〈朝鮮経済トレンドウォッチ 11〉デザインが主導する経済発展 技術開発とのシナジーが生む推進力

近年、世界的に経済・経営におけるイノベーション(革新)とデザインとの関係が大きく注目されている。デザインの振興を通じて産業競争力の強化や経済の活性化などを実現するための取り組みが行われている。

そのような世界的趨勢と軌を一にして、朝鮮においても経済発展におけるデザインの重要性が認識され、その役割への期待が高まっている。

これまで朝鮮では産業デザインについて、「(工業)製品の形態と色、生活環境などを美しく、見栄え良く、または有用にするなど、産業的目的に寄与する美術」(朝鮮語大辞典)であるとされていた。しかし、金正恩総書記はこの定義に加え、産業デザインは経済建設を促進させ、人民生活を向上させるうえで斥候隊としての使命を遂行するとしながら、経済発展において産業デザインが果たす役割の重要性について強調したのである。

朝鮮において経済発展における産業デザインの重要性についての位置づけが大きく変わったのは2010年であった。

この年の3月、金正日総書記の指導の下、国の産業デザインを統一的に指導する中央産業デザイン指導局(以下、中央指導局)が設立された。中央指導局は、内閣の各省や中央機関の傘下にある産業デザイン創作単位、各道人民委員会傘下にある産業デザイン局を統括する機関である。中央指導局は産業デザイン創作に関する国家的な方向を提示し、各機関で創作されたデザインを審議、登録するとともに、登録されたデザインが盗用されないように検閲、監督する機能や、創作機関と導入機関との契約の仲介などの役割も果たす。また、毎年4月に国家産業デザイン展示会を主催し、産業デザインの認知と普及に努めている。中央指導局が創設されたことで、産業デザインは、個別企業や機関の枠組みを超え、国家的な見地で経済発展に資する役割を大きく果たすための基盤が作られたといえる。

デザイン先行型の製品開発

朝鮮において産業デザインは、工業デザイン、商業デザイン、紡績(テキスタイル)デザイン、衣装(ファッション)デザイン、建築装飾デザイン、出版デザインなどを含む概念である。いわゆるプロダクト(製品)デザインだけでは収まらない幅広い概念であるが、その中において基本となるのは工業デザインである。

流線型のスタイリッシュなデザインの新型トロリーバス

近年採用された工業デザインとして象徴的なものは、金鍾泰電気機関車連合企業所で生産された地下電動車1号、6軸交流電気機関車、路面電車や勝利自動車総合企業所、金星トラクター工場で各々生産された5トントラックや80馬力トラクターなどである。これらは既に生産され現場に投入されているが、引き続きその後継モデルが設計されデザインが公開されている。また、柳原シューズ工場で生産されるスニーカーや種目別スポーツシューズ、元山製靴工場で生産される多様なデザインの婦人靴や紳士靴、平壌靴下工場で生産されるソックスやストッキングなども、現代的で機能的な製品により、人々の好評を博しており、人々の生活を豊かにしている。

直線を基調とした「野暮ったい」形から、曲線を活かした流線型のフォルムへの進化(電動車)やファッション性の高い素材や色どり(ハイヒール)などの外見、抗菌や防寒などの機能性(靴下)も目を引くが、ここで注目すべきは、デザイン先行型の製品開発である。

現在朝鮮では、工業製品を生産するにあたり、技術先行型の製品開発ではなく、先利便性、先美学性(利便性と美感を先行)で製品デザインを先行させ、それの実現に技術や構造を伴わせるというかたちでの製品開発を強調している。利便性や美しさを基に考えられたユニークな形態のデザインが科学者、技術者に新たなアイデアを与え、彼らの科学技術的発明を誘導することで、実用性と美的価値を持った立派な創案品を創り上げるという、win-winのシナジー効果を得ようとするものである。

商業デザインや衣装デザインも、人々の生活を豊かにすることに大きく寄与している。

スーパーマーケットの陳列棚に並ぶ、それぞれの製品の特色を活かした加工食品や飲料水のカラフルかつ洗練されたパッケージはもはや珍しいものではなくなった。製造業に従事する企業所ではコーポレートカラーで統一したユニホームを着て作業することが流行している。国際競技に出場するアスリートたちが着用している藍紅色のトレーニングウェアや、国旗をモチーフにしたTシャツデザインなど、ファッションでのデザインもこれまでとは違う広がりを見せている。

食料品のパッケージデザインも洗練された
2003年製造のジャガイモ粉。デザインの変化は一目瞭然だ(朝鮮中央通信=朝鮮通信)

普及拡大でニーズに合致

社会の情報化が進む中で人々の好みはますます細分化し、そのような多様なニーズに合致するデザインはよりいっそう求められていくだろう。

朝鮮ではそのような課題を解決する方法として、産業デザイン専門家を育成するための教育システムを構築する一方、この問題を一部の専門家だけに任せるのではなく、広く一般化することで解決しようと試みている。

その一例が、国家網を通じた産業デザイン関連情報の公開および公募事業である。朝鮮産業デザイン情報交流社が運営している「斥候隊」サイトは、産業デザイン関連の情報を知らせるとともに、頻繁に産業デザインの公募も行っている。例えば、当サイトではこれまで、革製品、家具、家庭用品などの工業製品デザインの公募が行われており、地方在住の実力家たちが多数参加しているという。その中には専門家顔負けの実力を持つ地方の労働者もいるかと思えば、地方の青少年会館の美術クラブに通う小中学生の応募者もいるという。彼らの作品は、サイト内で誰もが見ることができる。

国を挙げたデザイン振興政策の下、幅広い人々の関心の中で、朝鮮の産業デザインはますます洗練され、それに応じた科学技術の発展を伴って経済活性化の原動力としての役割を大きく果たすことが期待される。

コラム・経済政策まめ知識

産業デザイン専門家の育成

朝鮮では平壌美術大学(以下、美術大学)、平壌出版印刷大学(以下、印刷大学)に各々産業デザイン学部があり、産業デザインの専門家を育成している。美術大学には1960年代頃、印刷大学には2010年に産業デザイン学部が設置された。

各大学の教授陣は産業デザインに関する教育および研究にとどまらず、国家的に行われる各種デザインの作成において重要な位置を占めるデザイナーでもある。例えば、印刷大学の産業デザイン学部長は、科学技術殿堂のロゴマークや平壌初等学院バスのロゴのデザイナーとして有名である。

これらの大学では、教員だけではなく、実力ある学生たちもデザインコンテストに応募させることで、実践を通じた技量の向上にも力を入れている。実際、元山製靴工場の「メボンサン」の商標マークは、当時印刷大学4年生だった学生が応募した作品であった。

このような後進育成は大学だけではなく、高級中学校においても行われている。

朝鮮では、2014年にデザイナー育成を目的として、平壌市をはじめとする各道で1校以上の高級中学校に美術専攻班を設ける措置をとった。例えば平壌市牡丹峰区域の凱旋高級中学校では1年から3年まで40名の生徒が学んでおり、国家産業デザイン展示会で毎年優秀賞を受賞するほどの実力を備えているという。

(朴在勲・株式会社コリアメディア企画研究部長)

※2021年8月脱稿

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