千葉から茨城へ JR東日本の鹿島線を探訪 延長1236メートルの北浦橋梁で新鋭E131系電車を撮り鉄【コラム】

北浦を渡るE131系電車。橋梁から少し離れた方が余裕を持ってシャッターを押せるようです

全国のJR線には支線のような線区が数多くありますが、そのうちの一つが千葉、茨城の両県にまたがるJR東日本の鹿島線です。鹿島線は香取ー鹿島サッカースタジアム間の17.4キロですが、全列車が香取から成田線に乗り入れて1駅先の佐原に直通運転する一方、終点の鹿島サッカースタジアムはJリーグ公式戦などのある日しか営業しない臨時駅なので、佐原ー鹿島神宮間(17.8キロ)が実質的な鹿島線と考えられます。

鹿島線は、沿線に鹿島神宮やカシマサッカースタジアムといったスポットはあっても、利用する機会の多くない路線ですが、JR東日本はこうした線区の近代化にも力を入れ、2020年3月ダイヤ改正では、全線にICカード乗車券・Suicaを導入。2021年3月改正では、ワンマン運転対応の新型車両・E131系電車を投入しました。同じE131系の導入線区では2021年6月にJR内房線と外房線をリポートしましたが、今回は鹿島線を訪問。ほぼ線区内で完結する列車運行方法や、新型車両のポイントをじっくり観察してきました。

鉄道公団が建設

鹿島線の歴史は若干起伏に富みます。茨城県鹿島から千葉県佐原に至る鉄道の構想は戦前からあったのですが、実現は戦後に持ち越し。鹿島臨海工業地帯の開発に合わせ、原料や製品輸送の需要が高まって鉄道建設につながりました。

開業は1970年と比較的新しく、国鉄直轄ではなく、日本鉄道建設公団(鉄道建設・運輸施設整備支援機構の前身)が高規格路線として建設したため、全区間のはほとんどは高架。鹿島線内には踏切がありません。

鹿島線が社会的使命を担ったのが、1978年5月に開港した成田空港(当初の名称は新東京国際空港)の空港燃料輸送。開港時から1983年のパイプライン完成まで続き、現在も鹿島線には貨物列車が運転されます。

線区は全線単線で、旅客列車は原則2両編成ですが、上下線の列車が行き違う鹿島神宮駅や延方駅のホームは貨物列車とすれ違えるよう、長く伸びています。

スモールツーリズムで鹿島線へ

2021年9月22日、鹿島線乗車のスモールツーリズムで千葉に出掛けました。東京から佐原まではJR総武線と成田線を乗り継ぐルートが一般的ですが、今回は京成電鉄で京成成田へ。成田でJR成田線に乗り換えました。千葉を経由するJRに比べ、三角形の頂点を直接結ぶルートの京成は、距離を短縮できるメリットがあります。

成田から佐原まではわずか5駅、30分足らずで案外近い。観光資源豊富な佐原の街も観光したいところですが、今回はスルー。佐原駅で鹿島線E131系に乗り換えます。

降りたホームの反対側に鹿島線の電車が待機していれば分かりやすいのですが、車内放送では「反対側ホーム」とのこと。跨線橋を渡っても、列車がどこなのか良く分からない。ホームをよくよく見渡せば、前方(銚子寄り)の引き込み線のような線路に、2両編成の電車が停車していました。

以前は佐原にも貨物線ホームがあったはずで、それを鹿島線ホームに転用したのでしょう。佐原駅は、2面3線(鹿島線ホームを除く)の構造。鹿島線を専用ホームから発着させることで、ダイヤの自由度が増します。記憶の範囲ですが、高崎駅の八高線ホームも同じような構造だったと思います。

鹿島神宮の1駅手前の延方で下車

鹿島線紀行の目的は鹿島神宮駅の構造を見ること、そしてE131系への乗車ですが、直接鹿島神宮駅には向かわず、1駅手前の延方で下車しました。撮影ポイントの少ない鹿島線にあって、多くのガイドで推奨されるのが「北浦橋梁」。北浦は霞ヶ浦と総称される湖の一つで、延方ー鹿島神宮間の北浦橋梁は延長1236メートル。トラスのないプレートガーター橋で、列車が湖上を滑っているようにも見えます。

