自民党総裁選2021・SNS活用分析ー候補者はどのようにSNSを使用してアピールしたのか(中村佳美)

はじめに:総裁選2021の仕組み

菅義偉首相の後継を決める自民党総裁選が9月17日に告示されました。河野太郎、岸田文雄、高市早苗、野田聖子の4氏が立候補。安倍前総理大臣の辞任に伴う去年9月の選挙では実施されなかった党員投票が、今回、3年ぶりに行われる“フルスペック”での総裁選となりました。
今回の「国会議員票」と「党員票」は、いずれも382票で合わせて764票。また、いずれの候補も過半数に達しない場合は、上位2人による決選投票が行われます。決選投票では、国会議員票(382票)と各都道府県連に1票ずつ割り振った地方票(47票)の合計429票で争われ、上位2人のうち得票数が多い方が総裁に選出されます。各都道府県連の1票は、党員投票の結果に基づき、上位2人のうち、得票数が多い候補者に加算する仕組みです。決選投票は、1回目の投票よりも国会議員票の割合が多くなります。

(出典:NHK)

そして、自民党総裁選挙は9月29日に投開票され、1回目の投票でいずれの候補者も過半数に届かず、決選投票の結果、岸田前政務調査会長が、河野規制改革担当大臣を抑えて、第100代自民党総裁に選出されました。新総裁は10月4日召集の臨時国会で、新首相に選ばれます。

(出典:NHK)

今回フルスペックでの選挙方式になりましたが、新型コロナウイルス禍の自民党総裁選は従来とは一変しました。候補者が全国を巡って演説するやり方は見送られ、ネット選挙に軸足を置く場面が多く見られ、新型コロナウイルス禍で地方遊説を自粛した代替措置で、自民党が総裁選で開いた初のオンライン政策討論会が23日、4日間、開かれるなど、党員資格の有無にかかわらず、子どもや海外居住者も含めて広く質問を受け付け、4候補がビデオ会議サービスで質問に答え、国民との対話を強調する姿が目立ちました。

こうした感染対策で密集を避けるため、苦肉の策でオンラインが中心の戦いとなった総選挙でしたが、候補者のネット戦略に注目が集まると同時に、候補者のSNSを分析している記事も昨年に比べて多く見られました。具体的には、情報の受け手である有権者を対象とした候補者をフォローしているTwitterアカウントに関するフォロワー分析や、自民党総裁選に関するツイート分析など、こうしたマスに対するSNS関連の分析記事が多く見られたことも一つの特徴です。

そこで、今回の記事では、この二週間における各候補者のネット活用の分析に主軸をおき、解説していきます。前置きとして、これまで政治家とメディアの関係性を研究する「政治とメディア」の研究領域の中では、情報の受け手である有権者を対象とした研究と情報の送り手である候補者・議員に注目した両観点の領域があります。

本記事の独自性として、情報の送り手である候補者のコミュニケーション手法に着目し、Twitterだけに限らず候補者が使用していた全てのメディアを対象に活用の分析を行います。また新規性としては、候補者の投稿内容についても今回カテゴライズして分析しています。

(※ネット選挙における得票数への影響や地上戦でのコロナ対策については触れていません。総選挙における議員得票数・地方票への影響には様々な要因があり、今回の記事に関しては、陣営のパフォーマンスの一つとしてご拝読いただければと存じます。また、本記事は特定の政党を支持する・各陣営を批判する目的とした記事ではありません。ご了承ください。)

調査概要について

本記事では、各候補者のアカウントデータを集計した上で、各候補者の細かな活用手法について触れていきます。
9月1日〜9月28日まで、各総裁候補が使用したSNS(Twitter・Facebook・Instagram・YouTube・LINE)における集計可能なインプレッション数・フォロワー増加数・投稿端末の内訳・テキスト内容のデータを採取しました。

また、各候補者のSNS投稿内容の内訳をより可視化する目的で、テキスト投稿内容を以下のカテゴリーに分類し割合を出します。※筆者が提唱するオリジナルの5つの投稿モデル(コミュニケーションの手法に触れるため今回のみ主張型から対話を取り除き、5つ目のモデルに定義しています)を用いてカテゴリ区分しております。(参考図は以下になります)

