NHKドラマ、本格法廷ミステリー「正義の天秤」が面白い5つの理由

土曜午後9時のNHKドラマ「正義の天秤」が面白い。主演はKAT-TUNの亀梨和也、1999年に「3年B組金八先生 第5シリーズ」で俳優デビューして約22年、主演は2005年の「野ブタ。をプロデュース」以来18作目。在京民放キー局すべてのドラマに出演しているが、NHKドラマは初出演&初主演とは意外だ。

9月25日(土)の初回放送は、同時間帯に世界最速の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」と3時間特番「はじめてのおつかい秋の大冒険スペシャル2021」などと重なったにもかかわらず、日本のTwitterトレンドで3位を獲得するなど、大健闘し高い注目度がうかがえた。第2回放送を前に、「正義の天秤」の5つの見どころを紹介しよう。

(1)謎過ぎる鷹野和也のキャラクターが面白い

主役の鷹野和也は、元医師の変わり種、負け知らずの天才肌弁護士。海外で実績を積み活躍していたが、佐伯芽依(奈緒)に師団坂法律事務所のルーム1のマネージングパートナーとして高額な年俸で招へいされた。理由は、急逝した芽依の父で法律事務所の創設者である佐伯真樹夫(中村雅俊)が「あいつは本物だ」と言い残したから。

鷹野和也はなぜ30代で医師をやめて弁護士になったのか。どんな過去を背負っているのか。人を寄せつけない辛辣な物言いをするクールな皮肉屋に見える一方、佐伯真樹夫のお墓に律儀に花を手向け、寝たきりになった恋人の雨宮久美子(大島優子)に優しい目で語りかける。

くせが強いが、ただの変わり者、冷徹な人間ではなさそうだ。弁護士の鎧を脱いだ心の奥底は温かい血が通っているのではないかと興味がわく。原作は大門剛明氏の小説「正義の天秤」「アイギスの盾」。筆者は「正義の天秤」1話を読み終えたところだが、鷹野和也について謎は深まるばかりだ。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

(2)「弁護は治療だ」という鷹野の弁護が面白い

弁護士の使命とは何か。弁護士法第一条では「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」と規定されている。リーガルドラマのほとんどは、弁護士が難事件に挑み、頭や足を使い、あらゆる手を尽くして、無罪を勝ち取るサクセスストーリーだが、鷹野の弁護は被告人の無罪を勝ち取ること、罪を軽くすることが目的ではない。

第1話の依頼人は、釣りボート店でアルバイトをしていた保坂修(筧俊夫)。大手飲食グループ社長の倉橋龍一郎(宮田博一)を乗せて釣りに行った先でボートが転落。海に投げ出された2人は一つしかない浮き輪の奪い合いをして、保坂は倉橋を溺死させてしまう。

ルーム1の4人の弁護士は、そのとき近くを偶然通りがかった遊覧船の乗客に目撃談を聞くが、それぞれの記憶はバラバラで決定的な証言はない。弁護士の杉村(北山宏光)は、遊覧船の乗客の一人が事件を撮影した動画の入手に成功。4人の弁護士は、自分の命を守るためにやむをえず他人の命を犠牲にした「緊急避難案件」が適用される案件と信じる。しかし、鷹野は保坂に殺意があり、殺人事件として真相を解明していく。

鷹野にとって正義とは。「俺にとって弁護は治療だ」と主張する鷹野の真意は?治療とは?疑問を抱かずセオリー通りに進めて保坂が無罪になったとしたら、保坂の魂は救われたのか。答えは否だ。

(3)迫力ある法廷シーンが面白い

第1話の最大の見せ場は、鷹野が保坂の真実を突きつける法廷シーンだった。「あなたが本当に望んでいたことは何ですか?」「本当のことを話していただけませんか?」静かに落ち着いて諭す用意、また感情を高ぶらせて声を張る長台詞には説得力があり、客席から舞台を見ているような気分で心をつかまれる。「社長を殺してあなたの心は晴れましたか?」からの「俺が全力で応援します。罪を償ってください」の言葉に心を揺さぶられる。まさに「法律というメスを駆使して、人を治療する」シーンだ。

