〈朝鮮経済トレンドウォッチ 10〉彩りを増す街づくり 文明国に向けた都市建設と色彩

立派な高層マンションが立ち並び、行き交う車も顕著に増え、人々の服装もカラフルになった・・・。平壌を訪れた人々からそんな感想が聞かれるようになって久しい。10年ほど前に見た倉田通りの佇まいには思わず息を飲み、その艶やかな夜景にうっとりさせられた。それから年を追うごとにテーマ性の高い建造物が次々に登場している。

今回は街づくりとその周辺の「彩り」にかかわる幾つかの事象から近年のトレンドとその背景にあるものを探ってみたい。

街づくりの新たなコンセプト

近年の都市建設からは、人民大衆第一主義の理念に沿った幾つかのコンセプトが窺える。「非反復性」はその一つである。

どこかに優れた都市建設の事例があったとしても模倣はご法度である。三池淵市(両江道)の街づくりや陽徳温泉文化リゾート(平安南道)が示すように、それぞれの地形と気候、その地域と建造物の特性に応じて立体的で調和のとれた独自色のある建設が求められている。

三池淵市の街と緑化

今後、このコンセプトに沿って剣徳地区(咸鏡南道)には山間地帯の特色を活かした鉱山都市が、新義州(平安北道)には国境地帯としてのポジションを考慮した関門都市が、東西の海岸沿線には海岸都市や港湾都市に相応しい個性豊かな街が出現するに違いない。

「環境との親和性」「自然と一体化する都市建設」のコンセプトもとみに注目されている。

そもそも「公園の中の都市」と称された柳の京―平壌であるが、最近特に造園・緑化(朝鮮では「園林緑化」という)が精力的に進められている。エリアの特徴に応じて樹木と草花、地被植物をバランス良く組み合わせた園林を設計したうえで、常緑樹と落葉樹、花や実の付く灌木などを組み合せ、開花の時期とさまざまな色合いの花の品種を織り交ぜて立体感と季節感を醸し出すことが求められている。

直近では、地域の特色を活かした造園緑化事業として、高原地帯の特色を十分に生かして白樺やグローブ、鮮やかな赤の実をつけるサンザシなどを巧みに配置した三池淵の緑化事業などが評価されている。

盛んになった造園・緑化事業に伴い、芝生や草花の品種改良と優良品種の国家登録が芝生研究所、花草研究所などを中心に盛んに行われている。

バラの品種改良、仙人掌(サボテン)の風土順化、各種生花の栽培やドライフラワーづくりなど季節の花の便りを伝える報道が一段と増えてきた。丹精込めて育てたバラの花とその香りに包まれた平壌カバン工場では、従業員の福利厚生施設でバラを用いた風呂と美顔ケアが行われていて、職場への愛着と明日への活力を養うのに大いに役立っているという。

ゼロ炭素(カーボンニュートラル)建築、グリーン(持続可能な)建築は世界でもトレンドだ。

朝鮮では、建設法規「グリーン建築設計基準」がグリーン建築の認証基準を定めていて、例えば「グリーン1級設計」の認証を得るには計画指標17、設計指標23の計40項目のうち35項目の基準をクリアしなければならない。さらに竣工から1年間の運営状況を検証して建物の「グリーン等級」を決定することになっている。その際の評価基準は、敷地利用および屋外環境、エネルギーの節約および利用、水資源の節約および利用、建材の節約および再資源化状況、室内環境質(IEQ=Indoor Environmental Quality)、建物の管理運営の6項目に及ぶ。

暮らしを彩る「色彩」の国産化

街に彩りを添えているのは昼間だけでない。

仕事帰りには高層住宅街と大型モニュメントのライトアップや七色に輝く「踊る噴水」が一日の疲れを癒し、新年や記念日、重要行事の際には年々その洗練度が増している打ち上げ花火と平壌第1百貨店の壁面をつかってのプロジェクションマッピングが非日常性を演出している。

大同江のほとりで毎週末行われている噴水ショー「踊る噴水」。男女が寄り添って眺めている

仕事と休息および交通を有機的に結合するのも朝鮮の都市建設における重要なコンセプトであり、都市交通を担う公共の乗り物は都市の顔でもある。

新型のトロリーバスと二階建てバス、新型のトラム(「統一181」号)などは、どれもスタイリッシュでボディカラーもすっきりしている。少し前にお目見えした地下鉄の愛称「美男子」新車両とともにこれらの塗装には順川化学連合企業所が初の国産化に成功したアクリル樹脂塗料が使われているものと思われる。

都市機能を充実させ街を美しく彩るうえでカギを握っているのは、やはり科学技術である。

2019年の夏、朝鮮の科学者らの手で「基本色見本表(表色系)」が開発されたという画期的なニュースがネットメディア「メアリ」によって伝えられた。金属製品や木工製品、繊維製品や食料品に至るまで各種素材と製品の色彩が一定であるためには、色をつくり出す諸要素が常に一定でなければならないが、そこで欠かせないのが「色彩の定規」と言われるこの表色系である。

世界ではマンセルの表色系が有名であるが、その「HVC(色相、明度、彩度)」表色系をもとに朝鮮民族の伝統的な色相を活かして基本色相を赤・橙・黄・緑・青・藍・紫などの8色(マンセルでは赤・黄・緑・青・紫の5色)に設定した。その基本色相を3等分して24色相に分け、さらに彩度を8系列、明度を12系列に配列し、色の属性表記原理を科学化することによってさまざまな色彩の再現性を高めることができる。これによって色の違いによる作業のやり直しや資源の浪費も解消できることになる。

翌20年には、金日成綜合大学化学部が独自のポータブル色差測定器を開発し、分析する対象の色料の混合比を科学的に評価することを可能にした。測定した画像の色を解析して「RGB」「HVC」のほか多数の色差系の座標上に落とし込んで、その色を再現するための色料の配合比率を算出してくれるのである。

さまざまなものに色付けをするのに必要な色材の開発に関する報道も徐々に増加している印象を受ける。仙郷塗料工場で開発されたグリーン製品である天然ミネラル顔料がいくつかの工場で生産され、その微細さと純度の高さから建材用のほかに窯業、製紙、化粧品部門などでも重宝されているそうだ。ほかにも天然素材による健康と環境に優しい染料と着色料の開発もますます盛んになっている。

街と暮らしを色鮮やかに彩ることもまた、社会主義文明国を建設するうえで看過してはならない要素である。

コラム・経済政策まめ知識

先便利性・先美学性

建築は国を社会主義文明国に相応しい姿に変貌させるための基本戦線に位置づけられた。建築物の造り手であり利用者でもある人民の志向と便宜が最優先されると共に人民の情緒と美的感覚も最重要視されるべきだという主体的建築思想の原則の一つが「先便利性・先美学性の原則」である。

金正恩総書記は当初、「先便利性・後美学性の原則」を堅持すべきだと指摘したが今後は「先便利性・先美学性の原則」を堅持すべきだとして、建物は使い勝手がいいのも大事だが見た目も大事だという趣旨のことを述べた。建造物の外観、街の景観、周辺環境との調和も譲ることのできない原則ということだ。

さらに数年前に松濤園国際少年団キャンプ場(江原道)を訪れた際には、「先便利性・先美学性」のほかに現在だけでなく将来にも人々に奉仕する建造物であるべきだとして、「先後代観」が加わった。

「先便利性・先美学性・先後代観」の原則は、修正補充された「建設法」にも謳われている。

(姜日天・在日本朝鮮社会科学者協会副会長)

※2021年7月脱稿

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