3年後にFIREして結婚したい48歳男性。資産7000万でも完全リタイアは難しい?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、48歳、会社員の男性。7,000万円の資金を元手に、3年後にFIREをしたいと希望している相談者。FIRE後には結婚も視野に。完全に仕事を辞めることはできるのでしょうか? FPの秋山芳生氏がお答えします。

48歳、独身。実家で母と同居しています。完全にFIREすべきかサイドFIRE(※編集部注 セミリタイア)すべきかで迷っています。

現在7,000万円を運用に回しています。現在の貯蓄額が4%で上昇していくと考え、51歳8,300万円を達成した時点でFIREしようと考えています。FIRE後は彼女と同棲または結婚することも考えており、一緒に住んだ場合は家賃光熱費込で10万円は払うことになると考えており、趣味の海外旅行を含めて、FIRE後の自分の生活費は30万円を考えています。

中小企業共済に5年間で420万支払っており、個人年金にも入っています(月1万5,000円支払うと65歳から月2万円を15年間貰えるもの)。

FIRE後のライフスタイルを下記の3つで悩んでいます。

(1)全く仕事をせず、中小企業共済を減額し65歳に受け取る、公的年金は減免、個人年金もFIREと同時に解約。生活費は8,300万円を運用しつつ取崩しながら生活する

(2)年収200万ほどの仕事をし、年金とiDeCo(1号)に加入し控除後の手取りを90万にするようにする(中小企業共済は最小限まで減額)

(3)年収280万ほどの仕事をし、年金とiDeCo、中小企業共済は払い続け控除後の手取りを90万にするようにする

正直、あまり働きたくないので(1)にしようかと考えていますが、年金や中小企業共済を払ったほうが良いかご意見いただきたく思います。薬剤師免許を持っているので、FIRE後も働こうと思えば働けます。

【相談者プロフィール】

・男性、48歳、会社員、独身

・配偶者の年齢:なし(彼女は30代で大企業技術職)

・同居家族について:母親(住居兼用の店で薬局経営、月収は不明)

・住居の形態:親の家で同居(大阪府)

・毎月の世帯の手取り金額:27万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:105万円

・毎月の世帯の支出の目安:15〜20万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:0円

・食費:2万円

・水道光熱費:1万円

・保険料:1万5,000円

・通信費:5,000円

・お小遣い:10万円

・その他:1万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:5〜10万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:105万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):210万円(日本円90万、ドル120万円)

・現在の投資総額:7,000万円

・現在の負債総額:0円(ローン無し、退職金無し)


秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー兼FP YouTuberの秋山芳生です。毎月5〜10万円とボーナスから105万円を運用にまわし、現在ある7,000万円の運用資産と合わせて、4%で複利運用すれば3年後の51歳の時に8,300万円になる想定なのですね。ご希望されているFIRE(Financial Independence, Retire Early)は、経済的に自立して、早期にリタイアするというアメリカ発のムーブメントですが、実現可能かを一緒に考えていきたいと思います。

3年後にFIREは現実的?

まず、資産運用の想定ですが、月に5万円を運用にまわし、105万円のボーナスも運用にまわし、元本7,000万円と合わせて4%で運用できれば計算上は8,400万円に到達します。相談文の8,300万円という想定より大きな金額になっていますが、これは運用期間の想定がずれているからだと思います。

投資運用をされていればわかると思いますが、重要なことは、「投資は想定通りにいくかは分からない」ということです。10年以上の長期運用で運用するならば、平均複利4%は実現性がある数字だと思いますが、3年という短期では、ボラティリティ(資産の価格の変動率)が大きく、どうなるかわからならないと思います。資産のポートフォリオがどのように組まれているのかわかりませんが、4%を想定するには株式の比率がそれなりに高いと思いますので、FIREの時期は3年と決めず、目標金額を達成したら、という感じで考えると良いと思います。

FIREの理論通りにいくとは限らない理由

一般的なFIREの理論は、「年間生活費の25倍を貯めて、株式と債券で運用しながら4%ずつ取り崩していく」というものです。

FIRE後の生活費用は30万円/月を想定されていますが、30万円/月ということは、年間で360万円の生活費がかかります。そのうえで、25倍となると9,000万円が必要になるので、8,400万円では若干足りないことになりますね。

「4%」という数字は、米国の税率が運用益に対して10%しかかからないことが前提になっています。日本では運用益に対して20.315%が発生するので、若干不利になります(NISA枠や確定拠出年金での運用ではなく、課税口座の場合)。

仮に8,400万円という大金が手元にあっても、月30万円ずつ取り崩していっても大丈夫ということにはならなそうです。選択肢としては、生活費を抑えるか、資産をもっと増やすことが必要になってきます。

実家を出て発生する費用は?

