白鵬の年寄襲名に前代未聞の誓約書 角界に根強い「白鵬アレルギー」と「貴乃花化への警戒」

協会から要注意人物扱いされる白鵬

前途多難な船出だ。日本相撲協会は横綱白鵬(36=宮城野)の現役引退と年寄「間垣」の襲名を30日の理事会で承認した。白鵬が希望していた「一代年寄」は議論すらされず、相撲協会の方針に逆らわない趣旨の誓約書にサインまでさせる前代未聞の事態となった。現役時代の数々の問題行動から、角界内の「白鵬アレルギー」の根深さが改めて浮き彫りとなった格好。同じ大横綱が起こした〝悪夢の再現〟も危惧されている。

白鵬の現役引退と年寄「間垣」の襲名が正式に決まった。当面は宮城野部屋付きの親方として後進の指導にあたり、現師匠の宮城野親方(64=元幕内竹葉山)が定年を迎える来年8月までに部屋を継承する見通し。東京・日本橋に部屋を設立する準備も進められている。一方で、かねて白鵬が希望していた「一代年寄」は理事会で議題にすら上がらなかった。

それどころか、相撲協会の方針や角界のしきたりに従う趣旨の誓約書にサインまでさせられた。優勝45回を誇る大横綱への〝屈辱的〟な対応は、現役時代の問題行動に起因する。審判批判、表彰式での万歳三唱や三本締めなどのほか、元横綱日馬富士の傷害事件(2017年)では現場に同席して懲戒処分を受けた。

白鵬は19年9月に親方になるために必要となる日本国籍を取得。この時点で、協会幹部が「一代年寄どころではない。親方として協会に残すこともどうか」と協会残留に難色を示したほど角界内の「白鵬アレルギー」は根深いものとなっていた。その印象は引退の直前まで変わらなかった。

7月の名古屋場所は全勝優勝を果たす一方で、横綱審議委員会がヒジ打ちやガッツポーズなどの振る舞いを問題視。日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)から呼び出されて注意を受けた。その直後には、東京五輪の柔道会場を訪れていたことが発覚。師匠や相撲協会から事前に観戦の許可を取っておらず、協会上層部を激怒させた。しかも、柔道の他にレスリング競技の観戦を画策していたことが判明し、火に油を注いだ。

同じころに、白鵬はもう一つの〝事件〟も起こしている。角界関係者は「何を思ったのか、白鵬から協会に〝八角理事長に会わせてほしい〟と言ってきたそうだ。さすがに『そんなことができる立場じゃないだろう!』と即座に却下された」。白鵬の真意は不明だが、協会側の横綱に対する不信感はピークに達していた。

今回の異例の措置には、同じ大横綱の〝暴走〟も少なからず影響している。10年に元貴乃花親方が、所属する一門の反対を押し切る形で理事選に強行出馬して初当選。その後に相撲協会に反旗を翻し、18年に退職するまで数々の騒動を起こしたことは今も親方衆の脳裏に焼き付いている。ベテラン親方の一人は「放っておけば、白鵬も貴乃花みたいになる。(親方になってからも)目を離してはいけない」と警戒感をあらわにした。

親方として本格的に活動を始める前から「要注意人物」のレッテルを貼られた大横綱。周囲からの信頼を勝ち取るためには、今後の行動で示していくしかない。

© 株式会社東京スポーツ新聞社