北朝鮮、孤児や前科者の「送り込み」で石炭増産を図る

先日来、デイリーNKジャパンで重ねて報じてきた北朝鮮の「集団配置」。これは、今年1月の朝鮮労働党第8回大会で金正恩総書記が提唱した「国家経済発展5カ年計画」を達成するため、労働力の足りていない農村、炭鉱などの人の行きたがらない地域に、兵役を繰り上げ除隊した兵士らを送り込むものだ。

同時に、都市部の若者をそれらの地域に「嘆願した」体で送り込む「嘆願事業」も行われているが、当事者は強い不満を示し、受け入れ側にも歓迎ムードはないようだ。

今回、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきたのは、道内の明川(ミョンチョン)地区炭鉱連合企業所での集団配置の受け入れをめぐるゴタゴタだ。

炭鉱側は、5カ年計画の遂行が不振を極めている理由として、労働力不足を挙げ、道党(朝鮮労働党咸鏡北道委員会)と討議した上で、今月10日、多くの人員を「集団配置」で受け入れることにした。

人員の内訳は、孤児院である中等学院の卒業生39人、労働鍛錬隊(軽犯罪者の収監する刑務所)に出入りを繰り返した前科者21人、除隊兵士18人の合わせて78人だ。

今回の集団配置は1回目で、道党は今後も継続する計画だ。現場に対しては、労働力のことは心配せずに、党中央が関心を示している石炭鉱業の発展に力を集中し、炭田と炭鉱を拡張せよと伝えた。

しかし現場には、78人とその家族にあてがう住居がなく、とりあえず郡内の旅館、講習所などに3〜4人1部屋、家族のいる12人には1家族1部屋をあてがえ、住まわせている。

炭鉱や地元住民からは歓迎の声が上がっていると思いきや、「明川炭鉱の未来が心配になる」というため息交じりの声が聞こえるという。それは今までの経験に基づくものだ。

「炭鉱イルクン(幹部)たちは、『複数の階層(の人たち)を集団配置させれば、上級の話も聞かず、ケンカばかりして、教養(教育)して隊列整理をするだけでも非常に時間も手間もかかるから好ましくない』との反応を見せている」(情報筋)

集団で人を送り込むというのは北朝鮮の常套手段だが、常にトラブルの種となってきた。田舎の生活に慣れていない都会の若者、除隊して故郷に戻り商売をしようと考えていた兵士らが、自分の意にそわぬところに送り込まれたら、「腐る」のは当たり前のことだろう。

戸籍が都市戸籍から農村戸籍に変更され、一生をその地に縛り付けられかねない状況に追い込まれ、すきを見て逃げ出そうとする人が相次ぎ、結局はまた労働力不足に陥るという悪循環に陥る。

実際に明川でも、集団配置で送り込まれ、逃げられた事例があり、今回やって来た人員に対してもさほど期待していないとのことだ。さらに、増員に応じて石炭採掘のノルマも引き上げられかねない。現地では第4四半期のノルマが増やされそうだとの話が伝わり、人々は肩を落としている。

炭鉱の幹部は「人さえ送り込めば生産がどんどん上がる思いこんでいるようだ。お上は現場の実情を知ろうともしない」などと不満を表しているとのことだ。

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