〈朝鮮経済トレンドウォッチ 9〉知的財産の創出と活用 科学技術と経済の一体化

朝鮮労働党第8回大会では、これまでの科学技術重視路線の遂行過程が全面的に分析され、課題の要点の一つとして指導管理体系の確立による効率性の向上が指摘された。

1月17日に開かれた最高人民会議第14期第4回会議における金徳訓内閣総理の報告でも科学技術発展に対する統一的指導および戦略的集中に注力し、資金を浪費することによって発展を阻害することがないようにするということが指摘された。実際、本会議において可決された科学技術予算は、前年比で1.6%増加されたが、昨年同予算が前年比9.2%増加だったことに比べると遥かに低い。

ここからもわかるとおり科学技術の発展計画は、やみくもに目標を掲げ注力するというものではなく、指導管理の強化によって効率的な発展を目指すというものであることがわかる。

知的所有権保護制度の特徴

国家的資金をむやみに費やすことなく科学技術を発展させ、その成果を経済に還元するうえでまず求められることは、科学技術開発に対する内発的意欲を駆り立てることであろう。資本主義国家においてそれは、知的財産権保護制度によって促進されることになる。すなわち、財産的価値ある創造物に対する第三者の使用を制限し、創作者の利益を保護することによって創作意欲を駆り立てるのである。しかし、国家所有、協同団体所有を基礎とする社会主義制度では発明家や科学者など特定の主体に科学技術成果に対する排他的所有を認めるような制度をそのまま受容することはできない。

そのため知的財産保護の代表的な法である特許法は、朝鮮において発明法として制定され内容も幾分異なっている。もっとも特徴的な点は、科学技術成果に対して与えられる権利が特許権と発明権で構成されている点にある。発明法では第40条において「発明権を得た技術の利用は、機関、企業所、団体が行う」と規定し、権利が個人の所属機関などに帰属するとしている。第41条において権利が個人に帰属する特許権も認められているが、第12条および第13条において職務遂行過程および所属機関などの設備を使って創造された発明は発明権とし、それ以外の時間に自己の有する手段を用いて創造された発明は特許権として扱うとしている。そのため生産手段が国および協同団体によって所有される社会主義朝鮮では結果的に国内公民による科学技術成果は、あらかた発明権として扱われ国、企業所などに帰属することになる。

そのため新たな科学技術成果を創造するインセンティブは、権利付与という形態ではなく個人に対する報奨制度のありかたに大きく依拠することになる。

WIPOで認められた朝鮮の知的財産の数々
WIPOで認められた朝鮮の知的財産の数々

知的財産創出のための試み

その点で注目されるのが科学技術成果導入法である。この法律は、2020年12月4日、最高人民会議常任委員会において制定された。いまだ全文は公表されていない。しかし、朝鮮の政府機関紙・民主朝鮮が3回(2021年3月3、5、6日付)にわたり解説記事を掲載した。そこで目を見張るのが特恵優待制度に関する規定の解説である。

この点、発明法では、第61条において「…社会的に優待し評価する」と規定されているだけだ。これに対して科学技術成果導入法では科学技術成果を経営に導入することにより生産性向上、費用節約など新たな実績を生み出した単位および個人に対して与えられる特恵や優待が詳細に規定されており、賞金を与えることまでも明確に定められている。

現在、国内の科学技術発明関連の主な表彰制度には「2.16科学技術賞」「科学技術革新賞」「国家最優秀科学者、技術者」称号の授与などがある。しかし、これらの権威ある表章制度においても現状、賞金授与は行われていない。科学技術成果導入法において評価対象に賞金が与えられるという規定は、社会的に大きなインパクトを与えるものであり、そこから現状、必ず解決しなければならない科学技術に関する重要な課題が浮かび上がってくる。

国際機関で認められた朝鮮の知的財産、植物活性増強剤「楽園―410」。2019年、WIPO発明家賞が開発者に授与された

知的財産の効率的な活用

科学技術成果導入法の内容は、科学技術的発明を促進することだけではない。創造された科学技術的成果を企業所などに導入するために相互間の連携を様々な形で強化できる環境を整備することもまた主な内容である。

朝鮮は、今年を「科学によって奮い立つ年」にしなければならないと位置づけ、真っ先にすべての部門、企業所などが科学技術発展計画を法的義務とみなして無条件作成、実行しなければならないことを強調し(労働新聞2021年4月5日付社説)、国家の統一的な指導管理のもと科学技術と経済の一体化を促進することを重要な課題としている。

しかし、科学技術発展計画の作成および遂行は、すでに施行されている科学技術法で明確に企業所の法的義務と規定されている。それにもかかわらず、法的義務と捉えなければならないと強調するということは、朝鮮国内の少なくない企業所で国家の統一的な指導管理を逸脱し義務を遵守しない傾向が顕著に現われていたのであろう。労働新聞2018年12月12日付記事では、「国家重点対象課題を含む千数百件の科学技術発展計画の遂行を通じ…」と言及されているが、朝鮮国内の企業所の数からすれば圧倒的に少ない数字であり科学技術法に裏付けされた国家の指導管理体系が十分に効果を発揮できていなかったことが伺える。この問題解決にこそ新たな発展の余地が残っている。

科学技術法の義務を履行するには、企業所の経営に合致する科学技術成果が創造されていなければならないとともに既に生み出された成果が共有される環境が整わなければならない。朝鮮では企業所単位の特殊意識、本位主義を克服することを意識改革にだけ求めるだけでなく、それを実現できる環境を科学技術成果導入法に基づいて積極的に作り出そうとしているのだ。

これから先、朝鮮においてこれらの法律が整備する環境のもと科学技術と経済の一体化がどのような形で進展していくのか注目される。

コラム・経済政策まめ知識

WIPOに登録される朝鮮発の知的財産

朝鮮の科学技術成果の内容や水準を把握するうえで参考となるのが世界知的所有権機関(WIPO)の公式HPである。WIPOは、世界的規模で知的財産権を保護することを目的とする国連の専門機関である。WIPOで認められた国際特許は、WIPOの公式HPで公開される。朝鮮は、1974年にWIPOに加盟しており多数の知的財産が登録されている。2021年2件(6月時点)、2020年1件、2019年2件、2018年3件、2017年3件、2016年5件と毎年コンスタントに登録されており朝鮮の科学技術成果が世界的水準からも十分なものであることがわかる。この先、さらに登録件数が増えていくであろう。

(洪忠一・朝鮮大学校政治経済学部准教授)

※2021年6月脱稿

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