<社説>自民新総裁に岸田氏 沖縄の民意に耳を傾けよ

 自民党第27代総裁に岸田文雄前政調会長が選出された。 9年近く続いた安倍・菅政権は権力の集中を生み、森友・加計問題、「桜を見る会」の私物化などの弊害が表面化した。新総裁には長期政権のひずみを検証し、立憲主義に立ち返って多様で開かれた政治を求める。

 岸田氏の特技は「人の話をしっかり聞くということ」だという。ならば、名護市辺野古の新基地建設に反対する沖縄の民意に耳を傾け、基地問題を解決する胆力を見せてもらいたい。

 岸田氏は第2次、3次の安倍内閣で外相を4年8カ月間務め、辺野古新基地建設を進めた。総裁選の本紙アンケートで、新基地建設について「日米両政府で唯一合意している移設案が、キャンプシュワブへの統合だ。SACO合意に基づく基地負担軽減に全力で取り組む。別案はない」と明言した。

 日米地位協定の抜本改定にも踏み込まず「運用改善はなされてきた」という立場だ。2016年の米軍属女性暴行殺人事件では、米軍属の定義を明確化する地位協定の補足協定の締結で対応した。軍属の範囲を狭めることが名目だった。ところが、外務省によると今年1月時点で国内の米軍属の数は1万2631人となり、19年から1351人も増えている。補足協定の効果は表れていない。

 基地問題を見る限り、安倍・菅政権と変わりなく、まったく物足りない。政権与党の総裁として県民に寄り添う政策を打ち出してもらいたい。

 宏池会は伝統的にリベラル色が強い。しかし岸田氏は外交・安全保障分野で、敵基地攻撃能力の保有を「有力な選択肢」と位置付け強硬論に傾く。憲法9条に基づく専守防衛に抵触し、看過できない。

 総裁選では民主主義の危機を訴え、党改革を最大の課題に掲げ、総裁を除く党役員は1期1年、連続3期までとすることで権力の集中と惰性を防ぐと強調した。

 しかし、当選後の記者会見で、1強政治のひずみを象徴する森友学園の国有地売却問題を巡る財務省の決裁文書改ざん問題について、政治の立場から説明すると述べるにとどめた。再調査について明言を避けた。党改革は掛け声倒れなのか。

 総裁選で党員票は河野太郎氏が岸田氏を上回った。岸田氏は安倍晋三元首相が影響力を持つ最大派閥の細田派と、麻生太郎副総理兼財務相の麻生派の支持を得て決選投票で勝利した。党内実力者の「かいらい」となるのかどうか、国民の厳しい目が注がれていることを忘れてはならない。

 共同通信社の党員・党友調査では、岸田氏の「経済政策」で期待する割合が36.1%で最も高かった。岸田氏は経済成長の適切な配分による格差解消を訴えた。コロナ後の経済再生など国内に山積する重要課題の解決に手腕が問われている。

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