「真っすぐをぶち込んでいるだけ」JR東日本の150キロ左腕が“ひと冬”で進化した理由

JR東日本・山田龍聖【写真:荒川祐史】

入社3年目の山田龍聖は最速150キロ、ドラフト上位候補に名前が挙がる

社会人野球のJR東日本に、最速150キロを誇る豪腕がいる。山田龍聖投手は入社3年目の今季急成長を見せ、プロ野球のスカウトからも注目される存在になった。直球で押しまくる投球スタイルが特徴的な左腕はこの秋、チームの都市対抗野球優勝と自身のプロ入りという2つの目標に向け、腕を振る。

左腕からの150キロを超える直球は、社会人トップクラスの打者たちもフェアグラウンドに飛ばすのが難しい。見ている側が気持ちいいほど、威力抜群の直球で押しまくる。「いろいろ理想はありますけれど、今はできることをやるだけ。このスタイルを貫いていけたらと思っています」。質もスピードもアマ最上級なストレートという武器を引っ提げ、プロの門を叩こうとしている。

山田は昨年までの2年間、都市対抗野球と日本選手権という社会人野球の2大大会で登板がなかった。チームの中でも今一つ信用をつかめなかった投手が今、急成長を見せているのだ。過去2年間を「本当に、0点だったと思います。簡単に中へ投げてしまうと打たれるし、そんなにストライクゾーンの際(きわ)に投げるコントロールもない。どっちも微妙でした」と、申し訳なさそうに振り返る。大変身のきっかけは、体の使い方を考え抜くことにあった。

社会人での2年を終え、自分の武器は何なのか今一度考えた。上に行くための結論は、とにかく直球を磨くこと。もともと2018年の夏の甲子園で大阪桐蔭高から11個の三振を奪って注目された当時から、最大の武器にしており「困ったらストレートで行けるようにしたいと思ったんです」。なんとか、ファウルや空振りを取れる勝負球に変えたかった。短所を克服するより、長所をさらに磨き上げるために時間を使おうと考えたのだ。

それまでは課題の制球を磨こうとしていた。下半身を強化して、ストライクゾーンぎりぎりに投げられる制球を磨こうと思っていた。目標がはっきりした昨冬は、自分の体をきちんと動かすための確認に時間を割いた。腕を振らないシャドーピッチングで、体重移動をひたすら確認した。胸郭を柔らかくして大きく使おうと、ブリッジを繰り返した。連日、何とも地道な練習が続いた。

JR東日本・山田龍聖【写真:荒川祐史】

短所の克服より、長所をもっと伸ばそうと…体の使い方を考え抜いた

迎えた春、結果は突然出た。4月のJABA静岡大会、東海REXを相手にリリーフに立った。1球投げて、ボールが明らかに変わったのがわかった。「まだ粗削りで、本当に真っすぐをぶち込んでいるだけ。野球と言えるかもわからないんですけど、ボール自体が1個上のレベルに行けた感覚がありました」。噂はすぐに広まり、夏、秋と、スタンドにはスカウトのスピードガンが目立つようになった。「キャッチボールとか見られるの、苦手なんですよね……」と言うが、試合に入れば関係ない。剛速球で打者を抑え込んでいった。

高岡商高3年生の時、甲子園で注目され、U-18日本代表に選ばれた。大学生との練習試合で好投し、直球で三振を奪えたのは自信になった。一方で「このまま、1個上のレベルに行けるのかなと勘違いしてしまった。安易でした」と頭をかく。ただ、もがいたことで自分の武器は直球だと再認識することができた。成長には必要な時間だったのかもしれない。

高校時代からずっと目標にしてきたのは、DeNAの左腕・今永昇太だ。「体が上に浮いてしまいがちなので、それを直せたらと思って」両手を下に向けながら体重移動していく動きをまねてもいる。

9月上旬の練習試合には、複数球団のスカウトが顔を揃えた。プロ野球の世界から呼ばれる日も近そうだ。ただその前に、やり残したことがある。社会人野球の頂点に立つことだ。「日本一になるために練習してきた。もっとスキルアップすることで、先のステージもあるのかなと思っています」。日本一の看板を背負って、目標の世界へ進みたい。

○山田龍聖(やまだ・りゅうせい)2000年9月7日、富山県氷見市生まれ。同市窪小4年で軟式野球を始める。西條中野球部を経て高岡商高へ。高校3年夏は甲子園で2勝し、大阪桐蔭との3回戦でも11三振を奪って注目された。進んだJR東日本では3年目になって急成長。身長182センチ、体重82キロ。左投げ左打ち。4人家族の長男。趣味は「寝ることです。それじゃいけないって分かってるんですが、休みはひたすら寝てます」(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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