次に、生活費について考えていきたいと思います。

現在はお母様と同居しており、お母様は住居兼用のお店で薬局を経営されています。そしてご相談者さまの職業は「会社員」といただいていますが、小規模企業共済に加入していることから、お母様と共同経営者、または役員をされているのだと想定します。FIRE後に現在のパートナーと同棲または結婚を考えていらっしゃるとのことですが、その場合の生活費は「10万円の家賃・光熱費が増える」と想定されていますが、実際にはもっと増える可能性があります。

ひとつずつ見ていきましょう。

【家賃】
実家なので現在は発生していませんが、パートナーと同棲する場合、折半をしても5〜10万円ほどはかかる可能性があります。また、引越し費用・敷金礼金・仲介手数料・火災保険などが発生することを想定しておきましょう。

【食費】
現在実家のため2万円となっていますが、同棲・結婚したら増える可能性があります。

【水道光熱費】
現在1万円となっていますが、ガス・水道・電気の支払いがさらにかかる可能性があります。

【日用品】
シャンプー、石鹸、ティッシュ、トイレットペーパー、洗剤、洗浄用具(トイレ・お風呂・水回り)歯ブラシ、歯磨き粉、電球、ゴミ袋などが必要になってきます。

【特別費】
テレビ、冷蔵庫、レンジ、掃除機、ドライヤー、布団、枕、ベッド、パソコン、携帯など、実家暮らしで共有できていたものの費用が新たに発生する可能性があります。

【交際費・趣味娯楽】
現在10万円を想定

これらの支出が、パートナーとの新しい生活の中で、どれくらい発生するかが分からないので、30万円以内で生活できるのか、さらにかかるのかは実際に生活を始めてみないと見えてこないのではないかと思います。

FIREは、将来の生活イメージをしっかり持ってから考えても遅くない

FIREは、将来の生活イメージをしっかり持ってから考えても遅くないと思います。実家から離れてパートナーと暮らすというのは、大きなライフステージの変化になります。状況が大きく変わるのであれば、まず変化を体験してから、その状況に合わせてどのようにFIREを達成していくかを考えればよいと思います。

FIREは概念として「働いても・働かなくても良い自由を得る」ことと言われます。そして、ご認識の通りサイドFIREと呼ばれる、資産の取り崩しをしながら足りない分を働いて補う方法もあります(サイドとは「サイドハッスル=副業」から来ており、得意なことを生かし、楽しみながら収益を得るイメージです)。

焦らずに、まずライフイベントやライフステージの変化を先に経てから、状況に合わせて柔軟に考えるとよいのではないでしょうか?

相談者の想定する選択肢は現実的?

考えられている選択肢についてですが、
(1)の「完全にリタイアし、8,300万円を運用しながら30万円を取り崩して生活する」というのは、少し厳しい可能性があります。

(2)の「年収200万円ほどの仕事をし、サイドFIREする」、(3)の「年収280万円ほど仕事をし、サイドFIREする」場合は、どちらの案でも90万円ほどを生活費にまわしながら、小規模企業共済やiDeCoを続けることを考えていらっしゃいますね。確かに、小規模企業共済は、個人事業主の方や会社の経営者のための「退職金制度」と言われ、所得控除が受けられるので、収入がある方は税金が優遇され有利な制度となりますが、所得が現在に比べて少なくなるので、所得控除のメリットは小さくなります。それほど大きな税制メリットが無いので、無理に制度を利用して運用資産を減らすより、稼いだ収入を生活費に充てて8,300万円の資本を取り崩す金額を小さくしたほうが良いでしょう。

個人年金についても、1万5,000円ずつ積み立てたものが月2万円になっているので、お得なように感じますが、利回りにすると1%前後のことが多く、投資運用で備えたほうが有利な場合が多いです。無理に続けて、8,300万円の運用資産を減らさないほうがよいと思います。

FIREは、「自由な選択肢をもつための手段であって、目的ではない」

よく、FIREは、「自由な選択肢をもつための手段であって、目的ではない」と言われます。今後の生活が大きく変わって行く可能性がある中で、FIREが生活をより良く過ごすための手段になれば良いと思います。パートナーとの生活やご一緒に働いているお母様の生活とのバランスをみながら、選べる自由の中から最適な選択をされて行けば良いと思います。

どこか参考になれば幸いです。

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