大切なのは本音を「聞き出すこと」 元横浜高監督が反省から得た“信頼される”指導論

横浜高の監督を務めた平田徹さん【写真:中戸川知世】

選手の内側から沸き起こる「内発的モチベーション」を引き出すことが重要

First-Pitch編集部では「指導」をテーマにした連載「ひきだすヒミツ」をお届けします。前横浜高の監督・平田徹さんは2019年秋に選手への暴言などが報道され、監督を解任。反省の日々を過ごし、現在はオンラインサロンや横浜高の教え子が運営、出演する野球YouTubeを通じて、これまでに培った野球技術を育成世代に届ける活動を行っている。様々な経験をした平田さんの“指導論”は悩みを抱える指導者や野球少年のヒントになるはず。今回は、選手との関係が激変したという指導者3年目の経験を語ってもらった。

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私は大学卒業後、母校の横浜高校でコーチと部長を務め、2015年秋から4年間、監督を務めました。ありがたいことに、若いうちからコーチや監督をさせていただく機会をいただきました。退任から今までの気持ちは以前、Full-Countのインタビューで反省の思いを述べさせていただきました。その思いを踏まえて、日々精進し、野球と向き合っていくつもりです。

指導者として最も大切にしてきたのは「内発的モチベーション」を引き出すことです。難しい言葉に見えますが、これは選手の内側から沸き起こる感情で、目標を達成しようとする意欲のことです。

指導者から強制したものではなく、自分の意思によるものなので長期間継続することができます。そして、内発的モチベーションに大事なのが「言語化」。野球は「バーン」、「ガーン」など感覚的な表現が多いですが、分かりやすい言葉で選手に説明することが必要です。そうすれば、こちらの考えや意図に対して「理解と納得」が得られるので、選手は自発的に練習するようになります。言語化できないと、選手から理解と納得を得ていないと、こちらが言ったことをちゃんとやっているか、四六時中監視の目を光らせないといけなくなります。

そうは言っても、私はコーチになったばかりの頃、何も分かっていませんでした。精神論と結果論を振りかざしていた時代が何年かありました。その頃は、選手とのコミュニケーションがうまくいきませんでした。相手の反応を見れば、理解していない、納得していないのが分かります。このままではダメだと、コーチを始めて3年目、25歳の時に強く感じました。

定めていた沸点は『怠慢プレー』『ボーンヘッド』『マナー違反』

1つのきっかけは本でした。「コーチング」を知って、関連する本を読み漁りました。そこから「選手の話を聞けばいいんだ」と思うようになりました。それまでは、選手に対して「こうだぞ」、「いいか、わかった?」というスタンスでしたが、「どう思う?」と聞くようにしました。そうすると、選手は「今まで聞いてほしかったんですけど」とよく話すんです。選手が何に悩んでいるのかを知り、「今まで自分は何をやってきたんだ」と反省しました。

私も若い時はそうでしたが、多くの指導者は「子どもたちに、なめられたらいけない」という意識が常にあると思います。そのために、強面で「こうだ」と考えを押し付ける指導になってしまいます。ただそれでは、指導者にも知らないこと、わからないことがあるということを認めにくかったり、ミスができなかったりするので苦しいと思います。選手とのコミュニケーションにおいて大切なのは「怖いか、怖くないか」ではありません。

大切なのはよき理解者になること。選手は、自分を理解してくれる指導者なのか、頭ごなしに怒る指導者なのかを見ていると気付きました。選手の話に耳を傾けるようにしてからは関係性が変わりましたし、指導していて楽しくなりました。

これは選手から人気を集めようということではありません。選手が何を考えているのか、何を思っているのかを知ることで、的確に指導することができます。

指導者として大切にしてきた方針の1つにあるのが『沸点を明確にすること』でした。これをやったら叱られるというのを、できるだけ分かりやすく示すことで、不必要な萎縮を防いだり、理不尽な叱り方をしてしまうことを防いだりすることができると思います。

定めていた沸点は『怠慢プレーをしない』『ボーンヘッドをしない』『マナー違反をしない』の3つです。根底に信頼関係ができると、叱った時にそれまではふてくされていた選手が「すみません」と素直に聞いてくれます。理解、納得した選手は自発的に動きます。そのために、感情や感覚ではなく、分かりやすい言葉で丁寧に伝えることが大切だと思っています。(記事提供:First-Pitch編集部)

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