この5つのモデルを元に、候補者のSNS投稿内容をカテゴライズし割合を出します。

各候補者のアカウントデータについて

初めに、集計結果としては、以下の数値になりました。
各候補者の基礎データはこちらです※9月28日時点

各候補者の選挙期間中のTwitterにおける投稿データはこちらです(※9月28日時点)

Twitterでは高市候補が最も支持が高く、野田候補が最も少ない結果に。選挙期間中、高市氏がこれまでTwitterで高い影響力を持っていた河野を上回るインプレッションになっています。

期間中のフォロワーの増加数は以下になります。また同時に、期間中最もフォロワーを獲得したのは、高市氏でした。
また、Twitterのインプレッション(RT・♡)を、9月17〜20日の値を100としたときのグラフです。岸田陣営のみが順調に数値を伸ばしていきました。

また、♡数の結果に関しても、同じ結果になっています。

各候補者の選挙期間中のFacebookにおける集計データはこちらです※9月28日時点

Facebookでは高市候補が最も支持が高く、野田候補が最も少ない結果に。

各候補者の選挙期間中のInstagramにおける集計データはこちらです※9月28日時点

高市候補のインプレッション(♡)がもっとも高い一方、平均ビデオ視聴数においては岸田候補が高市候補を上回りました。

(InstagramのIGTV・リール投稿については、今回は採取しておりません)

各候補者の選挙期間中のYouTubeにおける集計データはこちらです※9月28日時点
YouTubeの総視聴数では、高市候補が最も高い結果となっています。

YouTubeでは高市候補が最も反応が高い結果に。

以上が集計データになります。このデータからわかるように、個人アカウントにおいて候補者ごとに数値に大きな差があることから、候補者同士の比較分析は難しいと判断しました。よって、今回は、各候補者の一人、一人のSNS活用をより細かく分析することに焦点を当てます。

各陣営は、実際どのようにSNSを活用していたのか

実際に、発信者側である候補者のネット活用手法はどのようなものだったのでしょうか。以下、各候補者の一人、一人のSNS活用手法にフォーカスを当ててより細かく活用の分析を行ないます。(届出順)

河野太郎氏

1、今回使用したツールと投稿内容について

河野氏のSNS発信に関しては、以下の図にまとめました。

使用割合の円グラフを見ると、メインはTwitterであり、個人のアカウントと並行して総裁選用アカウントを運用しています。YouTubeに関しては、必要に応じて配信した生放送や出陣式での様子など、アーカイブとして残して活動報告を周知する目的に使用していた様子です。またFacebookも僅かながらも更新していましたが、投稿数は多くなく、メインをTwitterに絞り活用していたと考えられます。

Twitterの投稿内容の割合の円グラフを見ると、個人アカウントにおいては、主に日常発信スタイルからは大きく変わらず、簡単な言葉を積極的に使う実況型の投稿内容が多いです。具体的には、視察訪問など支援を呼びかける動きなど、道中の一コマのような形で投稿されています。

また、「ヤメレ」のようなエゴサーチを行い、自ら絡みに行く対話型投稿は期間中、2回のみでした。炎上対策の一環として、普段よりも投稿をおさえていた可能性がありました。総裁選アカウントに関しては、活動報告型の投稿が一番多く、主に総裁選の情報発信のための宣伝アカウントとして活用していたことも特徴的です。

2、他の候補にない発信の特徴とは

Twitterの活用について(河野氏)

特徴①個人アカウントと総裁選アカウントの使い分けを行う

この手法は、昨年の総裁選の際に、菅総理も行っていましたね。使い分けるメリットとしては、情報が集約され個人アカウントの世界観が守れることに加えて、選挙戦のアーカイブを切り分けて残すこと可能です。

また候補者にとって、個人アカウントの権限を他スタッフに譲渡したくない場合には、サブ垢を作成することによって、別のスタッフにも運用を任せることができます。今回の総裁選アカウントのプロフィールに、「総裁選広報チームが運用しています」と書いてあるとおり、他のスタッフが更新できるようにするためにも、サブアカウントを開設した可能性が高いです。

