〈朝鮮経済トレンドウォッチ 5〉スマホの普及と活用事情

実用アプリが暮らしと経済をサポート

© 株式会社朝鮮新報社

昨年12月、労働新聞は移動通信施設の建設と管理運営、移動通信網の完備、移動通信サービスと利用など、移動通信事業にかかわる原則を定めた「移動通信法」が新たに制定されたと報じた。朝鮮における移動通信の普及を背景に、今後移動通信網の拡大・発展、利用の多様化などを促進するための布石とみられる。

朝鮮では現在、「コリョリンク」と「カンソン」という二つの移動体通信サービスが提供されている。「コリョリンク」は、朝鮮逓信省傘下の朝鮮逓信会社とエジプトのオラスコム社との合弁会社であるチェオ技術合作会社により2008年からスタートしたサービスであり、一方「カンソン」は、2012年からスタートした朝鮮逓信省が独自に展開するサービスである。コリョリンクは平壌などの主要都市部、カンソンは地方部と、サービスの提供地域をすみ分けており、競合はせずに互いにローミングサービスを行うことで全国的規模での通信を可能にしている。

朝鮮における移動体通信サービス加入者数についての公式統計はないが、600~1000万人との推計が可能である(詳細は別欄)。スタートから10数年足らずでの加入者急増に伴って広く普及したのがスマートフォンであった。2013年に初の国産スマホ「アリラン」が登場した後、複数の企業から低価格のスマホが次々と販売され始めたことが普及のきっかけになった。2~30代の社会人や大学生など若者を中心に人気に火がついたのだ。移動体通信サービスの普及とスマホ販売のタイミングが重なったことが追い風になったと思われる。その後、新たに販売される機種はほとんどスマホであることを考えると、現在の移動体通信サービス加入者の大半がスマホを利用しているとみても大きな間違いはないだろう。

移動体通信サービス及びスマホの急速な普及の背景には、その間の国内経済の活性化があることは間違いないが、それとともに、スマホの利用を促すアプリの開発・普及があることを見逃してはならない。

万景台情報技術社で開発・生産しているスマートフォン「チンダルレ」

便利ツールで生活快適に

通勤・通学のバスや電車の中で新聞アプリでニュースを読んだり、電子書籍で読書したり、映画やドラマを楽しんだりする人々。料理アプリでレシピを確認し新しい料理に挑戦する人。複数のショッピングサイトでスマホケースを品定めする若者…。われわれが日本で見かけるこのような光景はそのまま、平壌での光景でもある。

朝鮮では現在、数えきれないほどのスマホ用アプリが開発され利用されている。

「世界モバイル利用動向調査2019」(デトロイトトーマツ)によると、日本でよく利用されるのは天気アプリを筆頭にSNS、ニュース・新聞、ゲーム、ショッピング、写真・動画などだとされるが、朝鮮においても傾向は大きく異ならないようだ。

朝鮮でも天気アプリは人気があり、一般的な用途だけでなく、海洋、農業など専門分野に細分化されたアプリまである。また、労働新聞をはじめとする各種新聞・ニュースの閲覧アプリや電子書籍を読むアプリも人気である。ゲームアプリもさまざまで、ブルートゥースで対戦できるテコンドーゲームなど、特色のあるものも多い。

現在、朝鮮には「玉流」「万物商」「銀波山」「アプナル」「実利」などショッピングアプリだけで11のアプリがある。これらは楽天市場やYAHOOショッピングのように、提供されたプラットフォームに各種ショップが出店するという形態のもので、「万物商」には400店舗が登録し、6万点の商品が扱われており、一日7万ページビューがあるという。

筆者が撮影したショッピングアプリ「実利」のホーム画面

この他、特徴のあるものとしては、健康関連アプリや学習アプリ、そしてカラオケアプリがある。スマホ内臓のセンサーを使い、血圧や視力、酸素濃度までも測定可能な健康検診アプリや、子どもの能力を啓発するアプリなどは、そこに暮らす人々の関心事が反映されたものだろう。また日本ではあまり見かけないカラオケアプリはブルートゥースのマイクとペアリングしてカラオケができるというもので、歌や踊りが好きな民族性が表れているようで面白い。

金融、農業に資するアプリも

既報の通り、朝鮮では経済のデジタル化が志向されており、経済の各部門や企業所においてICT(情報通信技術)を積極的に利用することが課題となっている。

電子決済アプリの「チョンソン」システムは金融部門での課題を解決するものとして期待される。これまで現金でしか行えなかった水道料金や電気料金などの支払いも電子決済で行えるようになったとされ、住民の利便性を高めるとともに金融システムの情報化を進めるうえで大きな前進となる。

スマホを利用して業務サポートを行うアプリの開発も盛んである。

2019年に公開された「現場イルクンの友」1.0は、電力工業、採取工業、金属工業、機械工業、建設部門などのメニューで構成されており、各々の部門における規格や単位換算などを確認し計算できる業務サポートアプリである。また、「科学農業」1.0は営農に必要な各種資料を総合的に集約したプログラムで、農業を科学的に営むことを積極的に支援するという。その他、COガス濃度をリアルタイムで測定し、事故警報と救助要請を移動体通信網を通じて行うアプリなどは、炭鉱での危険な作業の安全を確保するのに資する非常に実用的なアプリだといえよう。

このような動きは、移動通信網とそれを利用する端末であるスマホを、単なる個人的な趣味や娯楽の手段としてだけでなく、国家的な課題である経済活性化のためにも積極的に利用していくという方向性をあらわしたものといえよう。

金正恩総書記は朝鮮労働党第8回大会(1月5~12日)において、通信インフラの技術更新の推進と次世代通信への早期移行という課題を提示した。

朝鮮では、AI技術やビッグデータ技術の開発応用と共に、移動体通信網の5Gへの早期移行を目指した研究開発を進めているとされる。

厳しい状況下でも、独自の戦略と技術で世界の趨勢に追いつかんとする朝鮮の試みに期待したい。

コラム・経済政策豆知識

移動通信サービス加入者数

ユニセフ(UNICEF:国連児童基金)が2018年に発表した報告書によると、2017年に携帯電話を所有している世帯の割合は、全世帯のうちの69.0%にあたる586万4千世帯であった。内訳は都市部が422万3千世帯、農村部が163万4千世帯である。

これによると、すべての世帯で加入者が1人だけであるという場合、加入者数は世帯数と同じ586万4千人となる。しかし実際には、都市部などでは1世帯に複数の所有者加入者がいる可能性が高いと思われる。そこで、各世帯当り加入者1.5人または2人いるとした場合の所有者数を推計したのが下記の表である。

農村部では世帯当たり1人、都市部では世帯当たり1.5人前後が所有すると考えると、現在の所有者数は600万~1千万人程度であると推計できる。実際にはこれよりも多い可能性が大きいと思われる。

【表】世帯別携帯電話所有率(実数)及び携帯電話所有人数推計(2017年)※単位:1000

(朴在勲・株式会社コリアメディア企画研究部長)

※2021年2月脱稿