大丈夫?英語資格・検定試験の個別選抜での活用促進

今春の大学入学共通テストの開始で、第一のステージが始まった「新入試」。その第2のステージの入り口と目されるのが2025年度入試。

この春には、新入試に不可欠なアドミッションオフィサーの養成を目的に、「大学アドミッション専門職協会(JACUAP)」【下記参照】も立ち上がるなど、

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「大学入試のあり方に関する検討会議」の出した結論

さる7月8日文部科学省の「大学入試のあり方に関する検討会議」は、2025年以降の大学入試共通テストでの英語資格・検定試験(以下英語民間試験)の活用と記述式問題の導入について「実現は困難」との提言を発表した。

この検討会議は、2019年11月と12月に発表された英語民間試験を活用した「大学入試英語成績提供システム」及び大学入学共通テストにおける国語・数学の記述問題の導入見送りを受け、英語4技能評価や記述式問題の出題を含めた大学入試のあり方を検討するため、2019年12月に設置され、2020年1月以来28回にわたって議論を重ねてきた。

提言では、大学入学共通テストの枠組みでの英語民間試験の活用については、試験によって会場数、受検料、実施回数、また障害のある受験生への配慮が異なること等、会議で指摘された課題を短期間で克服することは容易でない。またコロナ禍で民間試験の中止や延期が生じ、外部の試験に過度に依存する仕組みの課題が認識されることを理由に、大学入学共通テスト本体並みの公平性等が期待される中にあって、この方式の実現は困難であると結論付けた。

また、大学入学共通テストにおける記述式問題の導入についても、一定の意義はあるものの、50万人以上が同一日・同一時刻に受験し、その成績提供が短期間で求められることから、質の高い採点者の確保や採点結果と自己採点との不一致等の課題の克服は容易ではなく、実現は困難であると結論付けた。

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高大接続システム改革会議以来の課題は解決されたのか

2015年3月に設置された「高大接続システム改革会議」に委員として参加して以来、様々な形で大学入試改革の検討に関わってきた立場から見ると、大学入試共通テストでの英語民間試験の活用と記述式問題の導入断念は妥当だと考えるが、各大学が行う個別試験において英語民間試験の活用を促進することについては大きな疑念を感じる。以下のその理由を述べる。

提言で、「大学入試英語提供システム」の見送りの段階等で指摘された課題は、(1)地理的・経済的事情への対応が不十分。(2)障害のある受験生への配慮が不十分。(3)目的や内容の異なる試験の成績をCEFR対照表を介して比較することに対する懸念。(4)文部科学省の民間事業者への関与の在り方。(5)英語民間試験の活用に関する情報提供の遅れ。(6)コロナ禍における英語民間試験の安定的実施の6点である。

各大学が行う個別試験において英語民間試験を活用するにあたってもこれらの課題の克服が不可欠であるが、その点についての提言の記載は極めて不十分で具体性を欠く。

提言では、文部科学省のイニシアティブにより、資格・検定試験団体と高大関係者による恒常的な協議体を設け、低所得層に対する検定料の減免、オンライン受検システムの整備や高校会場の拡充、障害のある受験生への合理的な配慮の推進、成績提供の利便性の向上、問題集の出版などを含む試験実施団体内部での利益相反等の問題への対応のあり方、各試験の質や水準等に関する第三者評価のあり方や調査研究の実施といったテーマについて議論することが有益であると考えられるとしている。恒常的な協議体としては、さる5月14日に「大学入学者選抜協議会」が設置され既に審議が始まっている。

そもそも大学入試とは何か

大学入試問題は受験生の学力が大学教育を受けるに足り得るかどうかを見るものであり、学習指導要領や高校の学習実態を踏まえて作成されている。しかし英語民間試験はそれぞれが違った目的で作成されており、これを大学入試で活用することについては英語教育の専門家からかねてより多くの指摘がなされている。大学入学共通テストの枠組みの中での活用については、資格・検定試験単独ではなく、当面は英語の共通テストと併用して活用するということで、慎重な立場の方からも一定の理解は得られていたが、単独での活用となると問題は別だ。また、「英語提供システム」導入時に定められていた高校3年時に2回という制限をなくしたことは、入試の早期化も招くことになる。英語民間試験の活用促進の流れの中で、既に一部の大学で行われているように、英語民間試験で一定のスコアをあげれば一般選抜における英語の成績を満点にするというような方式が増えれば、高等学校教育に及ぼす影響はきわめて大きい。

活用推進の立場の方からは、既に総合型選抜や学校推薦型選抜で活用しているではないかという意見が多く聞かれるが、これらの選抜では受験生の特筆すべき活動を評価する指標とされているわけで、一般選抜での活用とは全く意味が異なる。また、既に導入している大学においても、制度の妥当性について様々な意見があるとも聞いている。

また提言では、代替措置の例として経済的事情への配慮等から民間試験を活用しない選抜区分の設定等をあげているが、それによって選抜区分間の公平性が保たれない等、新たな課題も生じてくる。各大学は、一般選抜において英語だけ他の教科と異なる指標で判断することの妥当性や、民間試験活用によって生じる様々な課題についてしっかりと検討したうえで活用を判断すべきである。

大学入試共通テストでの英語資格・検定試験の活用と記述式問題の導入断念の大きな要因は、文部科学省が、検討段階で指摘されていた様々な課題について解決の見通しを十分立てないまま、導入ありきで準備を進めたことにある。「大学入試のあり方に関する検討会議」でもその点についての総括は十分なされていない。そうした中で提言された各大学の個別試験での英語民間試験の活用促進には様々な点で大きな問題があり、このままでは前回以上に大きな混乱を受験生や高等学校教育に与えることになることは必至である。実施に向けての検討の場となる「大学入学者選抜協議会」では、提言ありきではなく様々な観点からの検討を強く望みたい。

東京都立八王子東高等学校長 宮本 久也

P r o f i l e

筑波大学卒。都立高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、指導企画課長等を経て都立西高等学校校長(2012 ~17)、全国高等学校長協会会長、全国普通科高等学校長協会理事長(2015 ~17)。会長在任中に高大接続システム改革会議委員、中央教育審議会初等中等教育分科会委員、大学入学希望者学力評価テスト検討・準備グループ委員等多くの審議会委員を務める。2018年より現職。和歌山県立那賀高等学校出身。

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