また、こちらの表中の投稿端末の内訳を見る通り、河野氏個人アカウントは、全てiPhoneからの投稿の一方で、総裁選アカウントは、WEBアプリ(PC)とiPhoneによる投稿発信でした。今回、こうして使い分けを行うことによって、これまでの自身の発信軸を守りながら、候補者として必要な情報発信を届けていったのだと考えられます。

特徴②個人アカウントでは、実況型の投稿内容が多い

河野氏の普段からのTwitter投稿スタイルの特徴の一つに、実況型の投稿が多いことがあげられます。(実況型とは、「今日の昼ごはんは、〇〇です」や「〇〇に生出演中。」など、中継しているスタイルの投稿をここでは定義しています。)総裁選期間中も、実況型の投稿スタイルの内容が多くみられました。

特徴③周囲の議員も自分のアカウントで河野氏の様子を実況投稿し、河野氏本人がRTを行う

これも昨年の菅総理のアカウントでも行われていた手法です。第三者が候補者の様子を代わりに中継投稿するものです。第三者が候補者のオフショットを周知することによって、普段発信している候補者以外の新たな一面を魅せることができ、候補者を応援しているフォロワーにとっても、候補者の新たな一面を知るきっかけにも繋がります。

また、この第三者の議員をフォローしている人たちへの新しい周知にも繋がり、より陣営の一体感も生まれます。

YouTubeの活用について(河野氏)

続いて、河野氏のYouTubeの活用についてです。

特徴①サムネイルなど凝った編集は使用しないスタイル

河野氏は2009年07月10日に登録してから、これまで長きにわたって投稿を続けていることもあり、自らのスタイルを確立していると考えられます。その一つが、サムネイルには凝らず、必要な編集のみを行うものです。

全てが綺麗に整ったものよりもあざとさを感じさせず、いい意味で必死感も感じません。河野氏自身の立場やありのままのキャラクターに合わせて使用していることが伝わってきます。

特徴②選挙期間中は、全ての動画に字幕を使用して投稿

基本的に生放送以外のものには、字幕を使用し投稿されていました。字幕はさまざまな有効性を持ちます。まずは、音声オフでの視聴を想定した対応策になる点です。ユーザーが動画を視聴する環境はさまざまで、公共の場で視聴する際などは音声をオフにしなければならない場合もあります。

そのような状況でも、可能な限り動画内の情報を伝えるためには字幕の存在は有効です。また、音声を聴きとりにくい高齢の方や、聴覚障害をお持ちの方でも字幕があれば動画の内容をスムーズに理解できます。動画コンテンツのアクセシビリティ対応に、字幕は欠かせない要素といえるでしょう。

ここで、実際の日本語字幕の場合には、どのくらいの秒数がスピーチに適しているのでしょうか。

世界最高のスピーチプレゼン・「TED」で使用されている字幕ルールを参照してみると、字幕1枚の表示時間 1~7秒、1秒あたりの字数の上限 10 文字/秒、字幕1枚の行数の上限 2行、1行の字数の上限 21 文字で字幕が適切であると提唱しています。表示の目安は日本語字幕で1秒当たり4字、英文の字幕では1秒当たり10字といわれています。

これに沿った場合、15秒の動画広告に入れる日本語字幕は「60文字まで」の表示が適切だと提唱されています。

特徴③候補者と応援弁士のメッセージは切り離して投稿する

これは当たり前に感じる人も多くないかもしれませんが、何気に重要ポイントなので特徴に入れておきます。よく、出陣式や選対集会などの様子をYouTubeにアップする際に、1時間の動画をそのままポーンとアップしている候補者が圧倒的に多いのです。

選挙での集会は、主に応援弁士の先生方が5人以上話した最後に候補者がスピーチを行います。そのままその様子の動画をアップしてしまった場合には、初めてその動画をみた視聴者にとって、候補者のメッセージまで辿り着かないまま途中で離脱してしまう可能性が高まってしまうのです。候補者とのメッセージと切り離して投稿することは、候補者のメッセージを確実に視聴者へ届けるために、とても大切なポイントなのです。

特徴④今回の「たろうとかたろう」では候補者の思いをスピーチ

河野氏は、一ヶ月に一回「たろうとかたろう」という題目で、YouTube生配信を行い、視聴者から寄せられたコメントに対話したり、時にはゲストをお招きしたりしてコミュニケーション発信を行っています。今回の「たろうとかたろう」では、総裁選前日の放送だったため、総裁選への意気込みをスピーチされていました。

