子どもが見るには怖すぎるという批判も…“怖いもの見たさ”の好奇心をくすぐる「シンビアパート」の魅力

トッケビ(韓国の想像上の生物。日本の〈鬼〉と似ているが、より親しみのある存在)のシンビをはじめとしたキュートな登場人物たちが、人間界の平和を守るためゴースト退治に活躍する「シンビアパート」。日本でもAmazonプライム・ビデオでの配信が始まりましたが、ホラー・スリラーをベースに、ファンタジー、アクション、ラブストーリーと、多彩なエッセンスが詰まっています。

韓国での放送が始まった当初は、夜中に子どもがゴーストにさらわれたり(第3話「窓の外の不吉な視線 ハハグモ鬼の襲撃」)、家族がのっぺらぼうになったりする(第6話「正体不明の敵 顔のないゴースト ノッペラー」)エピソードが、子どもが見るには怖すぎるという批判もあったものの、逆に誰もが持つ「怖いもの見たさ」の好奇心をくすぐるストーリーと、ゴーストと戦うクライマックスの高揚感が子どもたちの感性をがっちりとつかんで、大きな支持を得ました。

また、ゴーストにはそれぞれ異なる霊力が備わっており、新たなゴーストと戦う時には、捕獲して味方になったゴーストを、武器として使うことができます。過去に捕獲したゴーストを覚えておいて、「このバトルではどのゴーストを使えばよいか?」と考えながらストーリーを追うのも楽しいポイント。

作中には、鉄を食べる怪物プルガサリ(第15話「鋼鉄の猛獣の襲撃、クラヤミー」)、済州島に伝わる妖怪ワラがっぱ(第20話「雨の日の訪問者 島から来たゴースト」)など、朝鮮半島に古くから伝わる妖怪も登場。親世代の視聴者が、子どものころ親しんだ怪談を思い出しながら見られたことも、韓国での人気を支えた一因なのでしょう。

しかしそれだけでは、ヤングアダルトから親世代まで、幅広い年齢層がハマる理由は説明しきれません。

確かにストーリーの中心は、シンビの仲間たちと人間界をおびやかすゴーストとのバトルですが、本作の根底には、子ども向けの要素を生かしつつ、ていねいに描かれた人間ドラマがあり、登場人物の性格や心情を細やかに表現したシナリオと演出が、物語をしっかり支えています。

例えば、悪さを働くゴーストについても、実はさまざまな理由で現世への未練を残して死んだ人間の霊が取りついているというような細かい設定があります。つまり、ゴースト退治とは彼らを倒すだけでなく、ゴーストから霊を解放し、霊が安心してあの世に行けるよう助けることでもあるのです。

また、ハリたちの母親に危険を伝えるためゴーストに取りついた祖母の霊(第18話「ママと麻姑〈まこ〉バーバの終わらぬ悪夢」)や、バス事故を止められなかった運転手と乗客の霊たちとの再会(第8話「恐怖の4444番 メイソーバス」)など、事件の背景にある愛と許しのエピソードも、涙なしには見られません。

「シンビアパート」第17話より ⓒ CJ ENM Co., Ltd. All Rights Reserved.

さらに、活発なのに恋には臆病なハリと超ツンデレ男子ガンリム、クールだが寂しがりなガウンと命懸けで彼女に尽くすイアンの、2組のカップルが出会いと別れを繰り返すムズキュン満載のラブストーリーにも、ハマること間違いなし!

特に、彼らが美男美女なのに一目惚れではなく、相手の内面にひかれていることがきちんと描かれており、先述した「どんな霊にもそれぞれの人生がある」という物語の軸がラブラインでも全くぶれていないところに、制作陣のこだわりが感じられます。

よく練られたキャラクター設定を生かし、シャーマンであるガンリムの孤独な戦いにスポットを当てた回(第15話「鋼鉄の猛獣の襲撃、クラヤミー」)、ガウンとイアンの出会いを描く回(第10話「赤い瞳の少年 イアン」)といった、脇役を中心にしたスピンオフ的なサブタイトルも作られ、ストーリーに深みを加えています。

そのほかにも、スマホやクレーンゲームといった身近なアイテムにゴーストが取りついたり(第5話「呪われたスマートフォン イドゥラの魂」、第9話「人間クレーンゲーム ベアードール」)、ゴーストとのかくれんぼゲームにハリたちが挑戦したり(第16話「ゴーストと勝負だ!ラバナブ」)など、バラエティに富んだエピソードがそろっているので、家族みんなで楽しめるでしょう。


Text:田中恵美(ライター・編集者)

Edited:佐藤結(ライター)

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