“球界最強”の同級生に「負けないように」 肘の手術から復帰したオリ右腕の誓い

オリックス・山崎颯一郎【写真:荒川祐史】

プロ3年目の2019年に右肘のトミー・ジョン手術、遠のいた1軍デビュー

「怪我をする前より楽しく野球ができています」

そう言って笑顔を浮かべるのは、オリックスの5年目・山崎颯一郎投手だ。怪我をしたのは、1軍デビューを目指していた3年目の2019年。右肘靱帯を損傷し、シーズン途中の8月に右肘内側側副靱帯再建術、いわゆるトミー・ジョン手術を受けた。

その前年には侍ジャパンU-23代表に選ばれ、コロンビアで開催された「第2回 WBSC U-23ワールドカップ」に出場。2試合に先発し、いずれも無失点に抑える好投で日本の準優勝に貢献した。190センチの長身から繰り出す落差の大きなカーブに自信を深め、ストレートのレベルアップが課題と確認。1軍デビューに向けてのヒントを得た矢先での故障は、悔しさと不安が募るばかりだった。

「悔しいし、手術が終わってリハビリの段階になっても全然肘が動かないし。投手として復活できるのかな、という思いも多少ありましたね」

手術後はしばらく、日常生活を送ることすら一苦労だった。右肘が曲がったまま固定されているため、右手で箸やフォークを持てても口元まで運べない。「ご飯は左手でスプーンを持ちながら食べました」。寮の食堂で不自由さを感じながら食事をする傍らでは、テレビでオリックスの1軍戦が流れている。

「(2019年は)同級生の山本由伸とか榊原翼が先発としてバンバン投げていた時。その姿を見て『自分もやってやる!』と刺激になったり、そうかと思えば野球を見たくないと思う時期もあったり。情緒不安定ではないですけど、頑張ろうという思いと同時にすごく悔しい気持ちも出てきて、落ち着かない感じでした」

昨年10月に実戦復帰、支配下に戻り今年5月に1軍デビューした

トミー・ジョン手術から試合復帰までの道のりは、長くて地味だ。肘の可動域を広げるリハビリから始め、ボールを握り、軽めのキャッチボール。平地で距離を伸ばし、傾斜のついたマウンドから投げるようになるまで数か月を要する。状態は大きく前進したかと思えば、また後戻り。一進一退を繰り返しながらも、着実に歩を進め続けた。

この間、戦力外通告を受け、育成選手として再契約。2桁だった背番号は3桁に増えたが、やることは変わらない。再びマウンドに上がる日、そして1軍デビューを果たす日を目指して練習を続けるのみだ。以前よりも野球と真剣に向き合い、いろいろな人の話に耳を傾けながら、トレーニング方法や投球フォームの研究を重ねた。

実戦復帰したのは、手術から約14か月後の2020年10月、阪神との2軍戦だった。同年12月には再び支配下選手として契約する幸運に恵まれ、背番号は再び「63」に戻った。

今季は2軍で開幕を迎えたが、4月27日に1軍初昇格。5月1日のソフトバンク戦で念願の1軍デビューを飾り、1イニングを無失点に抑えた。ここまで6試合に登板し(5先発)、勝利はまだない。6回1失点と好投する日もあれば、2回5失点と打ち込まれる日もある。課題は山積みだが、今はとにかく野球が楽しい。

「肘を怪我する前は、少し野球に疲れてしまったところもあって、キャッチボールですら面倒臭いと思う時期もありました。でも、肘の手術を受けた後、ボールを投げられない期間が長く続いて、早く投げたいという気持ちが出てきた。実際にまたボールが投げられるようになってから、本当に野球が楽しいです。投げられる幸せを改めて実感しています」

何歩も先を進む同級生・山本由伸「すごいところまで行っているので…」

マウンドに上がった時、必ず意識しているのは「バランスとリズム。そしてライン(投げる方向性)ですね」。結果が良くても悪くても、毎試合、投げ終わると自分の映像を見直して修正点をチェック。キャッチボールで微修正を加え、ブルペン練習で確認し、次の試合に臨む。地道な作業が何よりも大切だということは、リハビリ期間中に実感している。

チームは現在、優勝争いの真っ只中。好調な先発ローテーションを牽引するのは、今や不動のエースに成長した山本だ。リハビリ中に刺激を受けた同級生は、今夏の東京五輪では侍ジャパンの金メダル獲得にも貢献。山崎は「意識するというか、山本はすごいところまで行っているので……」と苦笑いしたが、すぐに本心を覗かせた。

「でも、負けないように、自分もチームや監督、コーチに信頼されるピッチャーになれるように頑張ります。そのためには、まず(打者を)抑えること。結果が全てなので。結果を出すために準備を重ねるのみ。頑張ります」

少し遠回りをしたかもしれないが、まだ23歳。190センチの長身右腕が、この先どう成長するのか。若手好投手がひしめくオリックスで、面白い存在になりそうだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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