これまでの「たろうとかたろう」では、河野氏ならではのこだわりを軸に、さまざまな試みがあります。例えば、防衛大臣として、自衛隊に関するお菓子の紹介を行ってみたり、

自衛隊が使用する戦闘食の解説、30分クッキングを行ってみたり、

ゲストを招いて対談形式での生放送を行ったりもしています。全て、コメントをオンにしており、こうした視聴者参加型の配信を定期的に行うことによって、視聴者は国会以外の河野氏を感じることができ、河野氏の人柄を通じて親近感を感じ、現在の視聴者数にまで育てることができたのだと考えます。

特徴⑤Zoomで開催したものを動画で振り返れるようにYouTubeにアーカイブ投稿する

河野氏の出陣式は史上初のZoomで開催、参加者は全員オンライン参加という新しい試みでした。こうした出陣式の動画もアーカイブ保存できるので、候補者のメッセージのみを切り分けて字幕をつけて投稿しています。

また他の候補者にない特徴としては、公式ウェブサイトで日々更新しているブログでの発信があります。Twitterでは語りきれない思いを、河野氏は長年更新し続けています。

こうしたブログでの更新をTwitterと連携しシェアを行なうことで、自身の政策や考えをより広く周知することができます。

3、どのようなコンテンツが国民の共感を呼んだのかー河野氏ー

河野氏が主に使用したTwitter・YouTubeにおいて選挙期間中、特にインプレッション数が高かった上位3つの投稿をご紹介します。(※他アカウントRT投稿を除く上位3つの投稿になります)

【河野氏:Twitter編】

公式アカウントにおいて最もいいね数が多かった投稿はこちらです。最も拡散された投稿でもありました。地元湘南にある応援団幕の写真とともに、ありがとうのメッセージが添えられた発信です。

続いて、総裁選アカウントについて最もいいね数が多かった投稿はこちらです。自民党初のオンライン出陣式の一コマを投稿したものです。

また、最も拡散された投稿はこちらです。支援のお願いメッセージ動画になっています。いずれも一万いいねを超えており、40万回の再生回数となっています。

【河野氏:YouTube編】

YouTubeにおいて最も多く見られた上位3投稿はこちらです。上位三つは、史上初と謳ったオンライン出陣式をはじめとした、視聴者から寄せられた質問に回答するコンテンツ、そして選対会議での候補者のスピーチ動画でした。

岸田文雄氏

1、今回使用したツールと投稿内容について

続いて、岸田氏の発信に関して、以下の図にまとめました。

誰よりもいち早く立候補表明し、運用に着手した岸田氏は、終盤になるにつれてインプレッション数値を伸ばしていきました。SNSツールの使用割合を参照すると、メインはTwitter・その次にInstagram・その次にYouTube・Facebook・LINEという活用の順で、すべての媒体を手広く活用していました。

投稿内容の割合の円グラフを見ると、対話型の投稿が約4割を占めており、岸田BOXにユーザーから寄せられた質問への回答などの投稿が多くみられたことが特徴です。続いて、主張型については、自身の政策・投票へのお願いを主に投稿していました。また、岸田氏の場合は、自身の活動報告に用いられる報告型の投稿が少ないところも特徴です。

また、今回の岸田氏に関しては、昨年とは大きく違い、告示から期間が終わるまで一貫して、自身のイメージをしっかりとストーリー仕立てに作り上げていました。あとで詳しく解説しますが、今回、岸田氏のキーとなったのは、3つあります。#岸田ノート #岸田BOX #チーム岸田 です。

(以下に、具体的に解説していますが、)今回、一冊の #岸田ノート から始まり、民意の意見を聞く姿勢をイメージした #岸田BOX、そしてファンになった場合には、あなたも岸田氏を応援する集団、#チーム岸田 の一員へと、まるでシナリオが用意されていたかのように、綺麗なメディアリレーションの印象を受けます。そして、各メディア媒体を幅広くカバーしながら、一定のクオリティで発信してされていました。

2、他の候補にない発信の特徴とは

では、今回使用したTwitter・Instagram・YouTube・LINE活用の特徴を以下に詳しくみていきます。

Twitterの活用について(岸田氏)

