<社説>金武水道水にPFAS 住民の血液検査を急げ

 金武町の水道水から、国の暫定指針値を超える有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)のPFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)が検出されていたことが分かった。昨年7月に把握していたが、公表していなかった。

 PFASは環境中でほとんど分解されないため人や動物の体内に蓄積する。発がん性のほか、出生時の体重に影響が生じる恐れが指摘されている。町民は知らないうちに指針値を超える水道水を使用していたことになる。

 なぜ1年以上も町民へ公表しなかったのか。町の責任は重大だ。住民の健康状態を把握するため、ただちに全町民の血液検査と低出生体重児の調査を実施すべきだ。同時に早急に汚染源を特定する必要がある。

 町によると、2020年6月に金武区と並里区の各1カ所で水道水を採取し検査した結果、金武区でPFOSとPFOAの合計値が70ナノグラムを検出し、国の暫定指針値(1リットル当たり50ナノグラム)を超えた。両区の水源9カ所のうち、金武区の米軍キャンプ・ハンセン近くにある水源3カ所を含む4カ所からも、指針値の1.7~8.2倍の値が検出された。

 小泉昭夫京都大学名誉教授(環境衛生学)は「有機フッ素化合物は体内に蓄積し、排出まで4年ほどかかる。特に母子の検査を急ぎ、血中濃度や低出生体重児との関連を調べる必要がある」と指摘する。町民の健康調査は急務だ。

 昨年7月に結果を把握しながら公表しなかった理由について町は「調査期間が終了する22年度に町民に説明する予定だった。町としてできる対応は取水停止くらいで、町民に不安が広がることや風評被害を懸念し、公表を見送った」と釈明した。

 理解に苦しむ。町民の命と安全確保のために公表は最優先事項だ。専門家の意見を求めたのか。県はこの情報を把握していなかったのか。

 PFASを巡り、在沖米軍基地周辺の汚染が16年に表面化した。嘉手納基地や普天間飛行場だけでなく、基地周辺が広範囲に汚染されている可能性がある。

 金武町の場合も汚染源を特定するために米軍基地内の立ち入り調査が不可欠だ。しかし、日本側の立ち入りを認めている日米地位協定の環境補足協定は重大な欠陥がある。

 日本側が立ち入りを申請できるのは、環境事故が発生し米側が日本側に通報した場合である。しかも米軍の運用を妨げないなど米側が判断した場合に限って調査は認められる。これでは実効性が担保できない。

 在沖基地だけでなく横田基地周辺の井戸水、厚木基地に近い川からも指針値を超えるPFASが検出された。本来なら日本政府は、在日米軍のPFASの実態を調べ、米軍に処分を徹底させるべきだ。それができないなら補足協定を全面的に見直すべきだ。それが主権国家の姿である。

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