BMWとキャデラックにLMDhシャシー供給のダラーラ、完全分離の“厳戒態勢”で開発進める。さらなる受注も視野に

 2023年からIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権、ならびにWEC世界耐久選手権に正式導入されるLMDh規則において、BMWおよびキャデラックにベースシャシーを供給するダラーラ。同社の上級管理職であるマックス・アンジェレッリによれば、ダラーラはそれぞれのプロジェクトに専任の開発チームを編成し、本社内では「パスワードで保護された別々の部屋」で作業にあたっているという。

 ダラーラは、DPiおよびLMDhの時代において、複数の競合するOEM(マニュファクチャラー)と協業する最初のコンストラクターであり、各ブランドの知的財産と開発過程を保護するため、極端な対策を講じている。

 現在は80人以上がダラーラのLMDhプロジェクト全体に関与しており、これらは共有グループと専用グループに分かれていて、すべてがチーフ・テクニカル・オフィサーであるアルド・コスタに報告される体制を採っていると、アンジェレッリは説明する。

「車両のスパイン(背骨・骨格)は、コンストラクターが責任を負う」とアンジェレッリはSportscar365に対し語っている。

「我々はスパインに対して責任があり、そこにスパインの定義がある」

「さまざまなエンジン、さまざまなボディワークに対して、そのスパインが有効であると確認する必要がある」

「我々には、このスパイン専用のワーキンググループがある。そして、BMWのためのグループ、キャデラックのためのグループがある」

「彼らは極めて分離された、異なる部屋で働いている」

「スパインに関わる人々は、すべてがキャデラックとBMWの双方でうまくいくことを確認する必要がある。スパインは共通だからだ」

「だが、BMWとキャデラックのグループの中には、空力やパワートレイン、システム、エレクトロニクス担当のスタッフがいる」

 それらの人々の、イタリア/ヴァラーノ・デ・メレガーリにあるダラーラのファクトリー内でのアクセスについては、特定のプロジェクトに応じ適切にコントロールされているという。これは、50%風洞についても同様だ。

「彼らは別々の部屋にいて、そこに入るにはパスワードが必要だ」とアンジェレッリは説明する。

「BMWのプロジェクトで働く人は、他のマニュファクチャラーのプロジェクトに近づいたり、話をしたりすることはない」

「たとえば風洞テストがある場合、その日そのテストに参加するスタッフにのみ、立ち入りが許される」

「その後、ドアは閉じられ、内部で人々が働く様子は外から見ることができない」

「すべてがロックされているため、誰が風洞内にいるのか、私でさえほとんどの場合は分からないんだ」

■2023年以降、3〜5社目のプロジェクト始動も目標に

キャデラックの現行DPiマシンであるDPi-V.Rは、ダラーラLMP2シャシーがベースとなっている

 4社のLMDhコンストラクター(ダラーラ、オレカ、マルチマチック、リジェ)のうち、ダラーラは700人以上を雇用する規模の大きな会社であるため、複数のOEMのプロジェクトを扱うのに最適な設備であるとアンジェレッリは考えている。

 また、2023年には3つ目のLMDhプロジェクトをサポートするキャパシティがあり、2025年までに4つ目あるいは5つ目の異なるOEMのプロジェクトを立ち上げることを目標にしている、とアンジェレッリは述べている。

 これは、現在の開発チームがBMW、キャデラックそれぞれのプログラムを、ダラーラのレースエンジニアリングチームに引き渡すタイミングで、新たなLMDhプロジェクトのための開発チームを編成できる余裕が生まれるからだ。

「この先、開発チームから、パフォーマンス・エンジニアに引き渡されていく際の、中間の段階というもの生じる」とアンジェレッリ。

「彼らは少しの間ともに働き、その後は完全にパフォーマンス・エンジニアの手に移る。そして、2023年にレースが始まる」

 アンジェレッリはまた、次のように付け加えた。

「(マニュファクチャラーが)異なるコンストラクター間で(見積もり)金額を比較する際には、プログラムに関与する人数を確認する必要がある」

「ここに、我々と競合他社との違いが明確になる。我々はこのように別々のグループで作業を行っているため、コストがかかっているのだ」

「だが、それはマニュファクチャラーに唯一無二の何かを与えるだろう。これは、他のコンストラクターが真似できることではない」

IMSAのパドックでウェイン・テイラーと話し込む、ダラーラのマックス・アンジェレッリ(右)。2005年、2013年にドライバーとしてグランダムのタイトルを獲得している

 同一コンストラクターと提携しているすべてのOEM間で共有されるコンポーネント(アンジェレッリら関係者の言う『スパイン』)は、モノコック、サスペンション、その他のパーツで構成されており、それらは2017年にIMSAに導入された第1世代のLMP2/DPi仕様から進化したものとなる。

 アンジェレッリは、DPi時代に蓄積された知識が、新世代のシャシー構造へと移行されると語っている。

「スパインのパラメーターには、少し違いがある。(LMDhは)現在のDPiのスパインの、進化版であると言えるだろう」

「より明確になっている。LMDhのコンセプトは、DPiで学んだものからの第一歩だ」

「新たなプロジェクトを立ち上げる際には、『ああしておけばよかった』という状態になるものだ。そんなすべてが、LMDhには適用されている。(DPi立ち上げ時より)はるかにシンプルで、疑問も少ない」

「ただ、クルマ自体に関しては完全に別の世代へと生まれ変わる。我々の場合、DPiと共通のものは何もない。アルド(・コスタ)と彼がもたらしたノウハウのおかげだ」

ダラーラの現行LMP2規定マシン、P217
ダラーラのファクトリーから近いイモラでの2021年エミリア・ロマーニャGPを訪れたアルド・コスタ(左からふたり目)

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