されているのが循環型経済(サーキュラーエコノミー)だ。この経済システムは、資源を採掘して製品を作り、廃棄物を使い、作り続けるという文字通り円を描く経済システムである。つまり、直線型経済のもとでは廃棄されていた製品や資材を新たな資源として捉え、廃棄物を出すことなく資源を循環させる経済システムである。

循環型経済が世界的な広まりを見せる起点になったのは2015年である。この年、欧州委員会が「循環経済に向けた行動計画」を発表し、循環型経済への移行を政策化した。同年の国連サミットでは「SDGs(持続可能な開発目標)」が唱えられるとともに、30年までに達成すべき17の目標が掲げられ、パリで開かれた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では、世界共通の長期目標として、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1・5度に抑えるように努力するという「パリ協定」が採択された。そうしたなか、持続可能な発展ならびに気候変動を緩和するための方法および手段として循環型経済がクローズアップされるようになった。

循環型経済への移行において重要な位置を占めるのが再資源化(リサイクル)だ。現在、リサイクルへの取り組みは世界的標準となりつつある。例えば、ナイキは使用する素材の約90%を廃棄物から再生利用した「スペースヒッピー」というブランド名のスポーツシューズを生産・販売している。また、アディダスも「熱可塑性ポリウレタン」という単一素材で作られたランニングシューズの販売を予定しているが、この素材は100%再生利用可能なので廃棄物が一切出ない。

リサイクル事業の歴史

朝鮮でも循環型経済への取り組みがなされている。その取り組みのなかでもっとも国家的に力を注いでいるのがリサイクル事業だ。現在、朝鮮ではリサイクルを「経済発展の動力」(朝鮮労働党第7期第5回総会)と捉え、重要な経済政策の一つとして実施している。

今年4月には再資源化法(最高人民会議第14期第3回会議)が採択された。同法では、リサイクルを「生産ならびに建設、経営活動過程で排出される廃棄排排出物と人々の生活過程で出されるゴミを様々な方法で加工処理することによって生産資源として利用すること」であると定義している。

朝鮮におけるリサイクル事業の歴史は実は長い。金日成主席の時代には、廃棄物となったゴム、ガラス、ビン、古紙などを国家が買取り、生活必需品の生産に利用する政策が実施された。これにより、全国各地に設けられた買取所で住民から回収した遊休資材を工場に供給して生活必需品を生産するシステムが確立された。

また、80年代には金正日総書記の発起により、「8月3日人民消費品生産運動」が実施され、全国の生産単位で遊休資材を利用した生活必需品をはじめとする日用品が生産されるようになった。この運動を通して生産された消費財は「8月3日人民消費品」と呼ばれている。今年8月に平壌の第一百貨店で開催された「8月3日人民消費品展示会」には、全国1万6千におよぶ生産単位で作られた約2万5千種の消費財が展示されたという。

生産単位の実践、優遇措置も

昨今、朝鮮では世界的な問題となっているプラスティック廃棄物をリサイクルするための研究開発ならびにリサイクル製品の生産にも尽力している。

研究開発の部門では、国家科学院環境工学研究所が廃棄プラスティックを燃料に転換する技術を開発し、建築材料研究所はペットボトルを再利用して様々な基礎有機化学製品を生産する技術を開発した。また、軽工業省は廃棄プラスティックからテトロン繊維を生産する技術を開発したうえで、その生産工程を構築し始めている。

各地の生産単位では、平壌樹脂建材工場が廃棄プラスティックの回収システムを確立し、日々大量の廃棄プラスティックを回収・再利用することで生産を正常化している。また、黄海南道新院郡燃料事業所は廃棄プラスティックを利用した代用燃油の生産工程を確立し、ここで生産された代用燃油で農場のトラクターや移動式脱穀機を稼働させている。さらに、燃油の生産工程で排出された廃棄物とスラグを主原料にレンガを生産して建設資材として活用している。このような生産単位では廃棄プラスティックをリサイクルすることで経済的実利と環境保護の二兎を得ており、国家からも高い評価を受けている。

従来の生産工程をリサイクルシステムに転換した降仙ビニール薄膜工場(2019年撮影)

こうした成果をあげている生産単位がある一方で、資金や労力などの問題で再処理工程を導入できず、国家が求める水準で事業を推進できていない生産単位もある。このような問題を解決するため、リサイクル製品とその生産単位を優遇する国家的な措置が講じられている。昨今、各工場や企業所にリサイクル事業へのインセンティブを与えるため、リサイクル事業で得た利益はすべて工場や企業所の経営および研究開発に利用できるようにしたという(民主朝鮮10月23日付、国家計画委員会リ・ジョンイム局長へのインタビュー)。

循環型経済のロジックでは、廃棄物の排出を前提として、その中から有用なモノをリサイクルする経済は、リサイクリングエコノミーといって直線型経済の範疇に含められる。それに対して循環型経済はあくまでも廃棄物を排出しない経済システムだ。したがって、循環型経済を構築するには、製品の設計段階からリサイクルを念頭においた設計を行うことで、廃棄物をまったく排出しない製品の生産体系を確立することが求められる。今後、朝鮮でもこうした段階へと順次ステップアップしていくだろう。

リサイクルをはじめとする循環型経済構築のための朝鮮の取り組みは、短期的には世界的なコロナ危機の国内経済への影響を緩和し、中長期的には敵対勢力による目下の経済制裁を無力化し、持続可能な発展ならびに環境保護に貢献しうる最善の策になるのではなかろうか。今後の展開に注目していきたい。

コラム・経済政策豆知識

8月3日人民消費品

大衆運動を通じて国内の予備を効果的に動員利用することで生産される消費品。工場、企業所に組織された生活必需品職場および作業班、遊休労力によって組織された家内作業班、副業班、家内サービス網などで生産される。生活必需品職場および作業班は、工場、企業所の廃棄物や副産物を利用して生活必需品を生産する単位。また、家内作業班、副業班は、都市や農村の遊休労力を動員して日用品を生産する単位。家内サービス網は、個人が国家の承認のもとに消費品を生産する生産単位。主に人民生活に必要な消費財を生産することで、国家が満たしきれない消費需要を補う役割を果たしている。道、市、郡などに設けられた直売店で取り扱われており、販売価格は販売者と購買者の協議によって決まる。

(楊憲・朝鮮大学校経営学部准教授)

※2020年12月脱稿

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