「甘利明が幹事長」に批判殺到! 1200万円賄賂事件で説明責任果たさずトンズラ、安倍官邸と黒川検事長による捜査潰しの問題も再燃

甘利明 Official Webより

昨日29日の自民党総裁選で新総裁となった岸田文雄氏は、第一声で「『生まれ変わった自民党』をしっかりと国民に示さなければならない」と宣言したが、一体これのどこが「生まれ変わった」というのか。本日、岸田氏が幹事長に甘利明・税調会長を、政調会長に高市早苗氏を起用する意向を固めたというからだ。

「生まれ変わった」どころか、その顔ぶれは安倍晋三・前首相の側近と腹心。ようするにこれ、「安倍体制の強化」が打ち出されただけではないか。

なかでも度肝を抜かれたのが、「甘利幹事長」という人事だ。

いくらなんでも甘利氏を、自民党の財政から人事までをも掌握し、さらには国会運営にも影響力を持つ幹事長のポストに就かせようとは、完全にタガが外れている。言わずもがな、甘利氏はいまだに「口利きの見返りで1200万円」という金銭授受問題で説明責任をまったく果たしていないからだ。

あらためてこの問題を振り返ろう。事の発端は甘利氏が経済再生担当相だった2016年1月、千葉県の建設会社・薩摩興業の依頼で都市再生機構(UR)へ移転補償金の値上げを“口利き”した見返りに、少なくとも総額1200万円の現金や飲食接待の賄賂を受けとっていたと「週刊文春」(文藝春秋)がスクープしたことだった。

薩摩興業の元総務担当者である一色武氏の告発によると、公設秘書ら2人に現金500万円、さらに甘利本人に50万円を2回、計100万円を手渡していたといい、「五十万円の入った封筒を取り出し、スーツの内ポケットにしまった」「甘利さんは『ありがとう』と言って、封筒を受け取りました」と証言。甘利事務所が現金を受け取ったことを証明する領収証や、甘利の公設秘書らがUR側に補償金アップの働きかけをする交渉を録音したテープなどの物証もあった。

どこからどう見ても“真っ黒”な経済再生担当相の大スキャンダル──。「週刊文春」の報道を受けて甘利氏は経済再生担当相を辞任したが、その会見では計100万円を受け取ったことを認めたものの後に政治資金収支報告書に寄付扱いで記載したと弁解し、「あっせん利得」の疑惑をかけられているのに政治資金規正法違反に当たらないと強調。挙げ句、涙を浮かべて「『秘書のせいだ』と責任転嫁するようなことはできない」「政治家としての美学」「政治家としての矜持」などと辞任理由を並べ、マスコミは“勇退”ムードをつくり上げた。

しかも、甘利氏は大臣を辞任すると「睡眠障害」を理由に約4カ月にわたって国会を欠席。「(秘書の問題は)しかるべきタイミングで公表する」などと言って大臣を辞めた人間が、参考人招致や証人喚問から逃げて雲隠れし、通常国会が閉会する前日に不起訴処分が発表されると、それから約1週間後に活動再開を表明したのだ。

甘利氏はこの活動再開時に「適切な時期にお約束通り説明させていただく」と述べたが、その後開いた説明会見は、急遽、自民党本部でおこなわれるという “ステルス会見”で、多くの記者が出席できず。その上、“不起訴の結論をくつがえすような事実は見当たらなかったとのことだった”などと言うだけで、たったの約10分で会見を終了させたのだ。

●疑惑まみれの「甘利明幹事長」は安倍、麻生、岸田の密約で総裁選前から決まっていた

つまり、甘利氏はいまのいままでこの大スキャンダルについて、国民が納得のゆく説明をおこなっていない。にもかかわらず、今回、岸田氏は甘利氏を幹事長に据えたのである。

もちろん、この人事は安倍前首相と麻生財務相を含めた「密室談合」による既定路線だ。

甘利氏といえば、今回の総裁選では同じ麻生派の河野太郎氏が出馬に意欲を示していたにもかかわらず、いち早く岸田支持を表明し、選対顧問を務めるなど岸田陣営の旗頭となってきた。そのため、甘利氏への幹事長ポストは総裁選の論功行賞のように見えるが、実際には総裁選以前から「甘利幹事長」は決定していた。

今年6月に岸田氏は総裁選での足場固めのために派閥横断の「新たな資本主義を創る議員連盟」を発足させて会長となったが、この設立総会には安倍、麻生、甘利の3Aが揃い踏み。岸田氏としては3Aの威光にあやかるつもりが、実態は二階俊博幹事長に対抗する3Aが幅を利かせるかたちに。この段階から「幹事長ポストは甘利」という取り決めが交わされていたのだろう。

