ジャズ・スタンダード名曲ものがたり:Softly, As In A Morning Sunrise ( 1928 ) /朝日のようにさわやかに

世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭
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【第16回】
朝日のようにさわやかに
Softly, As In A Morning Sunrise
作曲:シグムンド・ロンバーグ
作詞:オスカー・ハマースタイン2世
1928年

『我が心に君深く』(原題:Deep In My Heart)という映画があります。作曲家シグムンド・ロンバーグの半生を描いた作品で、当然彼の音楽が多くフィーチャーされているのですが、その中で、代表曲の1つ〈朝日のようにさわやかに〉がはじめて公の舞台で演奏されるシーンがあります。

まだ無名だったロンバーグは喜び勇んでそれを観に出かけますが、曲が使われる場面は、露出度の高いコスチュームを着た女性たちが刺激的なダンスを踊るという下品な演出。自分の意図をまったく無視され意気消沈したロンバーグは行きつけのカフェで、「本当はこんなふうに演奏すべきなんだ」と小楽団をバックに自らピアノを弾き、カフェの女主人に歌ってもらいます。

実際には〈朝日のようにさわやかに〉は、1928年のミュージカル『ニュー・ムーン』で初登場した曲で、この時ロンバーグはすでに名声を確立していたので、映画のストーリーは史実と違うのですが、しかしながら『ニュー・ムーン』での原曲をきいた現代の我々は、映画の中のロンバーグが舞台を観て感じたのと同じ違和感を覚えるかもしれません。というのもこの『ニュー・ムーン』、ミュージカルの前身だったオペレッタのテイストを色濃く残しているせいか、〈朝日~〉もまるでオペラ・アリアのように朗々と歌われるのです。

有名なスタンダード・ナンバーが、元のミュージカルや映画できくと印象が異なるのはわりとよくあることですが、ここまでそのギャップが大きい曲はちょっと珍しいかもしれません(ちなみに『ニュー・ムーン』には以前取り上げた〈恋人よ我に帰れ〉も入っていますが、これもオリジナルはやはりオペラ風の歌唱です)。

かように、前時代的趣きを残しているからでしょうか、この曲の構造は比較的シンプル。でも、だからこそかえって変更を加え易いのかもしれません。〈朝日~〉には、クラシカルな典雅さを湛えたものから、モード手法を駆使したハードなものまで、実に様々な演奏が残っています。そんな、多様なアプローチを許す柔軟さと、にもかかわらず曲本来の魅力は失われない腰の強さ…やはりこれは名曲と呼ばれるにふさわしいナンバーです。

●この名演をチェック!

ソニー・クラーク
アルバム『ソニー・クラーク・トリオ』(Blue Note)収録

哀愁漂うプレイで人気が高いクラークの、まさに真骨頂ともいえる演奏。憂いを帯びたシングル・トーンによる、まるであらかじめ書かれたような歌心溢れるアドリブは、この曲に対して我々が抱くイメージそのままといえるでしょう。

<動画:Softly As In A Morning Sunrise (Remastered)

ジョン・コルトレーン
アルバム『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』(impulse!)収録

コルトレーン・カルテットのヴィレッジ・ヴァンガードでの伝説的ライヴ。ピアノ・ソロが終わり、猛禽類のようにサックスが飛び込んでくるところは実にスリリング。モード・アプローチによるこの曲の演奏の、先駆ともいえるヴァージョンです。

<動画:Softly As In A Morning Sunrise (Live At The Village Vanguard, 1961)

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