「農業のきついイメージ“楽”に変えたい」 女性ドローン操縦士の奮闘

ドローン操縦士になった末原蓉子さん=諫早市飯盛町

 今や、空撮映像には欠かせないドローン。東京五輪開会式での斬新な演出に一役買ったことでも注目を集めた。このドローンを使って、農業の楽しさを伝えようと奮闘しているのが長崎県諫早市小長井町の末原蓉子さん(28)だ。
 出身の田原地区は、おいしいサトイモが育つと評判の赤土に恵まれた土地。実家は農家でサトイモの他、米や牛を育てている。地元の高校を卒業後、畜産を学ぼうと北海道へ。2016年、実家の仕事を継ぐため、Uターンした。
 子どもの頃から、実家の農作業を手伝うのが日常だった。とりわけ、骨が折れたのが病害虫から農作物を守る「防除」。収穫量を増やすために欠かせない作業だ。大規模農地ではヘリを使って農薬を散布するのが一般的だが、小さな畑が点在する同地区ではそれも難しく、後回しになることも少なくない。人員不足、熱中症、高齢化…。課題は山積し、人力だけでの防除は限界に近かった。
 「何とか力になれないか」。そう思い悩んでいた時に出合ったのがドローン。同市飯盛町にドローンスクール「AIR FLIGHT」(谷川航仁代表)が開校したのだ。思い切って入校し、昨年12月、一般向けドローンに加え、農業や測量などの分野に使用される産業用機などの技能認定証明証を取得。「オペレーター」「パイロット」と称される操縦士としてデビューを果たした。
 ドローンは、女性に優しい。小型軽量で持ち運ぶことができ、山間部の畑や、曲がりくねった狭い土地にも対応できる。操縦する際はあくまで「安全第一」。生産者が丹精して育てた稲穂を風圧で折らないよう、細心の注意を払う。
 「稲の上に落ちたりしないのか」「ちゃんと防除できるの?」「電線のある小さな田んぼにも来てもらえる?」。当初、周囲の農家は期待と警戒感が入り交じったような反応だった。それに対して一人一人、丁寧に説明し、デモフライトを見てもらった。農家とじっくり信頼関係を結ぼうとする姿勢が評判を呼び、防除の依頼は順調に増えた。
 「おいしい米が育つ地元の水田を休耕田にするのはもったいない」と、稲作を卒業した高齢の生産者に代わり、米作りも始めた。農業系の操縦士たちで「Airfarm」を結成。悪天候の日に水田を見回る通称「たんパト」にも率先して出掛けている。ドローンを駆使する若い世代の行動を、周囲の先輩たちも温かく見守っている。
 同スクールによると、県内の女性オペレーターはまだ5人ほど。「昔から小型建設用機械の操縦や溶接などに興味があったが、『女性には無理』と思われていた時代。諦めたことも多かった。高校生の時、性別にかかわらず、やりたいことはやるべきだと背中を押してくれた先生と出会い、人生が開けた」と振り返る。
 操縦士を育成するインストラクターになるのが今の目標。「例えば主婦でも、隙間時間を生かして、空撮や建築物の点検など、ドローンで新たなビジネスを展開できるのではないか。スマート農業を率先して実践することで、きついという農業のイメージを“楽”に変え、次の世代に伝えていきたい」
 大きな可能性を秘めるドローン。新米操縦士の目線は、高く、遠くへ向けられている。


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