〈朝鮮経済トレンドウォッチ 6〉対外経済における主要産業「観光業」 発展戦略としての開発区に注目

現在、新型コロナウイルスの影響により、世界の観光業は大打撃を受けている。国連世界観光機関(UNWTO)は、昨年の観光業の損失額が日本円で150兆円に上り、観光市場が新型コロナ以前の水準に戻るまでには2年半から4年かかると予想している。国連世界観光機関による予想のように現在、厳しい状況にある観光業であるが、新型コロナ以前には右肩上がりの成長を示しており、21世紀最大の成長産業と称されるほど成長の著しい産業であった。したがって、新型コロナの収束とともに再び成長軌道に乗るものと思われる。

課題は観光業の活性化

今年1月に開催された朝鮮労働党第8回大会(以下、党大会)では、対外経済部門において観光業の活性化が課題として提示された。なかでも「金剛山地区を朝鮮式の現代的な文化観光地に転変させる」ことが優先課題に取り上げられた。具体的には、金剛山観光地区総開発計画に示された高城港海岸観光地区と毘盧峰登山観光地区、海金剛海岸公園地区と体育文化地区を新たな国家経済発展5カ年計画期間に年次別、段階別に開発していくことが決定された。

この決定は2019年10月、同地区への金正恩総書記の現地指導での指示を反映したものである。この現地指導の際に、金正恩総書記は党大会で指摘された金剛山観光地区総開発計画を作成・審議し、前出の4地区を開発していくことを指示した。当初、この地区の開発計画は開発の動力を外資に求めるものとなっていたが、この現地指導をきっかけに動力を国内に求めるものへと修正された。その背景には、以前にも増して国力が強化されたことへの自信があると思われる。金正恩総書記は現地指導の際に、国力が弱かったときに外部に依存して金剛山を開発しようとした前任者の依存政策を辛辣に批判した。今後、金剛山と元山葛麻海岸観光地区および馬息嶺スキー場をつなげることで、この一帯を世界的観光地に開発していく予定だ。

周知のとおり、個人観光は国連による経済制裁の対象外となっている。したがって、外国人向けの観光業は対外経済交流を発展させ必要な外貨を獲得するための重要なテコとなる。党大会報告の対外経済部門のセンテンスにおいて観光業だけが言及されたのはこのためではなかろうか(党大会報告の全文が公開されていないので断言はできないが)。

ところで、朝鮮には観光資源が豊富に存在するが、未だ開発されていない地域が少なくない。こうした観光資源を開発・利用し、経済発展ならびに人民生活向上に寄与するために創設されたのが観光開発区である。現在、朝鮮では観光開発区の開発および運営が、観光業を発展させるうえでの重要な戦略となっている。朝鮮に設置された観光開発区は現在、中央級と地方級を合わせて6つある(豆知識参照)。

例えば、朝鮮の最北端にある地方級の経済開発区である穏城島観光開発区は、「ゴルフ場、ウォーターパーク、競馬場、朝鮮料理店をはじめとするサービス施設を整備し、外国人に対する専門的なレジャー観光サービスを基本とする観光開発区」を目指している。また、工業開発区をはじめとする他の経済開発区においても、本来の開発目標と合わせて観光業をその目標に定めているものが多い。

咸鏡北道穏城島観光開発区の地図

国内外へ向けた観光商品

一方、朝鮮の旅行社は国内外に向けた様々な観光商品を開発している。国家観光総局HPを閲覧すると外国人観光客を対象としたテーマ別観光というツアー商品(飛行機愛好家観光、登山観光、スポーツ観光、鉄道観光、大衆交通手段観光、サーフィン観光、建築観光、山岳マラソン観光、自転車観光、乗り物愛好家観光、労働生活体験観光、平壌市上空アビエーション観光、テコンドー観光)が紹介されている。テーマ別観光では実にユニークなツアーが組まれている。その中の一つが、航空機マニアを対象とした飛行機愛好家観光(7泊8日)というツアーだ。HPには、旧ソ連製やウクライナ製の航空機に安全に乗れるということが好評で、英国、ドイツ、フランス、オーストリア、オランダをはじめヨーロッパからの観光客が多く、その希望者は毎年増えていると紹介されている(もちろん、新型コロナ以前の話だろう)。

また、国内向けの様々なツアー商品も開発されている。白頭山、七宝山、妙香山をはじめとする名勝地、麻田海水浴場、馬息嶺スキー場などの観光スポットが人民に低価格で提供されていることが本紙でも紹介されたことがある。さらに、労働新聞は一昨年にオープンし、新型コロナの影響で昨年2月から営業を停止していた陽徳温泉文化休養地が、今年2月に営業を再開したと伝えた。その際、実際に温泉やスキーを楽しむ国内観光客の様子も報道された。今後、観光業は外国人向け(インバウンド)を除いても成長産業としての地位を固めていくことになるのかもしれない。

ただ、朝鮮の観光業を占ううえで楽観視できない客観的条件があるのも事実だ。新型コロナと経済制裁がそれである。特に、経済制裁については前出のとおり個人観光が制裁の対象外となっているが、朝鮮の旅行社への旅行代金の送金を制裁違反であるとして、敵対勢力が挑発してくる可能性がないとは言い切れない。とはいえ、党大会で指し示されたように朝鮮はこうした諸々の悪条件を内的動力で突破していく決意を固めた。

現在、朝鮮は観光業発展の可能性について、どのように考えているのだろう。この点について最後に触れてみたい。まず、戦争抑止力を手にしたことによって、観光業の発展に必要な平和的環境が用意された。国の平和なくして観光業の発展はありえない。また、観光業の発展に必要な人的・物的資源がある。人的資源については、実際に観光業を担う専門的な人材が国際観光大学、張鐵久平壌商業大学、平壌外国語大学で育成されている。物的資源については、宿泊施設をはじめとする既存の各種施設が存在するので、観光業発展のための経済的土台がある。さらに、朝鮮には名勝地、歴史遺跡など観光地として開発しうる観光対象が豊富に存在する。これらの諸条件をもって、朝鮮は現在、観光業の発展に必要な現実的条件が整ったと考えている。今後の観光業の発展に注目していきたい。

コラム・経済政策豆知識

朝鮮に設置された経済開発区

経済開発区とは、「国家が特別に定めた法規に則り、経済活動において特恵が保障される特殊経済地帯」(経済開発区法第1章第2条)である。経済開発区の創設は、2013年3月31日、党中央委員会第6期第23回総会(3月全員会議)で決定され、同年5月29日には経済開発区法が制定された。経済開発区は、それを管理・運営する主体によって地方級と中央級とに区分される。経済開発区の管理機関が道(直轄市)人民委員会に所属する場合、地方級の経済開発区となり、中央機関に所属する場合は、中央級の経済開発区となる。また、開発部門によって工業開発区、農業開発区、観光開発区、輸出加工区、先端技術開発区に区分される。現在、朝鮮に設置されている経済開発区(工業開発区:14、農業開発区:3、観光開発区:6、輸出加工区:3、先端技術開発区:1)は表のとおりである。

【表】朝鮮の経済開発区一覧

(楊憲・朝鮮大学校経営学部准教授)

※2021年3月脱稿

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