オリ吉田正の存在感は「金本氏の域まで来ている」 専門家が見たオリVへのキーマン

オリックス・吉田正尚【写真:荒川祐史】

精神的支柱に死球、中嶋監督は怒りを抑えきれず

■オリックス6ー0 ソフトバンク(2日・京セラドーム)

オリックスは2日、本拠地・京セラドームで行われたソフトバンク戦に6-0で大勝した。先発のエース・山本由伸投手は9回を2安打1四球無失点に抑え、今季3度目の完封。5月28日のヤクルト戦以降、破竹の13連勝を飾った。一方、左太もも裏を痛めていた吉田正尚外野手は戦列復帰以降、5勝0敗1分と神通力を発揮しているが、4回に死球を受けて途中交代した。1996年以来25年ぶりのリーグ優勝の鍵を、この2人が握っていることは間違いない。

衝撃が走った。早々と5点リードを奪ったオリックスは5回、1死一塁でこの日2四球の吉田正が第3打席に入ったが、ソフトバンク2番手の左腕・大関の2球目のツーシームが右手首付近を直撃。代走を送られベンチに退いた。中嶋聡監督は審判に交代を告げた後、右手で自分の太ももをピシャリとたたき、抑えきれない怒りをのぞかせた。

リーグ断トツの打率.339(2日現在)を誇る吉田正は今季、9月3日のソフトバンク戦で左太もも裏を痛め5日に登録抹消。するとチームは勢いを失い、首位の座から滑り落ちた。これを見た吉田正は、同26日に“強行復帰”。左太ももの状態は完調にほど遠く、本来の左翼守備には就かずDHとしての出場が続いているが、それでもチームは以降5勝0敗1分と息を吹き返し、首位の座に返り咲いた。

現役時代にヤクルト、日本ハム、阪神、横浜(現DeNA)で計21年間捕手として活躍した野球評論家・野口寿浩氏は「現時点で死球を受けた箇所の状態はわかりませんが、中嶋監督にしてみれば、吉田正には試合に出しているだけでだいぶ無理をさせている。その上死球とは、なんてことをしてくれるんだという思いだったのでしょう」と指揮官に同情する。

「打てる打てないだけではない。いるだけでチームが落ち着く。接戦になっても、彼がなんとかしてくれるだろうと思わせる。吉田正はそういう存在です」。そう語る野口氏にも、似た背中を見た記憶がある。阪神時代の同僚で、歴代最長の1492試合連続フルイニング出場の最中にあった金本知憲氏(前阪神監督)だ。

「金本さんは骨折しても試合に出続けたほどで、私の阪神在籍中に欠場したことは1度もありませんでしたが、死球を受けて痛がっているのを見るだけでも、私たちチームメートは不安になったものです。金本さんのいないチーム編成なんて想像もできなかったからです」。そう振り返る野口氏は「今の吉田正はその域まで来ている」と断言するのだ。

山本は「全ての球種が一級品、引き出しの多さが強み」

一方、先発投手の山本は味方打線の大量援護も受け、6回まで無安打1四球の完璧な投球。7回先頭の栗原に遊撃内野安打を許し、ノーヒットノーランとはいかなかったが、9回を115球で乗り切り得点を許さなかった。

破竹の13連勝。野口氏は「単に調子がいいだけでは、これほどの連勝はできない。全ての球種が一級品で、この球種の調子が悪い時はあの球種を主体にすればいい──という引き出しの多さが強みです」と指摘。この日は、主にストレート、フォーク、カーブの3種類で相手を翻弄。「私が数えた限りでは、カットボールは5~6球、スライダーは2球程度でした。この2つの調子が悪かったわけではなく、投げる必要がなかっただけです」と野口氏は言う。

「大量リードにも関わらず最後まで投げさせたということは、中嶋監督には今のところ、登板間隔を詰めて山本に無理をさせるつもりはない」と分析。その上で「この大接戦が最後の最後まで続き、優勝を左右する大一番となれば、インターバルに関わらず山本に先発してもらうことは当然ありうる」と付け加えた。

残りはわずか16試合。吉田正と山本の投打2枚看板が牽引するオリックスは、四半世紀ぶりの優勝に到達することができるだろうか。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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