〈朝鮮経済トレンドウォッチ 12〉整備補強で電力生産を最大化 経済・文明強国へ向けた優先課題

一国の基幹産業となる電力産業の発展なくして、経済および文明的生活の発展はありえない。それゆえ、朝鮮ではつとに電力産業の発展を経済ならびに文明強国建設のための優先課題としてきた。

今年7月に朝鮮政府が公表した「持続可能な発展のための2030アジェンダ履行に関する自発的国家レビュー」(以下、「自発的国家レビュー」)では、目標7(エネルギー問題に関するSDGs、キャッチコピーは「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」)の推進状況を概括している。そこでは2017年現在、電力網にアクセスしている人口は99.7%に達したが、経済建設にともない増加する電力需要を完全に満たせなかったと述べられている。また、こうした電力に関する懸案の問題を解決することが朝鮮政府の最優先課題であると指摘している。さらに、朝鮮労働党第8回大会においては、電力生産の増大は経済建設を促し、人民生活を向上させるための先決条件であると規定している。このように電力問題の解決は、朝鮮が経済および文明強国を目指すうえでもっとも優先されるべき課題の一つとなっている。

基本課題は生産土台の整備補強

現在、朝鮮で推進されている経済戦略は整備補強戦略である。電力部門においても例外ではない。党第8回大会では、電力部門の基本課題の一つとして、電力の生産土台を全般的に整備補強していくことが掲げられた。

ところで、電力の生産土台を整備補強するとはどのようなことをさすのか。それは、読んで字のごとく整備と補強という二つの側面からなる。生産土台の整備とは、発電機、ボイラー、ダムをはじめとする電力生産に利用される設備や構造物の能力を本来通りに回復すること。たとえば、耐久年数が過ぎたり、故障していて能力を発揮できていない設備を更新したり修理補修することがあげられる。また、生産土台の補強とは、電力生産の工程の中で脆弱な部分を強化して全体的なバランスを整えること。そうすることで発電設備の能力をフルに発揮させることである。

実際、朝鮮の報道を見ると、老朽化した電線の張替え、送配電時の電圧段階の上昇など、生産された電力の送電ロス(朝鮮ではこれを電力の「途中損失」という)を減少させることで、電力を最大限効果的に利用していく努力がなされている。また、交差生産といって、各生産単位を定められた時間に稼働させることで、電力の需要と供給のバランスを調整し、限られた電力資源を効率的に利用していく施策も施されている。これらは、整備補強戦略が電力部門で実際に具現された具体的事例であると見て取れる。

「自発的国家レビュー」に示された計画

先述した「自発的国家レビュー」では今後、朝鮮が優先的に取り組むべき計画として次の4つを挙げている。

第1に、党第8回大会が示した新たな国家経済開発5カ年計画(2021~25年)に掲げた電力生産目標を達成することである。そのために、火力発電所の発電工程と設備を改善することで生産量を最大化し、水力発電所の増築および設備効率を向上させていくことが謳われている。

第2に、国家的需要を充足するための発電基地を優先的に建設するとともに再生可能エネルギーの利用を拡大することである。そのために、国家的なエネルギー需要は水力発電に優先順位を置きながらも火力と合理的に融合させること、原子力ならびに潮力発電の比率を高め、再生可能エネルギーを積極的に利用することにより、エネルギー需要を自ら充足していくことが強調されている。

第3に、国家経済をエネルギー節約型経済に転換することである。そのために、国家統合電力管理システムを完成させ効果的に運営していくこと、先進的な電力生産方法を導入するまで、送配電、電力使用時の節約方法を普及する。また、建設部門においては、ゼロエネルギー、ゼロ炭素、環境に優しい技術を活用するとともに、人民の生活おいて電気とエネルギーを最大限節約すると言及している。

第4に、環境にやさしい燃料ならびに技術の導入を促進することである。そのために、家庭用燃料に対する研究開発を強化し、その研究結果を積極的に普及していく。バイオマスを燃料とするとともにバイオガスシステムの導入を考慮するとなっている。

新たな動力源開発、発電所新設も

電力問題解決のために新たな動力源を開発していくことは、従来から朝鮮が取り組んできた事業である。現在、朝鮮における動力源は、火力と水力が基本となっており、その構成比は水力発電が60にたいして火力発電は40である。こうした動力源の基本である水力と火力をフル稼働させつつ潮力、風力、太陽熱、バイオマス、原子力などの新たな動力源を開発することが中長期的な課題となっている。

また、新たな発電所を建設していくことも重要な課題である。朝鮮では、発電所の新設を国家的な次元と地方的な次元の両方で推進しようとしている。原則としては、大規模発電所は主に国家が、中小規模発電所は地方が建設することになっている。現在、国家的事業として建設されている大規模水力発電所としては、漁郎川発電所(咸鏡北道)、端川発電所(咸鏡南道)などがある。地方の場合、江原道での水力発電所建設の経験をモデルケースとして、道、市、郡を単位に多様な動力源を利用して地方の実情に合った発電所を新設していくことが基本方針となっている。このように、新たな動力源を開発しつつ発電所を新設することで電力を増産していくことが、電力問題解決のための中長期的課題である。

建設工事が進捗する端川発電所。今年7月に新しいダムのコンクリート打ち込みが完了したと伝えられた(労働新聞)

ただ、朝鮮を取り巻く客観的条件を勘案するなら、こうした課題を推進していく道程は、決して平坦ではない。何よりも、朝鮮の歩むべき道を険しくしているのは、敵対勢力による経済制裁および新型コロナウイルスによる対外経済関係の委縮、また異常気象による自然災害の頻発である。ましてや、電力部門の開発には莫大な固定資本が必要となる。悪条件が重なるなか投資の財源を確保するのは簡単なことではない。現在、朝鮮はこうした悪条件を自力で乗り越え、人々がなに不自由なく豊かに暮らせる未来社会を構築するために全力を尽くしている。

コラム・経済政策豆知識

国家統合電力管理システム

電力の生産ならびに分配、消費を国家的に調整する電力管理システムで、電力を生産、伝送、消費するさまざまな電力設備が有機的に連結されて構成される。このシステムを機能させることで、電力の生産と消費のバランスを自動調整し、生産された電力を効果的に利用できるようになる。このシステムを運用する目的は、停電を起こさず、廉価な電力を人民に供給することにあるという。今後、すべての大規模水力発電所および火力発電所、中小規模の発電所、変電所、送配電設備、電力消費者を一つに繋ぐことでいっそう強力なシステムに発展させていくことを目指している。

国家統合電力管理システムで電力を効果的に利用している。写真は平壌市中区域の送配電所(2017年撮影)

(楊憲・朝鮮大学校経営学部准教授、連載おわり)

※2021年9月脱稿

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