安倍前首相と麻生財務相にとっては、岸田氏に「目の上のたんこぶ」だった二階氏を幹事長から引きずり下ろさせ、自民党を安倍・麻生支配の完全体にするという長年の悲願を果たした。つまり、岸田氏は安倍・麻生のご機嫌取りのために甘利氏の大スキャンダルに目を瞑り幹事長に据えるのである。

それでなくても自民党は、河井克行・元法相と河井案里・前参院議員が有罪となった2019年参院選における大規模買収事件で党本部から提供した1億5000万円の使途や巨額を投入した理由について、独自調査もおこなわずに幕引きしようとしている。岸田氏は昨晩、会見で「必要であるならば説明をする」などと明らかに調査に後ろ向きな姿勢を見せたが、自分自身の口利き問題でさえ逃げ回っている甘利氏が、どう考えても安倍前首相が関与しているこの問題について幹事長としてメスを入れるようなことをするはずがない。

いや、そればかりか、甘利氏が選挙対策費の決裁権者である幹事長になれば、税金を原資とする巨額の政党交付金を使い、またも安倍前首相の意向のままに、同じような選挙買収事件を繰り返す可能性さえある。

●1200万円賄賂事件で甘利明が安倍前首相に大きな借り!“官邸の番犬”黒川検事長に事件を潰させ…

実際、甘利氏は安倍前首相と「同盟」関係にあるだけでなく、甘利氏には安倍前首相に大きな借りがある。くだんの口利き問題は、安倍前首相の力によって捜査を握り潰してもらったからだ。

甘利氏の口利き、賄賂疑惑はあっせん利得処罰法違反どころか刑法のあっせん収賄罪の対象にもなりうる案件であり、実際、東京地検特捜部も2016年4月にURを家宅捜索、甘利氏の元秘書らを事情聴取するなど明らかに立件を視野に動いていた。当初の計画では、参院選前にまずURの職員だけを摘発し、参院選後に甘利の公設秘書ら2人を立件。その後、甘利本人にいくかどうかを判断する予定だったという。ところが、それが参院選前に一転し、全員「不起訴」の判断が下ってしまった。

この裏には何があったのか。それは当時、法務省官房長で、2020年に賭け麻雀問題で東京高検検事長を辞任した黒川弘務氏が捜査を握り潰すべく動いたと言われているのだ。

当時、国会議員秘書初のあっせん利得法違反を立件すると意気込んで捜査をおこなっていた特捜部に対し、法務省官房長だった黒川氏は「権限に基づく影響力の行使がない」という理屈で突っ返し、現場が今度はあっせん収賄罪に切り替えて捜査しようとしたが、これも「あっせん利得法違反で告発されているんだから、勝手に容疑を変えるのは恣意的と映る」などと拒否。さらには秘書の立件すら潰してしまったのだという。実際、甘利氏の不起訴の方針が決まった後、現場の検事の間では「黒川にやられた」という台詞が飛び交ったという話もある。

この甘利事件を潰した論功行賞として、黒川氏は2016年9月に法務省事務方トップの事務次官に就任。その後も安倍前首相は黒川氏を検事総長にするために検察庁法で定められた定年を勝手に延長、後付けの法改正で正当化しようとまでしたが、ようするに、甘利氏の事件そのものは限りなく“黒”であったにもかかわらず、安倍官邸が捜査を潰させただけにすぎないのだ。

安倍前首相に大きな借りがある甘利氏が幹事長となり、安倍・甘利氏に絶対に逆らえない岸田氏が総裁・首相──。今回の甘利氏の人事ではっきりしたのは、どんな大スキャンダルを引き起こした人物でも、安倍前首相に忠誠を誓えば要職に引き立てられるという「安倍政治」の完全復活ということだ。

「安倍政治の復活」という意味では、高市早苗氏の処遇も同じだ。岸田氏は前述したように高市氏を政調会長に据える意向だというが、これは安倍前首相の悲願である憲法改正の主導役に高市氏を選んだということ。しかも高市氏は自衛隊の「国防軍」明記や私権制限にまで踏み込んでおり、現行の自民党案からより極右色を強める可能性もある。

「新しい自民党」どころか、実態は「安倍体制の強化」「安倍支配の本格化」。岸田政権の誕生によって、安倍政治の第二幕がはじまったのである。
(野尻民夫)

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