特徴①プロフィールの見易さ

今回の岸田氏がメインで発信していたTwitterのプロフを覗いてみると、一行ごとに改行がされています。多くの候補者が詰めて書く、または、スラッシュで区切るプロフィールが多い中、一行ごとに改行しているこのプロフィールは比較的新しいパターンではないでしょうか。こうした改行を入れることによって、伝えたい情報がはっきりすることからも、視聴者にとってより候補者の情報が伝わりやすい印象を受けます。

特徴②固定ツイートに変化をつける

Twitterを上から順番に見た際に、プロフの次に目に留まるため、次に重要視される固定ツイート。今回、岸田氏は、重要な投稿を行った場合、すぐに固定ツイートを行い、常に変化をつけるようにしていました。

例えば、固定ツイートの変化として、出馬会見ツイート→岸田ボックス→チーム岸田の動画の呼びかけのように、投稿の段階を踏みながら固定するツイートを変えていました。固定されたツイートによっても、候補者のイメージは大きく左右されていく中で、固定するタイミングと内容は、とても大切になってきます。

特徴③自作のハッシュタグキャンペーンを活用し、岸田氏に関する投稿数をTwitter上に増やす

今回キーとなる自作ハッシュタグは、3つあります。#岸田ノート #岸田BOX #チーム岸田、です。それぞれハッシュタグになるまでに、こめられた想いがストーリー仕立てになっていることも特徴的です。それぞれ以下に詳しく解説していきます。

【#岸田ノート について】

「私は、この10年間、国民のみなさんの声を聞き、このノートに書き続けてきました。」と語った岸田氏の手には、青色の一冊のノートがありました。このノートこそが岸田ノートであり、この総裁選のネット発信の原点とも言えるはじまりです。この岸田ノートは、この後の色々な場面で登場してきます。

【#岸田BOX について】

そして岸田氏は、岸田ノートへの姿勢をベースに「国民の声を聞き、政治への信頼を取り戻す」を自民党総裁選のテーマにし、9月2日の記者会見で「岸田BOX」の取り組みを発表しました。「岸田BOX」とは、「自民党改革や政策、その他なんでも結構です。ぜひ、あなたの声を岸田文雄に聞かせてください。」と、岸田氏への意見を求めるものです。#岸田BOX でツイートしてほしいとハッシュタグを利用して呼びかけていました(フォームから送信することも可能)

こうしたハッシュタグ化を行い、相手にTwitterで直接ツイートしていただく形で候補者への質問・意見を募っていました。そして、候補者は、相手がツイートした#岸田BOXに、引用RTする形で、質問への返事を返していく仕組みをとっていたのです。

質問箱など外部サイトを使用するのではなく、直接相手が投稿したものへの引用RTを行い質問に答えることで、直接対話を行う、かつ視聴者に岸田氏に関する投稿をしてもらう、この点は、とても特徴的でした。

【#チーム岸田 について】

#岸田ノート #岸田BOX に続いて、大々的に岸田氏への応援ツイートの呼びかけを行う際や、自分はチーム岸田の一員である表明をするなど、拡散キャンペーン用に使用されたハッシュタグが生まれました。

特徴③さらに岸田氏に関するユーザーの投稿数を増やす仕組みを導入

また、岸田陣営の特徴として、上記のハッシュタグをより活用するために以下の仕組みを導入していました。

実際に、このTwitterのURLにアクセスすると、この画面になります↓

ここで「岸田文雄に声を届ける」を選んだ場合は以下のページに飛びます。先ほど紹介した、岸田氏への意見や質問をしたい方への案内ページとなっております。

一方で、「岸田文雄を応援する!」という方をクリックした場合には、以下の画面が表示されます。

そして、「この画像で応援メッセージを作成する」というボタンが出現し、クリックすると、自身のTwitterアカウントのテキスト作成画面に自動で飛んでくれる仕組みとなっていました。画像・目的に沿ってそれぞれ4種類あり、テキスト投稿はこのように表示されます。

つまり、ワンクリックで画像も文字やハッシュタグまでも生成してくれるので、視聴者やファンの投稿の手間が省かれ、より岸田氏に関する投稿が広がっていくという仕組みです。

