集中豪雨で埋もれたグラウンド 保護者総出で復旧にあたった佐賀ビクトリーの想い

OBから貸し受けた重機を使って復旧作業に当たる保護者たち【写真提供:佐賀ビクトリー】

8月中旬に九州を襲った豪雨でマウンドや打撃ケージが損壊

自然は時として、人間の生活に牙をむいて襲い掛かってくる。8月13日から佐賀県をはじめ九州北部を中心に起きた集中豪雨は、中学生が元気に汗を流すグラウンドを飲み込んだ。

日本ポニーベースボール協会に加盟する佐賀ビクトリーは、今年6月に行われた第7回宮日旗中学硬式野球西日本大会で優勝、7月にはポニーリーグの1年生の部・全日本選手権ポニーブロンコ大会で優勝する強豪。創部は2010年とまだ若いチームだが、難敵がひしめく九州地区でメキメキと頭角を現した。

その佐賀ビクトリーが練習場としているのが、佐賀市内のリバーサイドパーク川上にある佐賀ビクトリーグラウンドだ。市の協力を得て拠点として使い始めたのは3年前のこと。それまでは毎週、空いているグラウンドを探しては練習場所を転々とする“ジプシー球団”だったという。当時は部員数に恵まれない時期もあったが、活動場所が決まると部員数は増加。現在は中学1年から3年まで合計41人の部員が所属する。

河川敷の広々としたスペースにはブルペンが設置されたり、打撃用のケージが置かれたり。卒業していったOBが寄付してくれた備品が集まり、充実した練習環境が整えられていた。が、集中豪雨で氾濫した一級河川・嘉瀬川の水が、瞬く間にグラウンドを飲み込んでしまった。

「水位が1メートル30センチくらいまで上昇して、グラウンドが水没してしまいました。ブルペンは流され、鳥カゴ(打撃ケージ)も壊れてしまって。道具を置いていたコンテナも倒れてしまったので、ボールが全部水に浸かってしまい使い物にならない状態でした」

当時の様子を振り返るのは、球団代表を務める野中岳さんだ。水が引いたグラウンドに行ってみると、そこには10センチ以上にもなる泥が覆い被さっていた。どうしたものか、途方に暮れそうになるところを支えてくれたのが、監督・コーチ、保護者、OBたちの「子どもたちがまた、伸び伸び野球をできるようにしてあげたい」という気持ちだった。

集中豪雨による増水で一級河川・嘉瀬川が氾濫し、水没した佐賀ビクトリーグラウンド【写真提供:佐賀ビクトリー】

子どもたちの声が響くグラウンドに「チームで力を合わせた甲斐があった」

専門業者に頼めば膨大な出費となる復旧作業を、チーム一丸となって取りかかることにした。建設関連会社に勤務するOBがいることもあって重機を借り受け、週末になるとグラウンド外に泥を運び出す作業を繰り返した。

「皆さん仕事があるので、作業をするのはやっぱり週末だけ。もちろん、天気の悪い日もあり、作業が順調に進んだわけではありません。それでも、それぞれグラウンドには思い入れがあるんですよね。すでに卒団しましたが、私も息子がチームOBなので思い出のある場所。なんとか野球ができる状態に戻そうと、皆さん一生懸命に作業してくださいました」

折しも、佐賀県には8月27日からまん延防止等重点措置が実施され、チームの活動は一時休止。子どもたちは基礎体力のアップなど、グラウンド外でできるトレーニングに励んだ。この間、復旧作業は着々と進み、まん延防止等重点措置が解除された後の9月15日、晴れてグラウンド練習再開にこぎ着けた。

「本当に皆さん頑張ってくださいました。これまで川が氾濫するのは10年に1度だと言われていたのが、ここ4年ほどで3回も氾濫して……。それなりの心積もりはしていましたが、今回はひどかったです。それでもまた、グラウンドに子どもたちが楽しく野球をする声が響くと、チームで力を合わせた甲斐があったと思いますね」

チーム一丸となって子どもたちの笑顔のためにグラウンド復旧作業に励む【写真提供:佐賀ビクトリー】

プロ野球選手は「結果」として…目指すは「子どもたちが楽しく野球をすること」

佐賀ビクトリーのモットーは「子どもたちが楽しく野球をすること」だ。試合の勝敗よりも、高校や大学、そしてプロ野球へ繋がる準備期間としての役割を果たすことに務めている。「野球は試合から学ぶもの」というポニーリーグの精神に共感し、普段から部員は全員が試合に出場できるよう工夫しながらチーム運営にあたっている。

また、栄養士やスポーツトレーナーなど専門家の協力も仰いでいる。栄養士による「食トレ」では何を食べたらいいのか、今はどんな栄養素が必要なのかを指導し、実践できるメニューを提案しながら体の成長をサポート。子どもたちが3年間怪我をせずに次のステップに進めるよう、スポーツトレーナーによるストレッチやトレーニングの指導も行われている。

「甲子園に出場するOBが出てきたので、次はプロ野球選手…と言いたいところですが、そこを目指すのではなく、まずは子どもたちが怪我なく野球を好きなまま次のステップに進んでくれることが第一。その結果としてプロ野球選手が生まれたらうれしいですね」

週末の貴重な時間を惜しむことなく、チーム一丸となってグラウンド復旧作業にあたった想いは、子どもたちの心にもしっかりと届いているはずだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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