〈朝鮮経済トレンドウォッチ 4〉一体化に向かう科学技術と経済

朝鮮型「産学連携」の広がり

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朝鮮労働党第8回大会(1月5~12日)を高い熱意と経済的成果で迎えるための80日戦闘が最終段階に差し掛かった頃、金策工業綜合大学自動化工学部の研究集団が某企業(非公開)において最先端工場の代名詞ともいえる「スマート生産システム(SMS)」を実現したという貴重な成果が控えめに紹介された。

科学技術強国の建設を最優先課題に据えた党第7回大会(2016年5月)のあと朝鮮では、科学技術は経済強国建設を牽引する機関車、国家の最重要戦略資源であると位置づけてその発展に取り組んできた。経済制裁による難局を正面突破するための昨年来の闘いにおいても、経済活動に隘路が多い時には科学技術が灯火となって前途を照らすべきだとされた。

そして科学技術の発展を経済成長につなげるための重要な方策として「科学技術と経済の一体化(または科学技術と生産の一体化)」方針が打ち出された。

製品開発と生産の新たな拠点

かつては科学技術の研究を主たる任務としてきた研究機関が、今では実用性の高い先端技術の開発拠点、生産拠点としての役割を担っていることに目を向けてみよう。言わば世界各国で広範に導入されている「産学連携」と比肩できるような事例である。

たとえば金日成綜合大学経済学部が開発して150余の企業に導入された統合経営情報システム「大安(テアン)2.0」は、経営状態をリアルタイムで分析・予測し意思決定をアシストすることによって経営効率を大幅に改善した。国家の標準システムに認定された「大安2.0」は、生産から会計、環境にいたる各種管理機能に加え経営戦略作成機能も備えており、これを導入した企業では管理部門労力を20%以上、原料・資材消費を30%以上も削減できたという。

同大学で先端技術製品の研究開発と生産拠点の運営をサポートしているのがチフン科学技術交流社である。鋳物製品、医薬品、実験器具、分析設備、測定設備などがこの会社の主力製品で、特に関節治療薬のコンドロイチンカプセル(2015年)と骨粗鬆症治療薬の骨吸収抑制剤(18年)は世界知的所有権機構(WIPO)の発明メダルを取得した。

一方、金策工業綜合大学の金属工学部分析器具研究所が開発した近赤外線スペクトル分析器(14年)もWIPOの発明家証書と金メダルを取得している。この分析機は各種有機物の成分含有量を何の試薬も使うことなく数分程度で分析できる優れもので、クムコプ体育人総合食品工場や船興食品工場、平壌子ども食料品工場などに導入され好評を博している。

また同大学の自動化工学部が開発した紡織用のコンピュータ支援設計/製作(CAD/CAM)システムは紡織産業における一つの革命だとの呼び声が高い。このシステムが沙里院タオル工場に導入される際に、同工場の計画および生産管理システムと結合した統合生産システムを構築することによってタオルの生産能力は1.3倍に向上したほか新製品の設計デザイン開発に要する時間は半年から1時間に短縮されたという。

教育と研究、生産の一体化へ

科学技術は無限の戦略的資源と言われるが、それを担うのは人材である。とすれば、科学技術人材こそが最大の戦略的資源であり、その育成過程を研究開発と生産の現実に近づけ一体化させる方針にも頷ける。金正恩総書記は、教育と科学研究、生産の一体化を実現することは一流クラスの大学づくりにおける重要な課題だと指摘している。

教育、科学研究、生産の一体化を担うべく誕生したのが金日成綜合大学の先端技術開発院と金策工業綜合大学の未来科学技術院である。

金策工業綜合大学の未来科学技術院(朝鮮中央通信=朝鮮通信)

金日成綜合大学のウェブページによると、先端技術開発院のミッションは「情報技術、ナノ技術、生物工学、材料工学などの中核基礎技術部門の総合的な研究開発機関として、科学研究と教育および生産を一体化させ統一的に運営し、知的製品および先端技術の対外的交流を活発に展開して高度の科学理論的資質と実践能力を備えた有能な人材を育成することによって、大学を世界一流クラスの研究型大学に強化発展させることに寄与する」ことにある。

同様の使命をもつ未来科学技術院に新築された17階建ての研究棟には、レアメタル標準物質、電子受感装置、細胞分離器、ソフトウェア製品などの各開発生産区域が配置されていて、学生たちはここで専攻実習を十分に受けるだけでなく教授、研究士、博士院生とともに実際に先端技術製品を開発する過程で開発創造型の人材になることができる。

教育と科学研究と生産の一体化の実践課程は、企業にとっては先端技術によるイノベーションを実現する機会であり、研究教育者にとっては社会に役立つ研究テーマに出会う機会であり、学生にとっては実践への適用と結び付けて科学の原理をよりよく習得できるこの上ない機会である。さらに大学にとっても教育内容の実用化、総合化、現代化方針を具現する機会となるうえ、研究資金の調達にも役立つともなれば「一石五鳥」と言えそうだ。

〔表〕「大学(研究機関)発ベンチャー」とも言える事業体の一例

産学連携のその先

2020年第1四半期に開催された内閣総会拡大会議は、教育と科学技術と生産の一体化の成果をレベルアップすべく、「産学連携」を「産学協同」へと深化させる方針を打ち出した。その対象大学(金日成綜合大学、金策工業綜合大学、平壌機械大学など)と対象工場(平壌ベアリング工場、平壌蒸着工具開発会社、平壌326電線総合工場、平壌自動化器具工場など)が選定され、これらのモデル大学とモデル工場が共同運営を戦略的に行いその成果と経験を一般化する課題を提示した。

「産学協同」とは別に朝鮮型「軍産学連携」とでも言えそうな展開も慎重にではあるが見通される。

仲坪飛行場(軍)の敷地に仲坪野菜温室農場(産)が建設され先進科学技術(学)による野菜栽培の最適化、最良化が進められている。また妙香山医療器具工場の機械設備の供給を担当した工場、馬息嶺と陽徳温泉のスキー場リフトを生産した工場はともに軍需工場である。

資本主義諸国のそれは、経済を軍事化して独占資本の利潤を極大化するための悪名高き三者結合だが、社会主義朝鮮のそれは人民生活への奉仕に向けられている。このような事例は今のところそれほど多くはないが、強力な国防力による平和的環境の安定化によっていっそう顕著な傾向になることに期待したい。

コラム・経済政策豆知識

経営戦略、企業戦略

朝鮮において「科学的な経営戦略、企業戦略」が求められたのは2005年の新年共同社説が最初である。

この段階では、内閣の経済指導幹部が科学的な経営戦略を備え持つことに焦点があてられたが、2015年の新年の辞では、生産を拡大し、品質と競争力を向上させるためにすべての経済部門と事業体で経営戦略、企業戦略をしっかりと立案することが求められた。

この要請に沿って、先端技術による製品の競争力向上を経営戦略の中心に据える企業、人材の育成と活用を重視する戦略を重視する企業、原料・資材・設備の国産化を達成して「自社の顔」となる主力商品のシェア拡大を戦略とする企業などが増大した。

さらにこの過程で「総合品櫃管理(TQC)」「SWOT分析」「6(シグマ)管理」など諸外国の経営管理手法にも関心を払うようになった。

今日では、正面突破戦の要請に応じて資源の再利用と節約型の企業運営を戦略的に重視する企業が多数出現している。

(姜日天・在日本朝鮮社会科学者協会副会長)

※2021年1月脱稿