狙いとしては、候補者の投稿をただRTしてもらうだけではなく、候補者についての投稿をファンの皆さんにも投稿してもらい、Twitter上で候補者の情報を増やしていくことによって、候補者を知らないユーザーにも知ってもらえる機会が増える、且つ候補者に関するアーカイブがネット上に増えて、検索にも引っかかりやすくなっていくことが狙いではないかと考えます。

特徴④告示日と同時にプロフィールの写真に変化をつけることでイメージを一新する

昨年の総裁選のままになっていた岸田氏のアイコンが、告示日を迎えると同時に選挙公報用の力強くも、岸田氏らしさあふれる笑顔の写真に変更され、全てのアイコンや広報媒体の写真が統一されました。

選挙に置いて最も重要と言われる、候補者の宣材写真ですが、テーマカラーも印象付けには欠かせません。今回岸田氏は、ブルーを基調として挑みました。

写真ひとつで大きく印象を変えることができるのも写真の強みです。写真を変えたという報告のリプライには、「印象が変わった」「かっこいい」「任せたくなる力強いイメージ」などという声が多く寄せられていました。

特徴⑤コンテンツのバランスを考慮された平均投稿数は一日10投稿

岸田BOXへの返信を行っている観点からも、岸田氏はどの候補者よりも最も多くユーザーとコミュニケーションをとっていたことになります。

岸田氏のコンテンツが終盤にかけてインプレッションの数値を伸ばしていったのは、こうした特徴的なコンテンツが豊富な点も要因として考えられるでしょう。政治の固い話だけでなく、岸田氏の柔らかいイメージを伝えるカジュアルなコンテンツの様子と交互にアップされていました。

こうしたインスタライブや岸田BOXは、岸田氏の柔かい人柄を色々な角度から伝えるための試みだったのではないかと考えます。

Facebookの活用について(岸田氏)

続いて、Facebookの活用についてみていきます。コンテンツの中心には、候補者のメッセージ動画・PV動画が中心でした。Facebook投稿のテキスト文章は固い路線を保ちつつ、コンテンツには、インスタライブやYouTube配信で見せていた岸田氏の人柄が垣間見える柔らかい動画を厳選してアップしていました。

また、岸田氏の特徴としては、Facebookの2015年頃から搭載機能であるプレイリスト機能を活用し、動画を一覧にまとめていたことも活用の特徴としてあります。

「プレイリスト」機能は、アップロードした動画をグループ分けし、グループ内で任意の順番に並べ替えることができる機能のことです。 例えば、「製品紹介」「CM集」「ユーザーの声」など、投稿した動画をテーマ別に整理するなどの活用ができます。

プレイリストを作成するには、ページのカバー写真の下にある「動画」をクリックし、「プレイリストを作成」を選び、タイトルと説明を入力し、プレイリストに追加する動画を選択すれば完了です。動画をドラッグすれば順番も並べ替えられます。

Instagramの活用について(岸田氏)

特徴① インスタ使用の加工を展開する(ストーリーズまで含む)

毎日、ストーリーズを積極的に投稿していた陣営は岸田陣営のみでした。特徴的なのは、インスタ使用に加工がされていたということ。以下の画像を見てわかる通り、カジュアルな加工使用となっています。そして、ストーリーズに挿入されているBGMも、誰もが知っている人気な楽曲を使用して親近感を感じさせる投稿が目立ちました。

特徴② インスタストーリーズの質問機能を活用し、「プライベートな質問」を募る

岸田候補は、期間中にインスタライブを3回行いました。初めに行ったものは、岸田氏のプライベートに絞った質問を募り、答えるというものです。

特徴③ カジュアルなコンテンツでもテキスト文には真面目な印象を残す

ストーリーズは、カジュアルな投稿ですが、実際の投稿本文はしっかりと芯を感じさせるテキストであり、議員という職業に相応しい固い印象を感じました。絵文字に関してもほとんど使用していないとことも特徴的です。

特徴④ インスタライブを定期的に行い、岸田氏の人柄をアピール

第一弾のインスタライブは、他にも、一番初めに行われたインスタライブ、岸田BOXに寄せられたプライベートな質問「スタバでは何が好きですか?」の質問に真剣に答える岸田氏の姿を見て、よりいっそう候補者の真面目で誠実な人柄が伝わったのではないのでしょうか。