こちらは手前の水門を写し込んでみました

出発前にネット検索した「鹿島線撮影スポット」には「延方駅徒歩15分の北浦築堤」とあったので、駅から闇雲に歩き出したのですが、途中で道に迷い、何とかスポットにたどり着いたのは延方駅下車の1時間ほど後。1本行ってしまうと次の列車まで1時間以上間が開くのがローカル線の常で、築堤で読む本を持って行ったのは不幸中の幸いかもしれません。

E131系は1日中鹿島線を行ったり来たり

鹿島線の列車は1日16往復で、線区外に直通するのは成田ー鹿島神宮間の1.5往復だけ。ほとんどの列車は線区内完結の折り返し運転で、その点でも基本2両編成、ワンマン運転対応のE131系にぴったりのような気がします。

今回、E131系の詳細なプロフィールも入手できたのですが、紹介は最終章に回し、鹿島線の実質的な終点・鹿島神宮駅を案内したいと思います。駅は島式ホーム1面2線で、片側にJR鹿島線、反対側に水戸方面から乗り入れる鹿島臨海鉄道の車両が停車し、階段の上り下りなしで乗り継げます。

高架上にホームがある鹿島神宮駅。周辺にビルなどがないので、駅が非常に大きく見えます

水戸ー鹿島サッカースタジアム間の鹿島線は、元々国鉄新線として計画されたのですが、完成前に国鉄改革があって、茨城県などが出資する三セクの鹿島臨海鉄道として1985年に開業。このあたりの経緯は、同じ三セク鉄道の北越急行(新潟県)や智頭急行(兵庫、岡山、鳥取県)にも共通します。

ただ、鹿島臨鉄が北越急行などと異なるのは貨物列車も運行する点。社名はJR貨物グループの臨海鉄道ですが、旅客列車と貨物列車が走るのは別の区間。臨海鉄道で旅客列車を運行するのは、ほかに岡山県の水島臨海鉄道があります。

鹿島神宮駅に入ってきたのは鹿島臨海鉄道の8000形気動車2両編成。片側3ドアロングシートの通勤型車両で、JR東日本のE131系電車と違和感なく並びます。今回は鹿島神宮駅で佐原方面にUターンしましたが、次回は鹿島臨鉄に乗り継いで、水戸方面に向かってみたいと思います。

開発コンセプトは「編成両数によらない車両システム」など

E131系のインテリアデザイン。E235系1000番代(横須賀・総武快速線)を基本に、腰掛のデザインを房総の海と内陸の花畑をイメージしたカラーリングとしたそうです(画像:鉄道チャンネル)

さて、最終章ではJR東日本のE131系電車をご紹介。紙数の関係で要点のみにとどめますが、開発コンセプトは「編成両数によらない車両システム」、そして「標準化を目指した設計」と「近年求められる車両設備への対応」。郊外・地方線区を走るE131は片側3ドアでも十分に利用客をさばけるのですが、4ドアにすることで、ホームドア設置駅にも乗り入れられます。

国鉄、JRの新性能電車の電動車は基本2両1ユニットで構成されますが、E131系は電動車1両で走行でき、最低2両から柔軟な編成が組めます。JR千葉支社管内のE131系は制御電動車(クモハ)と制御車(クハ)の2形式ですが、電動車や付随車を追加することで、線区実態に応じて編成できます。

内房線や外房線、鹿島線では必要ありませんが将来、寒冷地線区に導入される際は、先頭部に霜切りパンタグラフ(架線に付着した氷や霜を取り除くための集電用でないパンタグラフ)を増設できる構造に。客室は一足早く山手線にお目見えしたE235系電車と同一構造、運転席部分は新潟エリアを走るE129系電車と共通仕様にしています。

ワンマン運転に対応

E131系の運転台。最近の鉄道車両では定番となったモニター装置に車両の状態などが表示されます(画像:鉄道チャンネル)

サービス面では、ワンマン運転への対応が挙げられるでしょう。鉄道のワンマン車両といえば運賃表示装置や運賃箱が思い当たりますが、E131系にはこうした機器類はありません。本稿の冒頭でJR東日本が鹿島線にSuicaを導入したことを紹介しましたが、JR東日本は運賃収受は駅のSuicaで対応し、車両設備とは切り分けることで車両のワンマン対応機器を省略しています。

最新のニュースでは、本サイトでも紹介済みですが、JR東日本横浜支社が相模線にE131系500番代新型車両を2021年11月18日から順次投入。1編成4両で、2022年3月までに12編成48両を導入し、現在の205系500番代を全て置き換えるそうです。

記事:上里夏生

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