「十八親和銀行」合併から1年 吉澤会長・森頭取インタビュー

 長崎県の金融業界でしのぎを削ってきた旧十八銀行と旧親和銀行が合併し、十八親和銀行(長崎市)が誕生してから1日で1年。国内大手のふくおかフィナンシャルグループ傘下で、圧倒的な融資、預金シェアを誇る巨大銀行は「地銀再編のモデル」として注目される。来年3月までに県内外の188拠点を114拠点に統合し、経営基盤を強固にする一方、合併メリットの地域還元にも期待がかかる。吉澤俊介会長、森拓二郎頭取の2人に合併1年の評価などを聞いた。

◎吉澤俊介会長 地域活性化へ資源生かす

「地域活性化へ経営資源を生かしたい」と話す吉澤会長=佐世保市島瀬町、十八親和銀行佐世保営業部

 -合併1年の評価。
 地元経済の活性化に役立つことが一番の目標。システム統合は順調に終え、5月から店舗統合を進めている。旧2行の行員の融和は気掛かりだったが、システム統合などの共通目標もあり、想定よりうまくいった。地域のお役に立つため、力を蓄える土台づくりの時間だったと考えている。

 -地域への合併効果は。
 後継者がいないお客さまから事業承継やM&A(企業の合併・買収)の相談、成立が増えている。2行が一緒になったことで、取引先の数が増え、紹介できる数も倍になっている。2行が持っている情報とネットワークが県内全域に広がり、お客さまに提案できる情報の質、量ともに高まっている。企業のデジタル化支援に全国でも先駆けて取り組んでいる。銀行との話は資金繰りなどが中心だったが、デジタル化の支援で経営相談やアドバイスができる機会が増え、お客さまへのアプローチが違ってきた。

 -顧客の選択肢が減ったことへの見方。
 「地元をよく知る銀行」と評価してもらっている。他行も、営業人員を増やして活動している。競争がなくなったということではない。(旧2行の貸出金を他行に譲渡する)借り換えサポートを通して、お客さまの選択肢は増え、譲渡先の銀行との付き合いも続いていると聞く。金利上昇はなく、優越的な融資条件もない。

 -県北地区への影響は。
 権限がすべて長崎市の本店に移ったわけではない。佐世保常駐の役員は複数おり、私も佐世保商工会議所副会頭などを務めながら、県北経済界との連携を深めている。これまで同様、お客さまとの距離が近いのが強みだと考えている。

 -今後の経営展開は。
 最大のライバルは人口減少。人口が減少すれば、経済が縮小する。人口減少のスピードを遅くするため、行員が手を携えて、地域の産業をしっかり興し、融資などで支えられるようにすることが重要。特に、農業、漁業に力を入れたい。経営体力を大きくしながら、地域活性化へ経営資源を生かせるようにする。

 -店舗統合で生じた人員の再配置は。
 生じた人員全体のうち、3割が出向、3割が人員が不足している営業店へ移る。残り3割が本部。営業のスキル向上のための研修担当者や地域振興、ソリューション部門への人員を増やしていく予定。

 -本県経済の今後は。
 有力な産業である観光がコロナ禍で一番、打撃を受けているので、一生懸命、応援する。佐世保市でのIR(統合型リゾート)は長崎県だけでなく、九州の経済に大きなインパクトを与える。地元企業が参画できるよう、準備段階からサポートしたい。

◎森拓二郎頭取 「長崎に全力」で効果還元

「『長崎に全力』という思いで合併効果を地域に還元していく」と話す森頭取=長崎市銅座町、十八親和銀行本店

 -合併1年の評価。
 今年1月のシステム統合を経て、同じ環境で仕事ができるようになった。5月から開始した店舗統合が来年3月で終わると、新銀行のしっかりした形、インフラが出来上がる。銀行の基盤づくりを着実に進めてきた1年だった。新型コロナウイルス感染拡大で影響を受けているお客さまをいち早く、丁寧に支援しようと、旧2行の行員のベクトルが一つになり、融和が進んだのは良かった。

 -合併効果の還元は。
 「長崎に全力」という旗印を掲げている。スタートアップ企業を将来の産業として育てるために、長崎大にアントレプレナーシップセンターを設立した。ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)のiBankマーケティングの地域商社機能を通したオンライン陶器市、南島原市の地域通貨事業「MINAコイン」、離島振興地方創生協会の加入による離島産品の売り込み。取り組みたいことの多くに着手することができ、想定以上に進んだ。

 -新銀行が県内貸出金シェア7割を超し、市場寡占化や事業者の選択肢減少を懸念する声がある。
 お客さまは心配されていたかもしれないが、合併後のケアや頻繁な訪問、対応の速さなど、おおむね良い評価を受けている。(選択肢減への懸念は)経営者として当然のことと理解する。複数の金融機関との取引を希望する思いは否定するものではない。

 -預貸金の収益以外の収益源の方向性。
 預貸金収益は、銀行の本筋として大事にしないといけない。ただし、ニーズは多様化しており、預金以外でも、お客さまのためになる提案を行っていく必要がある。その対価としての手数料収入でのビジネス領域を増やしたい。

 -「事業」「個人の人生」「地元」の三つのサポートに力を入れている。
 事業者向けでは、中小企業のデジタル化支援や事業承継、M&A分野で成果を上げ始めている。お客さまの企業価値を高め、魅力的な仕事を地元につくることで、本県の人口減少に歯止めをかけたい。個人にも豊かな人生を送ってほしい。金融資産を持つ県民の割合は首都圏の半分程度だが、資産の一部を投資し、長いスパンで資産形成するメリットも提案する。将来の地域発展のために、積極的な地元サポートに取り組み、地方創生につなげる。

 -コロナ禍で疲弊している事業者への支援は。
 1500億円のコロナ関連融資を実行した。返済開始時、何らかの措置を講じないといけないケースは出てくるだろう。事業をそのままの形で続けるか、少し変えるか、お客さまの考え方はさまざま。その考えに寄り添い、できることを提案していく。

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