視聴者から「ふみきゅん」など親しみやすいニックネームが寄せられたことも印象的でした。

第二弾のインスタライブは、岸田ファミリー編です。

第三弾のインスタライブは、今井絵理子議員とのコラボ配信でした。筆者もリアルタイムで視聴をしていましたが、岸田氏の柔らかい人柄がとても伝わってきました。インスタライブでは、リアルタイムで視聴者とコメント機能を通して会話することが可能なため、よりインタラクティブなコミュニケーションをとることができます。

リアルタイムで視聴すると、配信者へのコメントを自由に行えます。配信者からの返信もあるので、双方向のコミュニケーションとして機能するのが特長です。リアルタイムで自分が支持している候補者にコメントを読んでもらえる可能性があることは、まさに生配信ならではのメリットであり、近くにいるような親近感が湧きます。

特に今井議員が岸田候補に「私は、岸田文雄です」という手話をレクチャーして、二人で手話を行っている姿に多くの温かいコメントが寄せられました。このインスタライブの配信は、リールページにてアーカイブ投稿し、何度でも見返せるようになっています。そして、他のメディアに向けても岸田氏の人柄をPRするコンテンツとして発信されていました。
 
特徴⑤ストーリー性のある動画コンテンツ

例えば、今回岸田氏のInstagramで最も多く再生されたプロモーションビデオは、こちらです。

【岸田氏:Instagram:Video編】

Instagramで投稿した動画の中で、最も多く反応があった投稿は以下の2つメッセージ動画でした。岸田ファミリー出演のインスタライブと、出陣式のシーンを使用したプロモーションビデオです。

【高市氏:Instagram:Video編】

Instagramで投稿した動画の中で、最も多く反応があった投稿は以下の2つメッセージ動画でした。

【野田氏:Instagram:Video編】

Instagramで投稿した動画の中で、最も多く反応があった投稿は以下の2つメッセージ動画でした。ランチ姿の動画とラファエルさんとのコラボ動画です。

https://www.instagram.com/tv/CUH58IVj2Rh/?utmsource=igembed&utm_campaign=loading" xmlns:xlink="https://www.w3.org/1999/xlink">

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野田聖子(のだせいこ)(@seiko.noda)がシェアした投稿

【野田氏:Facebook編】

最も多くのインプレッションがあった上位3投稿は以下になります。主に、息子さんとの写真を投稿されているものでした。

【野田氏:Facebook:Video編】

Facebookで投稿した動画の中で、最も多く反応があった投稿は以下の動画でした。こちらはInstagramと同じ結果です。仕事の合間の様子や人柄が見えるようなプライベートなコンテンツにインプレッションが高まっていました。

https://www.facebook.com/watch/?v=651656262478246

共感の高いコンテンツに共通する要素とは

今回の総裁選を振り返ると、共感を得る高いコンテンツにはいくつかポイントがありました。その中でも特に重要な要素をお伝えいたします。

ポイント1 候補者の人柄が滲み出る投稿を心がける

ポイント2 ストーリー性を持たせる動画発信を

ポイント3 伝えたいコンテンツの軸を決め、一度に発信する情報を絞る

ポイント4 対話型コミュニケーション型の戦略コンテンツを

ポイント5 自身の口から語られる「言葉」でテキストを作成する

河野氏は、他議員による中継投稿での選挙中の一コマ、岸田氏の場合は岸田BOXへの回答を行う姿、高市氏・野田氏の場合は、テキストの文面の言葉、それぞれのコンテンツを通じて、それぞれの人柄の良さが滲み出ていたのではないかと思います。人が相手に好感を持つ一つの瞬間として、「この人も自分と同じ人間なんだ」と感じる瞬間があります。

いつの時代においても、こうした国民の目線に立てる想像力、普通の肌感覚をつかむ姿勢が政治家には求められます。こうした想像力と姿勢は、SNSで露呈されてしまいやすいからこそ、投稿する際には、国民の目線に立って国民の声を聞く候補者の姿勢や人柄が滲み出る投稿をお勧めします。また、メッセージ動画を投稿する際には、候補者が伝えるスピーチ内容も重要な要素です。内容構成がしっかりとされている言葉だからこそ、人は惹きつけられるのです。政策コンテンツに関しては、ユーザーの関心がある具体的政策のワードが含まれている投稿がシェアされやすいので、候補者の政策はわかりやすく説明するために、政策のカテゴリごとに切り分けて編集を行うと良いでしょう。

