二極化進む工務店、数字が物語る「弱肉強食」時代

2021年4~8月の各種政府統計や上場企業の決算が出揃った。「増収増益」「過去最高益」といった言葉が多く登場する一方、建設業コロナ倒産の件数は飲食店に次ぐ第2位、ウッドショックに代表される資材高をきっかけに工務店の倒産・廃業増が懸念されるなど、「二極化」が進んでいる。工務店や建設会社からは、規模・業態に関わらず、「受注好調で発注先に困っている」「受注が不足し困っている」「受注できたが資材が確保できず、職人が離れている」―などといった声が聞こえてくる。

二極化の引き金はどこにあるのか。元ファンドマネージャーで、建築・建材業界に関与してきた筆者が、新設住宅着工戸数、リフォーム調査、上場大手の決算を横断的に分析し、下期以降の見通しについて考察した。【クラフトバンク総研 髙木健次】

まずは各種統計から現状を整理していく。

1.各種政府統計

①新設住宅
新設住宅着工戸数(全国、2021年7月)
2021年3~7月は対前年同月比増加に転じる。

出所:国土交通省 新設住宅着工戸数

新設住宅着工戸数(エリア別、2021年6月)
首都圏、関西圏の回復スピードに比べると、中部圏の回復が若干鈍い。

出所:国土交通省 エリア別新設住宅着工戸数、1Q=1~3月

②リフォーム
リフォーム受注高(全国、2021年6月)
2021年4~6月、住宅、非住宅とも対前年比増加に転じる。

出所:国土交通省 建築物リフォーム・リニューアル調査報告、1Q=1~3月

③資材
骨材(砂・石)、鋼材など、木材以外の資材価格も上昇傾向(特に鋼材)
ガラス、接着剤、塩ビ、壁紙、配管などの資材メーカーも続々と値上げを発表した。

出所:経済調査会 建設資材価格指数 2015年=100とした指数

2.大手各社の決算(住宅、建材・住設)

住宅大手5社の決算(住宅事業)及びウッドショック影響
大手5社は第1四半期全社増収増益で、コロナ禍の影響から回復傾向。ウッドショックでも材料の確保、コスト増加分の販売価格への転嫁が進む。

出所:大手各社決算資料の戸建て住宅事業のみ比較

大手は好調であるが、一部の中堅上場企業は赤字が続くなど、「二極化」が進んでいる。その背景には住宅展示場経由の受注に制約がある中での「デジタル化対応」があると考えられる。また、資材高の影響を売価に転嫁できる営業力(納期、性能などの訴求含む)によっても差が開いているだろう。

大手各社は第1四半期全社増収増益で、コロナ禍の影響から回復傾向にある。一方、LIXIL、TOTO、YKK APは受注急増や海外での感染拡大の影響で納期遅延を公表した。

上記の企業以外では給湯器大手のノーリツが納期遅延を公表。トイレ、給湯器等については秋から品薄になることが予想される。

各種政府統計、大手各社の決算の内容を整理すると以下の通りになる。

**・受注:新築住宅、リフォームともコロナ禍から回復傾向、機会はある
・施工:一方、木材だけでなく、トイレ・給湯器の確保も困難、職人の確保も難しく「受注しても完工が困難な状況」
・決算:大手各社は好調だが、一部の中堅は赤字で、需要増を取り込めず「二極化」**

その中で、工務店経営を取り巻く環境を整理する。「コロナ禍」「資材高」「職人不足」「法改正」の4点がキーワード。これらの課題に対処するためには手段として「デジタル化」が必要だ。

「コロナ禍」による受注減で多くの中小企業の借入が増加(コロナ関連融資)しているが、その返済が2021年から始まっている。「借入の分、コロナ前よりも受注を確保しなくてはならない」状況に各社あるが、顧客獲得プロセスの多くがコロナ禍をきっかけにデジタル化しており(積水ハウス、一条工務店など)、その波に乗り遅れると世の中全体の需要が回復しても受注確保が難しくなっている。

一方、ウッドショックに代表される「資材高」が進み、さらに別要因としてトイレ、給湯器の確保も困難になっている。また、「デジタル化に全く取り組んでいない」会社は「全社で取り組んでいる」会社と比較して一人当たり生産性が146万円/人 低いという調査もある(2021年版中小企業白書)。デジタル化による生産性改善によって資材高・職人不足に対する原資を確保する必要がある。

建設業を取り巻く法改正に対応しよう

2021年10月:普通扱いの郵便物およびゆうメールの土曜配達休止
2023年10月:インボイス制度導入され個人事業主(一人親方)及び発注者に影響
2024年4月 :時間外労働の上限規制が建設業にも適用
2026年めど :紙の手形(約束手形)廃止の旨、経産省が通達

建設業を取り巻く環境が大きく変わる法改正が進んでいる。今年10月から郵便物の土曜配達が休止となることで、請求書等を郵送で処理している会社の支払入金に影響が生じる。また、3年後の「時間外労働の上限規制」の影響は大きく、長時間残業、休日土日出勤を当たり前とした勤務体制を続けると、2024年4月からは罰則の対象となる恐れがある。5年後めどとされている「紙の手形」の廃止など、昭和から続いてきた商慣習も終わる。

今、工務店経営を取り巻く商慣習や法律は「昭和から令和へ」大きく変化している過程にある。その変化を認識し、対応できているかが「二極化」の分かれ目になっているのではないだろうか。


髙木健次
クラフトバンク株式会社/クラフトバンク総研所長(旧:ユニオンテック株式会社 旧:ConTech総研所長)。京都大学在学中に家業(塗装店)の倒産を経験したことをきっかけに事業再生の世界へ。投資ファンドのファンドマネージャーとして計12年、建設・建材業中心に多数の中堅・中小企業の事業再生・承継に従事。2019年より現職。新建ハウジングのほか、朝日新聞運営メディア等で経営者向けの記事を連載。
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