法廷シーンの鷹野の鋭い眼光、スーツの着こなし、華麗な立ち振る舞い、身体の内側から放たれるオーラに目が釘付けになった。「かっこよくてゾクゾクした」「セリフの抑揚と盛り上げ方がすごい」「ビジュアル最高」。SNSは鷹野に魅了された人たちの興奮気味のtweetであふれた。

(4)魅力的な俳優陣、キャスティングが面白い

「正義の天秤」は、キャスティングも絶妙だ。ルーム1の創設者の娘、佐伯芽依役の奈緒は、生真面目で一生懸命だがまだ未熟なお嬢様弁護士役にぴったり。2020年に「事故物件恐い間取り」で亀梨と共演した当時、亀梨の気さくさや気配りがわかるエピソードを語っていた。

ニートから転身して弁護士になった、これまた異色の杉村撤平役はKis-My-Ft2の北山宏光 。調子も要領もいいが憎めない、とぼけた癒し系。北山本人の提案だという黒縁眼鏡がオタク系キャラを引き立て、コミカルな味を醸し出す。亀梨とは同じ事務所の後輩で、同じ年、デビュー前は。対照的な性格の鷹野と杉村のセリフのやり取りが面白い。今年は「でっけぇ風呂場で待ってます」(日本テレビ系)、「ただ離婚していないだけ」(テレビ東京系)に続いて3作目の出演、「正義の天秤」の杉村役も役者として重要なステップになりそうだ。

同じくルーム1の弁護士は、容姿端麗でプライドが高く頭脳明晰、優秀な弁護士の桐生美雪役を大政絢、元刑事の人情派弁護士・梅津清十郎役を名バイプレイヤーの佐戸井けん太が演じる。そして、中村雅俊、竹中直人、萩原聖人、山口智子、大島優子と豪華な演技派が勢ぞろいで、名前を見ただけでも、鷹野和也の口癖ではないがワクワクしてくる。 

(5)亀梨和也の演技力・ビジュアル力が面白い

このところ、「FINAL CUT」(フジテレビ系)、「ドラマスペシャル手紙」(テレビ東京系)、「ストロベリーナイト・サーガ」(フジテレビ系)、「レッドアイズ 監視捜査班」(日本テレビ系)と、重いテーマや暗い影や孤独を抱えたシリアスなドラマが続いていた亀梨。

「正義の天秤」は、法廷ミステリー、NHK土曜ドラマの硬派なイメージとひと味違う、エンターテインメント性に富むスタイリッシュな作品となっている。鷹野は徹底した合理主義で上から目線の毒舌を吐くが、亀梨はクールに見えて実はよく目配り、気配りが利く寛容な人情派。しかし、曲がったことが嫌いで独自の正義感の持ち主、野球ファンという共通点がある。鷹野と杉村のキャッチボールシーンでの亀梨の剛速球も文武両道の天才・鷹野を印象づける。

テンポの良い展開で、50分があっという間。原作の鷹野もイケメンのようだが、ドラマの鷹野もまたカッコイイ。金色に輝く弁護士バッジにカフスボタン、しぼった身体にフィットする三つ揃えスーツ、事務所でジャケットを脱いだサスペンダー姿。顔や手のアップも効果的で、映画のような映像美とあいまって亀梨のビジュアルが映える。物語の面白さもさることながら、亀梨和也の演技力、ビジュアル力、顔面力、美声などを存分に楽しめるドラマで、早くも続編や映像化を希望する声が多く見られる。

今夜9時からの第2話では、鷹野はどんな治療(弁護)をするのか。恋人・久美子との関係は、意識を取り戻す日が来るのだろうか。ルーム1のメンバーと鷹野の距離は縮まるのか。一瞬たりとも目が離せない展開になりそうだ。

〈ライター/佐藤ジェニー〉

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