白鵬引退へ

 全盛期に「憎らしいほど強い」と称された横綱・北の湖は、第一人者の地位を2歳下の千代の富士に明け渡していた。その千代の富士は若貴兄弟の台頭を「若い、強い芽が出てきた。そろそろ潮時か」と語った▲一時代を築いた大横綱たちの最後の日々をおさらいしてみて、改めて考える。世代交代の波にのまれたわけでも、思うように勝てなくなったわけでもないことが、この人の引き際を難しくしてしまったのかもしれない。大相撲の横綱白鵬が引退の意向を固めた▲2001年の初土俵から20年。幕内での最高優勝45回も、通算勝ち星1187も、丸14年間に及んだ横綱在位期間も史上1位の記録。八百長問題の発覚などで窮地に陥った国技を一人で支えた時期もあった▲1985年3月生まれの36歳は、幕内で上から2番目。万全の体調で土俵に上がれなくなっていた。それでも休場続きの日々を超え、進退を懸けて臨んだ7月場所は全勝優勝を飾った▲“最強”のまま去る。打ち立てた数字が輝きを失うこともあるまい。だが、プロレス技のような取り口や横綱らしからぬ奇襲、感情むき出しの所作は繰り返し問題視された。看板を引き継ぐ人材はいなかった▲本県の「ココロねっこ」ポスターの穏やかな笑顔を思い出す。あの表情はやがて戻るだろうか。(智)

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