「震災を利用した改憲」 緊急事態条項を批判、弁護士らシンポ

 安倍晋三首相が憲法改正の優先課題に挙げる緊急事態条項の問題点を探るシンポジウムが12日、東京都内で開かれ、東日本大震災の被災地支援に携わった弁護士らが「全く必要ない。震災を利用した改憲だ」と批判した。

 災害関連法に詳しく、震災発生時に法的支援を行った弁護士の小口幸人さん、二宮淳悟さん、元最高裁判事の浜田邦夫さんらが参加した。

 弁護士らは一様に「緊急事態を宣言して、首相に権限を集中させる緊急事態条項は災害時には全く意味がなく、何の解決にもならない」と強調。「事前に準備していないことは、緊急時にはできない」というのが災害対策の実態であり、原則でもあるとした。

 二宮さんは「日本は災害大国で災害法制は非常に細かくできている。課題は制度を柔軟に運用できるかだ」と指摘。岩手県宮古市で活動した小口さんによると、倒壊家屋内での生存者の捜索を家主が拒んだケースでは、災害対策基本法を適用。行政と自衛隊が連携し、作業を進めることができたという。二宮さんはさらに「災害現場が一番、情報を持っている。権限を上に持ってくるのは逆の発想。迅速で柔軟な対応ができず、救える命を救えなくなる危険性がある」と訴えた。

 「避難所は段ボールと毛布しかない。硬い床の上で寝て体調が悪くなった被災者の死を緊急事態条項で防げたのかといえば、決してそんなことはない」と、災害関連死の審査にも携わった小口さん。その上で「政府には、支援が行き届かなかった関連死を検証し、真剣に対策に取り組んでもらいたい」と注文を付けた。

 浜田さんは「仮想現実をつくって改憲しようとしている。災害をだしにした改憲だ」と疑問を呈した。

 緊急事態条項については、東日本大震災の被災地を含む18の弁護士会などが反対声明を発表している。

© 株式会社神奈川新聞社