最後に 総裁選におけるSNS活用分析から見えてきたもの

今回の総裁選の勝敗は、決選投票での議員票に尽きると言えます。
SNS活用について分析してきましたが、ネットで注目を集めた、最もインプレッション数が高い高市氏においても、実際のところどのくらい有権者・国会議員の支持拡大に影響を与えたかは定かではありません。

これまで「ネットは、候補者の得票数に影響を与えるのか」と長らく議論されてきました。こうしたネット世論は、本当に世論なのかという疑問も残ります。また、Twitter上の意見は一般世論と必ずしも一致しないことが、米調査機関ピュー・リサーチ・センターの研究でも明らかになっています。Twitterは世論と比べてリベラル寄りのときもあれば、保守寄りのときもあるのでしょう。

しかしながら、今回注目されたネット活用は、どこまで候補者の底上げに繋がったのかはわからなくとも、今回の総裁選で展開された手法が新型コロナ禍の衆院選のノウハウになることは間違いありません。自民党の総裁選特設HPには候補者のタイムラインとしてTwitterが紐付けされてトップを飾り、候補者はオンラインを中心とした討論を行うなど、自民党全体としての政治のオンライン化への波は着実に進歩を遂げていることも可視化されました。

選挙の期間だけSNSを更新することを重要視した時代に比べて、政治家は日常的にオンライン化を進めることにより、”どこで誰が何を決定しているのかを明らかにする”ことにますます期待がされているのではないか、ネット選挙は新しい局面を迎えたのだと考えます。

また、今回はコロナ禍におけるフルスペックの総裁選でした。ネット活用が一定の盛り上がりを見せたことは、昨年よりも候補者のネット活用が期待されていたのではないかと考えます。加えて、岸田氏陣営のみが、今回ユーザー参加型であり、対話コミュニケーションが可能なコンテンツを多く用意して臨んでいたことも忘れてはなりません。冒頭にもお伝えした通り、SNSでの盛り上がりは、告示前がピークでした。

その後は、岸田氏以外の陣営は、緩やかに下がっていきました。今回の、ネット活用からの視点をまとめると、国民の声を丁寧に聞くという姿をどのように体現できるのか、ユーザーとの対話コミュニケーションを突き詰めることが、支持拡大に加わるキーポイントだったのではないかと筆者は考えます。

もちろん、総裁に選出された岸田氏の国会議員の支持を掴んだ背景には、様々な要因がニュースメディアで伝えられています。岸田氏は、どの陣営よりも立候補表明が早く、政策の議論もリードしていました。加えて、個別の記者会見も3回行い、自身の考えを早い段階から周囲に訴え、理解を求めることができました。

また、岸田氏の昨年の1回目と今回2回目に挑戦する間のスパンが短く、比較的国民にとっても記憶に新しかったことで、昨年の岸田氏とどのあたりが変わったのかが、我々、国民もその変化をひしひしと感じることができたのではないでしょうか。

最後に、本リサーチは大きくは「政治とメディア」という研究領域に依拠しながらも、議員が使用するメディアとして「政治家のインターネット利用」という領域に属してリサーチしてきました。今回、本記事の独自性としては、情報の送り手である候補者のコミュニケーション手法に着目し、Twitterに限らず全てのメディアを対象に活用について分析した点であり、本リサーチにおける新規性としては、候補者の投稿内容についてもカテゴライズして分析したところにあると考えています。

大事なのは、自分の「言葉」でわかりやすく説明ができること、相手も同じ人間なのだと感じさせるような人柄を開示し、親近感を与えること、そして、対話する姿勢を政治家自らが見せることだと、今回の活用分析が教えてくれました。

オンライン時代での地盤づくりにおいて、次期衆院選ではネットをどのように使っていくのでしょうか。今回の政治家の視点によるネット分析が、また一歩、政治とデジタル化が歩み寄る機会となることを期待しつつ、引き続き注目していきます。

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